無職でしたがヴァンパイア城の城妖精になれました。主様は吸血不全の落ちこぼれだったので再教育が必要みたいです

蟻の背中

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お城妖精のお仕事日報及び雑記

棺の上で考える

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 日没からきっかり1時間後、リアムはシリシアンの寝室にいた。

 窓ひとつ明かり取りさえない、四方を壁に囲まれた真っ暗な部屋。

 これは、この城全体に共通する作りである。

 どの部屋にも窓はなく四方は壁だ。
 外へ面していない内側にのみ扉が設けてある。

 城への出入りは地下のトンネルか塔のてっぺんの見張り台のみ。

 つまり、太陽の光と外界の敵を防ぐために大分怖がって、いや充分に考慮して築いた城なのだ。

 一般人には最悪の居住環境ということで間違いない。



 仕事の話に戻ろう。

 まず、たくさんある蝋燭に火を灯さなければならないが、これくらいのことは、リアムの妖力でも出来ることだった。

 ポンポンポン、と指パッチンで蝋燭に火を灯していく。

 するとぼんやり部屋全体が見渡せる明るさになる。

 四方の壁は葡萄色、金色の筆で蔦の葉が描かれている。

 その壁に蝋燭の火影が揺れる。

 少しカビ臭いな……。

 地下の部屋は放っておくと湿度でカビが生えやすくなる。

 後でカビ取り妖精達を連れて来なくてはいけないか。

 カビ取り妖精はフワフワの綿毛のような毛で覆われている。
 カビが大好物でしかも綺麗好きな連中である、が、時々やり過ぎて壁まで食らってしまうので、注意しなければならなかった。

 リアムには、フワフワカビ食らい、という名で呼ばれている。


 リアムは棺の傍らに立った。

 棺は寝室の中央に鎮座し、金色の鎖でグルグルと巻かれている。

 まず、この鎖の鍵穴へ鍵をさす。

 沢山ある鍵束から、これという鍵を選ぶのも、もう慣れたものである。

 鎖を木の箱へしまい、いよいよ棺の鍵を開ける時だ。

 棺は直方体の箱形で黒い漆でピカピカに仕上がっている。

 胸の辺りに、蝙蝠と髑髏をあしらった紋章のレリーフが施されていて、煌びやかな輝きを放ち威厳がある。

 棺の鍵は純金製、大きな金剛石がひとつ、その周りをぐるりと丸い紅玉が囲む。

 これまたピカピカ光って目が眩む。

 リアムはピョコンと棺の上に座り、首からぶら下げたこの鍵を暫し眺める。

 このままこれを持って逃げようか、幾度となく繰り返し何度も考えている。

 いや、もうなんならこれを預かったときから、ずっとだ。

 隣のファンタジー王国で売ったら、どれだけの妖力が買えるだろう。

 もう少し翅は大きくて立派になるだろうし、シリシアンのような綺麗な白い指先に変えられるかもしれない。


「おーい」

 リアムのお尻の下から声がする。

「おーい、リアム、そろそろ開けてはくれないかな?」

 おっと忘れていた。

 リアムは棺の鍵穴へ鍵を差し込む。

 ガシャン、と歯車が回る重厚な音がする。


「随分時間がかかったね」

 棺の蓋を押し上げて黒いガウン姿のシリシアンが起き上がる。

 ミルクティ色の髪に散々な寝癖をつけ、腕には古臭い焦げ茶色のテディベアをしっかりと抱いている。


「おはようございます、シリシアン様」

 リアムは鍵を胸元にしまい、背筋を伸ばすと深々とお辞儀をした。


 今日もなんとか悪い誘惑に打ち勝ったリアムなのだった。


 **(*´ω`*)なんか、目が眩むんすよ
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