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15.庭園でのティータイム②

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「そう言えばシロがここに来てから1週間程になるけど、庭園に行くのは初めてだったね」
「うんっ…!だからすごく楽しみで…」

私は声を弾ませ、楽しそうに答えた。

庭園の入口はまるでトンネルの様に何本ものアーチが続き、それを囲うように色とりどりの薔薇と深い緑が絶妙なバランスで配置させられている。
その景色が視界に入って来ると、思わず目を奪われてしまう。
そこは私のいた世界では中々味わうことの出来ない空間である事は明らかで、まるでおとぎ話の世界に迷い込んだかのような光景がそこには広がっていた。

「すごい素敵…!本当に異世界に来たみたい…」
「ふふっ、シロにそこまで喜んでもらえるのなら、もっと早くに連れてくれば良かったね…」

私は目を輝かせ、落ち着きがない様子で辺りを楽しそうに見渡していた。
こんなの心が弾まないわけが無い…!

そして奥に進むと開けた場所に出て、白色の丸テーブルと椅子が置かれていた。
その近くには使用人がいてお茶の準備をしている様子だった。

私はバルと手を繋いだままでいることを思い出し、慌てる様にぱっと手を離した。

「シロは本当に恥ずかしがりだな…」
「……っ…」

バルは手を剥がされて少し残念そうにはしていたが、仕方が無いなと納得している様子でほっとした。

「シロ、お茶の準備が出来ているから椅子に座って…」
「うん…」

私達が席に着くと、使用人がテーブルに置かれているカップにお茶を注いでくれた。
用意されているカップにも薔薇が描かれていて、とても素敵だった。

(本当におとぎの国に来たみたい……)

テーブルには焼き立てのお菓子も並べられていて、香ばしいいい匂いが漂っていた。

「シロの喜ぶ顔が見れるのなら、毎週ここでお茶をしようか…」
「毎日でもいい位かも…」

思わず本音が漏れてしまうと、バルは可笑しそうに笑い出した。

「ふふっ、本当にシロはここが気に入ったんだね。僕も出来る事なら毎日シロの喜ぶ顔が見たいけど、最近は色々とやる事が溜まっていてね…。毎日は流石に厳しいかな…」
「今の忘れてくださいっ…、思わず言ってしまっただけなので…」

申し訳なさそうな表情で話すバルを見ていると、逆に申し訳なくなってしまい私は慌てる様に答えた。

「それじゃあ、週に2回にしようか…。それなら僕も都合が付けられそうだよ…」
「でも…忙しかったら無理はしなくて大丈夫だよ…」

「ふふっ、それなら無理にはならないから問題はないよ。それにシロとこうやって一緒に休憩していた方が、心が落ち着くからね」
「……ありがとう…」

バルにそんな風に言われてしまうとなんだか恥ずかしく感じてしまい、私の頬は僅かに赤く染まっていく。
そんな表情をバルは見逃さなかった。

「シロは本当にすぐ顔を染めるね…。本当に可愛らしい人だ…」
「……っ……」

そんな事を言われると更に私は照れてしまい、顔の奥に熱が籠っていくのを感じていた。
私が恥ずかしそうにしている姿をバルは満足そうに眺めていた。

(バル…可愛いって言いすぎだよ…。お世辞はたまにでいいのに……。じゃなきゃ…勘違いしそうになる…)


バルは昼間は自室にこもり執務を行っている為、昼間は殆ど会う事が無い。
だけど夕食はいつも一緒にとるようにしてくれている。
きっと私にはこの世界で頼れる人間が居ないから、寂しくない様にと気を遣ってくれているのだろう。

バルは王子だけど、気兼ねなく私に話しかけてくれてとても話しやすい。
そんなバルが傍にいてくれるから、私はそこまで不安を感じないで済んでいるのかもしれない。
私はそんなバルに本当に感謝をしている。
だから何かお礼をしたいと思っていたけど…私に出来る事なんて何かあるのだろうか…。

「あ…そうだ…」
「どうしたの…?」

「バル…今度私がお菓子を作ってもいい…?」
「え…?」

私は趣味で良くお菓子作りをしていたことを思い出した。
そして作った物をこのお茶の時に振る舞えば、バルは喜んでくれるのではないかと思いついた。

「だ…だめかな…?」
「シロはお菓子が作れるの?」

「うんっ、私家では良く作ってたんだよ…、趣味でだけど…。だから…良かったらバルに食べてもらえたら嬉しいな…とか思ったんだけど…」

私は思いつきで言い始めてしまったが、よくよく考えたらここにはプロの料理人がいる。
そんな相手に勝てるわけがないし、食べて微妙とか思われたら私がへこんでしまうかもしれない。

「やっぱり…」
「嬉しいよ、シロが作ったお菓子…食べてみたいな」

「ほ…本当に…?でも…口に合わないかもしれないよ…?」
「シロが僕の為に作ってくれたものなら、なんだって嬉しいよ…」

(なんて…優しい人なんだろう…)

バルの言葉を聞くと、胸の奥がじーんと熱くなった。
それでいて本当に嬉しそうに話している姿を見て私はドキドキしてしまった。

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