無職でしたがヴァンパイア城の城妖精になれました。主様は吸血不全の落ちこぼれだったので再教育が必要みたいです

蟻の背中

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お城妖精のお仕事日報及び雑記

月光の呪い②

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「お、おまえ、ま、魔力を使っているなっ!!」

「え?」

「こ、こんなに、か、身体が動かなくなって、鼓動が早くなることなんか、おかしい、そんなことあるかっ?!!」

 リアムはシリシアンの艶々と潤む瞳を右手で隠した。

 シリシアンは自分の目の前にかざされたリアムの手をそっと握る。

「魔力なんか」

「は? じゃあ、これなんだよ、ヴァンパイアの力だろ、絶対!!」

「……」

 シリシアンは掴んだリアムの指先に短いキスをして手を離した。

「!!」

「月にかかる虹を見たら、1週間以内に死ぬ呪いにかかるんだ」

「え?!嘘だろ??そんなことあるわけ……それとこれと」

「呪いをとくには誰かのキスが必要なんだ」

「だから、そんなの嘘に決まってる!!」

「リアムへの呪いは解いた、僕の呪いを解いて」

「え?!」

「手でもいいし、オデコでもいい」

「い、嫌だね!!絶対そんな嘘には付き合わない!」

「リアム……僕が死んでもいいんだね」

「一生言ってろ」

 シリシアンは深くため息をついて、背もたれに身を任せた。

「まぁ、いいか。どうせ僕は長く生きるつもりもないし」

 リアムもまた背もたれに身を沈め胸の前で腕を組んで外を見た。

 馬車は林の中を走る。
 月には雲がかかり先程の景色から一辺して鬱蒼として暗かった。

 まさか、本当にそんな呪いが存在するのか?そんな話聞いたことがない。

 でも、本当だったら?
 ここはダークホラーファンタジー王国じゃないか。リアムは途端に不安になった。

 もし、その呪い話が本当で1週間で死ぬなら?!シリシアンは死にたがってる、それが少し早まるだけだし。
 でも、待てよ。
 自分はどうなる?
 こんな好条件と、せっかく慣れた職場を手離すのか?

 そんなことを悶々と考えている間に馬車は城の門をくぐり、乗車した場所へと戻ってきた。

「あ、どうぞここからは、上から帰ってください」

 リアムは城を見上げた。

「え、でも」

「このくらい、自分だって飛べますから」

「……うん、そうか。でも」

「いいから早く行って、夜が明けます」

「分かったよ。じゃあ、また明日の夜に、おやすみリアム」

 シリシアンはフワッと浮いて飛びあがる。

 城の入り口は尖った円錐屋根の下あたりにある、くり貫かれた穴の入り口のように見える丸い窓と、それ以外にはあの迷路のような地下通路だけだった。

 シリシアンが丸い窓から下を覗きリアムを心配そうに見ている。

 リアムは早く行けと言うようにシリシアンへ手を振った。

 シリシアンは頷いて、リアムとは違う思いやりのある手の振り方をしてから、城のなかへと消えた。


 執事用の制服は羽を持つもの専用の仕立になっている。シャツ、ベスト、上着、どらもその羽の運動と機能を損なわないよう出来ている。

 シャツの背部分の生地がなかったり、ベストとジャケットの背は翅の位置で縦に割れていたりする。
 リアムの翅は常に外へ出ているから、いつでも飛行が可能なのである。

 パタパタと翅を動かし準備運動をする。

 途中、途中、石壁につかまって休みながら行けばきっと大丈夫だろう。

 リアムは聳える壁を見上げ、つかまり休めそうな場所を探し目測する。

「よし、行くぞ」

 リアムは力一杯背中の翅を動かした。

 翅はゆっくり、そして徐々に速くなる。

 ブーンという低い羽音とともに、リアムは上を目指し飛び上がった。

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