12 / 39
お城妖精のお仕事日報及び雑記
棺の上で考える
しおりを挟む日没からきっかり1時間後、リアムはシリシアンの寝室にいた。
窓ひとつ明かり取りさえない、四方を壁に囲まれた真っ暗な部屋。
これは、この城全体に共通する作りである。
どの部屋にも窓はなく四方は壁だ。
外へ面していない内側にのみ扉が設けてある。
城への出入りは地下のトンネルか塔のてっぺんの見張り台のみ。
つまり、太陽の光と外界の敵を防ぐために大分怖がって、いや充分に考慮して築いた城なのだ。
一般人には最悪の居住環境ということで間違いない。
仕事の話に戻ろう。
まず、たくさんある蝋燭に火を灯さなければならないが、これくらいのことは、リアムの妖力でも出来ることだった。
ポンポンポン、と指パッチンで蝋燭に火を灯していく。
するとぼんやり部屋全体が見渡せる明るさになる。
四方の壁は葡萄色、金色の筆で蔦の葉が描かれている。
その壁に蝋燭の火影が揺れる。
少しカビ臭いな……。
地下の部屋は放っておくと湿度でカビが生えやすくなる。
後でカビ取り妖精達を連れて来なくてはいけないか。
カビ取り妖精はフワフワの綿毛のような毛で覆われている。
カビが大好物でしかも綺麗好きな連中である、が、時々やり過ぎて壁まで食らってしまうので、注意しなければならなかった。
リアムには、フワフワカビ食らい、という名で呼ばれている。
リアムは棺の傍らに立った。
棺は寝室の中央に鎮座し、金色の鎖でグルグルと巻かれている。
まず、この鎖の鍵穴へ鍵をさす。
沢山ある鍵束から、これという鍵を選ぶのも、もう慣れたものである。
鎖を木の箱へしまい、いよいよ棺の鍵を開ける時だ。
棺は直方体の箱形で黒い漆でピカピカに仕上がっている。
胸の辺りに、蝙蝠と髑髏をあしらった紋章のレリーフが施されていて、煌びやかな輝きを放ち威厳がある。
棺の鍵は純金製、大きな金剛石がひとつ、その周りをぐるりと丸い紅玉が囲む。
これまたピカピカ光って目が眩む。
リアムはピョコンと棺の上に座り、首からぶら下げたこの鍵を暫し眺める。
このままこれを持って逃げようか、幾度となく繰り返し何度も考えている。
いや、もうなんならこれを預かったときから、ずっとだ。
隣のファンタジー王国で売ったら、どれだけの妖力が買えるだろう。
もう少し翅は大きくて立派になるだろうし、シリシアンのような綺麗な白い指先に変えられるかもしれない。
「おーい」
リアムのお尻の下から声がする。
「おーい、リアム、そろそろ開けてはくれないかな?」
おっと忘れていた。
リアムは棺の鍵穴へ鍵を差し込む。
ガシャン、と歯車が回る重厚な音がする。
「随分時間がかかったね」
棺の蓋を押し上げて黒いガウン姿のシリシアンが起き上がる。
ミルクティ色の髪に散々な寝癖をつけ、腕には古臭い焦げ茶色のテディベアをしっかりと抱いている。
「おはようございます、シリシアン様」
リアムは鍵を胸元にしまい、背筋を伸ばすと深々とお辞儀をした。
今日もなんとか悪い誘惑に打ち勝ったリアムなのだった。
**(*´ω`*)なんか、目が眩むんすよ
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

神になった私は愛され過ぎる〜神チートは自重が出来ない〜
ree
ファンタジー
古代宗教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教、仏教…人々の信仰により生まれる神々達に見守られる世界《地球》。そんな《地球》で信仰心を欠片も持っていなかなった主人公ー桜田凛。
沢山の深い傷を負い、表情と感情が乏しくならながらも懸命に生きていたが、ある日体調を壊し呆気なく亡くなってしまった。そんな彼女に神は新たな生を与え、異世界《エルムダルム》に転生した。
異世界《エルムダルム》は地球と違い、神の存在が当たり前の世界だった。一抹の不安を抱えながらもリーンとして生きていく中でその世界の個性豊かな人々との出会いや大きな事件を解決していく中で失いかけていた心を取り戻していくまでのお話。
新たな人生は、人生ではなく神生!?
チートな能力で愛が満ち溢れた生活!
新たな神生は素敵な物語の始まり。
小説家になろう。にも掲載しております。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる