無職でしたがヴァンパイア城の城妖精になれました。主様は吸血不全の落ちこぼれだったので再教育が必要みたいです

蟻の背中

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お城妖精のお仕事日報及び雑記

月虹の呪い①

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「リアム、そろそろ帰るよ」

 机に突っ伏して寝ていたリアムの肩をシリシアンが優しく叩いた。

 リアムは頭を起こし寝ぼけた顔でリアムを見上げる。

「あー、はい。もう夜明けですか……」

 結局、文字を追っている間に睡魔がやってきて、リアムは寝てしまった。

 シリシアンは夜明け前には城へ戻り、棺に入らなければならないし、リアムは棺の鍵を守らなければならない。

 守るといっても、首から鍵を下げ、好きなことをして過ごしてかまわない。城から出さえしなければまず安全だ。

「ねぇ、この本持って帰っちゃだめ?」

 リアムはそう聞く前に、すでにその大きくて厚い本を両腕でしっかり抱えこんでていた。

 シリシアンは苦笑してリアムの手から本を取り上げた。

「あ」

 リアムは口をとがらせムッとした顔でシリシアンを見る。

「これは流石に重いでしょう。文字の本なら僕の部屋の書棚にもある。子供の頃に使っていたやつが残っているはずだ」

「そう? なら早く言えってば。さ、急がないと夜が開けて灰になっちゃうぞ」

 リアムはシリシアンを置いてさっさと部屋を出ていった。

「待ってよ、リアム」

 この場面を見たものがいたら、シリシアンの方が従者だと思ったことだろう。


「ねぇ、どうしてこの国はずっと夜じゃないの?」

 帰りの馬車のなかで、リアムは隣に座っているシリシアンへ訊ねた。

「え、それは、僕にもわからないけど……」

「ずっと夜ならいいのにね。そうしたら死に怯えなくてすむじゃんか。こんな鍵もいらない」

 リアムは鍵のあたりに自分の手を当てた。シリシアンはリアムが自分のことをそんなに考えていてくれたのかと感動を覚えたが、次に続いた言葉に落胆する。

「ああ、それか。それがあのおばさんの言っていた対価なんだ。そのぐらいないとずるいもんね」

「え、……そうだね。あまりにも完璧すぎるのは敵を増やすだけかもしれない、か」

「……あ、もしかして、昼を好むヴィランもいるのか。そりゃそうか。いろんな種族がいるもんな、影に住んでるやつもいるくらいだし」

 シリシアンは、リアムのとまらないおしゃべりを時々頷きながら聞いている。

「あ、ねぇ!!」

 リアムが突然大きな声を出し、窓の外を指差した。

「虹だよ!月に虹がかかってる!!」

「虹?」

 シリシアンはリアムの頭の横から夜空を見上げた。

「あー、ほんとうだ。綺麗だね。月にかかる虹を見ると……」

シリシアンがそこで言葉を飲んだ。

「え、なぁに? なにか良い言い伝えとか?……!!」

そこで勢い良く顔を横に向けたリアムは、思ったよりもすぐ間近にあったシリシアンの顔に驚き固まってしまう。

月あかりに照らされたシリシアンの肌は白く輝き、長い睫の下の瞳は艶々で、ローズ色の唇は柔らかな微笑みを含んでいた。

「あ」

突然の美の暴力に言葉を失ったリアムはただただシリシアンの顔を眺める。

「リアム、キスをしようか」

窓の外を見ていたシリシアンがリアムを真正面から見つめた。

へ、突然、何を言ってるんですか?!リアムは耳を疑って目を見開く。

「な、な、な!!」

リアムの左手にシリシアンの右手がのる。温かなその手が触れた瞬間、リアムの心臓は内側から自身の胸を激しく叩いた。

さらに近づいてくるシリシアンの顔。

「嫌?」

こんなに近くで他人の顔を見たことなんかない。ほんとうに綺麗、と見惚れていたリアムが、ふと我にかえった。
き、キスとは??
あれか、あれのことを言っているのか??
口と口いや、唇と唇が触れて、あ、唇?
シリシアンのあれが、自分の唇に、ここに、や、や、まって。

「まてぇええ!!」


✳✳(;´゚д゚)ゞヒーー!!

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