上 下
12 / 29

12.異世界召喚

しおりを挟む
「シロの寛大な心、感謝するよ…。まずはどうしてシロをこの世界に呼んだのか…から話させてもらうね」
「……うん」

バルは静かに優しい口調で話し始めた。

「僕達がいるこのエーレンベルク大国というのは世界ではそれなりに力を持った国だ。どうしてその力を保持出来るのか…、それは数百年前からある力に頼っているからなんだ…」
「ある…力…?」

「この世界には『聖女』と呼ばれる存在がいる。彼女が祈る事で、どんな外敵からも守れる強固な結界を作り上げることが可能なんだ。我が国エーレンベルクもその聖女の結界のおかげで、この何百年平和を守り続けることが出来ていると言っても過言ではない…。逆に聖女の力が消えれば、この国はあらゆる外敵から狙われることになる。外敵と言うのは…敵国や魔物…それに伝染病や…干ばつ、嵐など…天候面なども含め様々だ……」

バルの話を聞いて『聖女』と呼ばれる存在がこの国を、如いてはこの世界を守っている存在なのだと言う事は十分に分かった。
この世界は私が知っている世界とはだいぶ異なる世界だと言う事を理解した。
聖女や魔物と言う単語が出てくると、まるでファンタジー世界の様に感じてしまう。
私はそんな世界に来てしまったと言う事なのだろうか…。

「聖女って大事な存在なんだね…」
「そうだね…。この国には必要不可欠な存在であるのは間違いないね。聖女に選ばれる人間は特殊な能力を生まれた時から身に着けている…。例えば傷を瞬時に癒す力だとか…、魔物を浄化させてしまう力とかね。人によって使える能力は様々だけど、大国を守るだけの力を持つ聖女は早々に見つけることは出来ない…。だけど国を守るために絶対に探し当てなくてはならない存在なんだ…」

「いなければ…国が滅んでしまう可能性もあるから…?」
「うん…、そうなんだ。だけど、それでもどうしても見つからない場合はある特殊な方法を使って呼ぶことになる。異世界召喚術を使って、違う世界から強引に呼び寄せる方法だ…。だけどこれは召喚する方に大分犠牲が伴うから最終手段だけどね…」

バルの言葉を聞いて私は嫌な予感を感じた。
鼓動がバクバクと早くなり、表情も曇り始めていく。

(まさか…それって……)

「ここまで話せば察しはついているかな…。シロは聖女としての素質を持っていて、いずれこの国に必要とされる存在になる…」
「わ…私にそんな力はありませんっ…!」

私は慌てる様にすぐさま言い返した。

私はただの女子大生で、そんな世界を救うような大それた力なんて持っているわけがない。
これは何かの間違えなのでは無いかと思った。

「こんな事を突然言われたら驚くのも当然だよね…。だけど間違いなく…シロはこの国を救うだけの聖女としての素質を持っている。…残念だけど、それは事実なんだ。でもね…、僕はシロの事を絶対に国の道具になんてさせるつもりはない…」
「……え?」

「聖女として認められてしまえば、一生この国に祈りを捧げなければならなくなる。自由なんてものは無いも同然だ。自分の意思とは別に良くも知らない国に突然呼ばれ、その挙句…国の為に一生を捧げろなんて馬鹿げた話だよね。だけどそれを強制的に強いられることになる…」
「……いやっ…、そんな…」

バルの話を聞いていると恐怖心が芽生え、私は泣きそうな顔で首を横に振った。
今すぐにでもここから逃げ出したいはずなのに体が震えているせいか動かない。

「僕だってそんな目には二度と合わせたく無い。その為にシロをここに呼んだんだ…。シロをこの国から守るために…ね」
「それは…どういうこと…?」

私が不安そうな顔でバルに視線を向けると、バルは優しく微笑んでいた。

「シロをエーレンベルク大国の聖女には絶対に僕がさせない。そうならない様に…既に手は打ってある…。ここは王宮からも離れているし僕は王子ではあるけど…嫌われた存在だからね。滅多に人が寄り付く事も無いから安心して…」
「……私の事…守ってくれるの…?それなら…元いた世界に…返して…」

「シロ…ごめんね。それは出来ない…。もし可能だとしても、いずれシロは我が国の連中に見つかり再び召喚されることになるだろう…」
「どうして…そう言い切れるの…?」

私がむっとした顔でバルを睨みつけると、バルは悲しそうな表情を浮かべていた。
その顔を見ると胸の奥がなんだか傷んでしまう。

「僕はね…、一度この世界を見て来ているんだ。こんな事を言っても信じてもらえるか分からないけど、僕にとってはこの人生は二度目になる。最初の人生で僕は大事なものを国に奪われた…、守りたかったけど…力不足でそれは叶わなかったんだ……」

バルは悔しそうに表情を歪ませていた。
その顔を見ていると、バルが言っていることが嘘だとは思えなかった。

もしここが異世界だと言うのであれば、バルの言ってる話だって有り得ない話ではないだろう。
すでに現実離れした事ばかり聞いていたので、私は多少の事では驚かなくなっていたのかもしれない。

「僕の母の家系は代々聖獣使いの血を引いていてね…僕もその血を受け継いでいる。母が亡くなった後、僕はすぐに母が契約していた聖獣と契約を結び直した…。それが母の願いでもあったからね…。この血を途絶えさせない様に…。この力があったからこそ、僕は過去に戻ることが出来たんだ…」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレお兄様に殺されたくないので、ブラコンやめます!(長編版)

夕立悠理
恋愛
──だって、好きでいてもしかたないもの。 ヴァイオレットは、思い出した。ここは、ロマンス小説の世界で、ヴァイオレットは義兄の恋人をいじめたあげくにヤンデレな義兄に殺される悪役令嬢だと。  って、むりむりむり。死ぬとかむりですから!  せっかく転生したんだし、魔法とか気ままに楽しみたいよね。ということで、ずっと好きだった恋心は封印し、ブラコンをやめることに。  新たな恋のお相手は、公爵令嬢なんだし、王子様とかどうかなー!?なんてうきうきわくわくしていると。  なんだかお兄様の様子がおかしい……? ※小説になろうさまでも掲載しています ※以前連載していたやつの長編版です

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

レンタル彼氏がヤンデレだった件について

名乃坂
恋愛
ネガティブ喪女な女の子がレンタル彼氏をレンタルしたら、相手がヤンデレ男子だったというヤンデレSSです。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

【本編完結】副団長様に愛されすぎてヤンデレられるモブは私です。

白霧雪。
恋愛
 王国騎士団副団長直属秘書官――それが、サーシャの肩書きだった。上官で、幼馴染のラインハルトに淡い恋をするサーシャ。だが、ラインハルトに聖女からの釣書が届き、恋を諦めるために辞表を提出する。――が、辞表は目の前で破かれ、ラインハルトの凶悪なまでの愛を知る。

盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹
恋愛
事故で盲目となってしまったローナだったが、その時の衝撃によって自分の前世を思い出した。 思い出してみてわかったのは、自分が転生してしまったここが乙女ゲームの世界だということ。 さらに転生した人物は、"ラスボス令嬢"と呼ばれた性悪な登場人物、ローナ・リーヴェ。 彼女に待ち受けるのは、嫉妬に狂った末に起こる"断罪劇"。 そんなの絶対に嫌! というかそもそも私は、ローナが性悪になる原因の王太子との婚約破棄なんかどうだっていい! 私が好きなのは、幼馴染の彼なのだから。 ということで、どうやら既にローナの事を悪く思ってない幼馴染と甘酸っぱい青春を始めようと思ったのだけどーー あ、あれ?なんでまだ王子様との婚約が破棄されてないの? ゲームじゃ兄との関係って最悪じゃなかったっけ? この年下男子が出てくるのだいぶ先じゃなかった? なんかやけにこの人、私に構ってくるような……というか。 なんか……幼馴染、ヤンデる…………? 「カクヨム」様にて同名義で投稿しております。

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

処理中です...