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16.胸の痛み
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私がこの世界に来てから1か月程が経った。
毎日図書館で文字の読み方を勉強していた甲斐があり、漸く本を読めるようになってきた。
それが嬉しくて私は夢中で本を読み漁っていた。
気付けば数時間経っていた…なんてこともあり、今もまさにそんな状態だった。
「また…夢中になっちゃった…。でも漸く本を読める様になって嬉しいな…」
私は誰もいない図書室でぼそりと独り言を呟くと、昼食を忘れていたことに気付いた。
思い出すと一気にお腹が空いて来て、私は食堂へと向かう事にした。
基本的に朝と昼は一人で食事を摂っている。
バルがその事を使用人に伝えてくれているので、食堂に行き声を掛ければ食事を用意してくれる。
なんとも楽な生活をしていた。
本当にこれでいいのかな…と度々思い、バルに相談してみたら自分が呼んだのだから、もてなすのは当然だと言われてしまった。
それに今の私には文字を読むという目標があったので、申し訳なさを感じてはいたけど、その好意に甘えさせてもらうことにした。
私がそんな事を考えながら廊下を歩いていると、奥から僅かだがバルの声が聞こえてきた様な気がした。
(……バル…?)
普段ならこの時間のバルは自室か執務室にいるはずだ。
この通路はバルの部屋とは逆方向だったため、一度は気のせいかな…?と思った。
しかし私が進んで行くに連れて、その声が間違いなくバルのものである事に気付くと、私は声のする方へと視線を向けた。
(……あの部屋からだ…)
どうしてこんな所にいるんだろう?
一度考えるとどうしようもなく気になってしまい、足が声の方角へと向いていた。
進んで行くと部屋の扉が僅かに開いていて、どうやらそこから声が漏れていた様だった。
だからと言って会話を盗み聞きしてしまうのは悪いと思い、一度は通り過ぎようとしたのだが…中から若い女性の声が響いて来ると、私は思わず足を止めてしまった。
(女の人の声…?誰だろう……)
その声は聞き覚えの無いものだった。
高めの声で、そこからは気品さを伺える。
恐らく貴族であるのは間違い無いだろう。
バルはこの離宮には滅多に人が来ないと言っていた。
私は1か月程ここで暮らしているが、今まで来客なんて見たことが無かった。
それに女の人の声…。
(……少しだけ…見る位なら…いいよね…)
私は我慢できず扉の端からそっと室内を覗き込んだ。
私が室内に視線を巡らすと、中央にあるテーブルを挟み向かい合うように二人は座っていた。
バルと向かい合うように座っていたのは銀髪のしなやかな髪に紫の瞳をした、綺麗な容姿の女性だった。
年齢は私よりも少し上くらいだけど、妖艶さを感じさせる様な美人だ。
(……綺麗な人、バルとはどういう関係なんだろう…)
二人は何やら親しそうに話していて、時折お互い微笑み合っている様に見える。
そしてバルはその女性の事を『リゼ』と呼び、彼女は『バル』と呼んでいた。
それを見てしまうとただならぬ関係であることが分かってしまい、胸の奥がもやもやとし苦しくなった。
私はいたたまれない気持ちになり、静かに扉の前から離れると、曇った表情を浮かべその場を後にした。
(……見なければ良かった…)
***
あんな場面を見てしまった所為か、食事をする気にもなれず私は自室へと帰っていた。
私の脳裏には二人が仲良く話す姿が何度も蘇る。
それを思い出す度に胸の奥がチクチクと痛む。
二人は美男美女で誰が見てもお似合いだと思う。
私はここに来てからずっとバルの傍に居て、バルはいつでも私に優しく接してくれた。
……だけど、それはきっと私が異世界から来た特別な存在だったから…。
一度はバルと体を重ねてしまったけど、あれは私から言い出したことだ。
あれ以来バルは一切私には触れてこない。
それを考えれば答えなんてすぐに出てくるはずだ…。
それなのに私は『もしかしたら…』なんてどこかで期待していた。
「……ばかだな…私…」
胸の奥が熱くなり、私の目からは涙が滲んでいた。
指で拭うと、そのままベッドに寝転がった。
毎日図書館で文字の読み方を勉強していた甲斐があり、漸く本を読めるようになってきた。
それが嬉しくて私は夢中で本を読み漁っていた。
気付けば数時間経っていた…なんてこともあり、今もまさにそんな状態だった。
「また…夢中になっちゃった…。でも漸く本を読める様になって嬉しいな…」
私は誰もいない図書室でぼそりと独り言を呟くと、昼食を忘れていたことに気付いた。
思い出すと一気にお腹が空いて来て、私は食堂へと向かう事にした。
基本的に朝と昼は一人で食事を摂っている。
バルがその事を使用人に伝えてくれているので、食堂に行き声を掛ければ食事を用意してくれる。
なんとも楽な生活をしていた。
本当にこれでいいのかな…と度々思い、バルに相談してみたら自分が呼んだのだから、もてなすのは当然だと言われてしまった。
それに今の私には文字を読むという目標があったので、申し訳なさを感じてはいたけど、その好意に甘えさせてもらうことにした。
私がそんな事を考えながら廊下を歩いていると、奥から僅かだがバルの声が聞こえてきた様な気がした。
(……バル…?)
普段ならこの時間のバルは自室か執務室にいるはずだ。
この通路はバルの部屋とは逆方向だったため、一度は気のせいかな…?と思った。
しかし私が進んで行くに連れて、その声が間違いなくバルのものである事に気付くと、私は声のする方へと視線を向けた。
(……あの部屋からだ…)
どうしてこんな所にいるんだろう?
一度考えるとどうしようもなく気になってしまい、足が声の方角へと向いていた。
進んで行くと部屋の扉が僅かに開いていて、どうやらそこから声が漏れていた様だった。
だからと言って会話を盗み聞きしてしまうのは悪いと思い、一度は通り過ぎようとしたのだが…中から若い女性の声が響いて来ると、私は思わず足を止めてしまった。
(女の人の声…?誰だろう……)
その声は聞き覚えの無いものだった。
高めの声で、そこからは気品さを伺える。
恐らく貴族であるのは間違い無いだろう。
バルはこの離宮には滅多に人が来ないと言っていた。
私は1か月程ここで暮らしているが、今まで来客なんて見たことが無かった。
それに女の人の声…。
(……少しだけ…見る位なら…いいよね…)
私は我慢できず扉の端からそっと室内を覗き込んだ。
私が室内に視線を巡らすと、中央にあるテーブルを挟み向かい合うように二人は座っていた。
バルと向かい合うように座っていたのは銀髪のしなやかな髪に紫の瞳をした、綺麗な容姿の女性だった。
年齢は私よりも少し上くらいだけど、妖艶さを感じさせる様な美人だ。
(……綺麗な人、バルとはどういう関係なんだろう…)
二人は何やら親しそうに話していて、時折お互い微笑み合っている様に見える。
そしてバルはその女性の事を『リゼ』と呼び、彼女は『バル』と呼んでいた。
それを見てしまうとただならぬ関係であることが分かってしまい、胸の奥がもやもやとし苦しくなった。
私はいたたまれない気持ちになり、静かに扉の前から離れると、曇った表情を浮かべその場を後にした。
(……見なければ良かった…)
***
あんな場面を見てしまった所為か、食事をする気にもなれず私は自室へと帰っていた。
私の脳裏には二人が仲良く話す姿が何度も蘇る。
それを思い出す度に胸の奥がチクチクと痛む。
二人は美男美女で誰が見てもお似合いだと思う。
私はここに来てからずっとバルの傍に居て、バルはいつでも私に優しく接してくれた。
……だけど、それはきっと私が異世界から来た特別な存在だったから…。
一度はバルと体を重ねてしまったけど、あれは私から言い出したことだ。
あれ以来バルは一切私には触れてこない。
それを考えれば答えなんてすぐに出てくるはずだ…。
それなのに私は『もしかしたら…』なんてどこかで期待していた。
「……ばかだな…私…」
胸の奥が熱くなり、私の目からは涙が滲んでいた。
指で拭うと、そのままベッドに寝転がった。
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