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初恋と命運
懐友(かいゆ)
しおりを挟む「それにしても、壮観な景色だったよね」
梵天は刀を抱いたまま、にんまり笑っている。
「壮観な景色?」
椿は梵天の陰から実央の顔をチラチラ見ながら言った。
「だってね、神獣と呼ばれる方々がお三人も勢揃いしたんですよ!こんなの滅多に見られるもんじゃあ、ないでしょう?!」
「そうなの?高天原でも??」
「ねぇ、高天原ってさ、僕や君らみたいな平々とした凡人には、遠い遠い宇宙並みに遠いところって分かってくれる?」
「宇宙飛行士でもない私が木星に行くより非現実的だって意味ね、なら良くわかった」
「翼獣の臥鐵さん、彼はホントにレアキャラ。それから白龍神の楽鬼さん、そして白大虎の千寿大師匠、いやぁ、あんな豪華な並びはなかなか」
「……試験、……た?」
「え?」
そこで、唐突に実央が口を開くが、声が小さ過ぎて椿まで届かない。
「今日、本命の試験じゃなかった?」
梵天が代わりに伝えた。
「地震で午後の試験は後日あらためてってなった」
「千寿……?」
「千寿先生と一緒に来たのはどうして?」
また梵天がスピーカー代わりになる。
「あ、それは、試験会場の窓からカッコ良く飛行する顛さんと臥鐵さんを見かけて、それでこっちの方からとてつもなく嫌な感じの黒い雲がぐわぁってなってて、で、走っていたら、空から大虎の千寿先生に声かけられた、ねえ、聞いて!!」
椿の大きな声に、梵天と実央が驚いて彼女の方を見た。
「千寿先生の背中ってば、フワフワのフカフカで高級ソファに高級な毛皮乗せたみたいな、そりゃもう全部がラグジュアリーな感じで、思わず寝そうになっちゃった」
「へ、え」
梵天は呆れ顔で椿を一瞥すると、立ち上がった。
「どこ行くの?!」
「これしまって、ヨル先生の怪我の具合を見に行く」
「わかったちょっと待って」
椿は息を整えるように深呼吸を二回した。
「ごめんなさい!!」
再び椿が大きな声を発した。
「なんか、全部がごめんなさい!!私のせいで、きっとずっと嫌な思いばっかりさせたと思うし、でも、なんていうか、これは私の勝手な気持ちで、と、とも、友達だったから、あ、そうだ」
そこで椿はまた息を整える。
「忘れていてごめん!!全部思い出したのヒロくんのこと。「鈴の家」で初めて会ってから、事故の日までのこと。全部が、絶対に忘れちゃいけないことだったのに……それで、だから」
「俺も忘れてたから」
今度は普通の音量で椿までしっかり聞こえた。
「え、あ、……そう、か」
「変わっちゃって、つ、つーちゃんが、あ、いや、橘さん、が。俺が覚えていたの子供の頃だったから」
「うん、写真も何もない。あのキラキラカードひとつだけだった、ヒロくんとの思い出。……あのさ、つーちゃんて呼んでくれない?前みたいに。私もヒロくん、て呼びたいから」
「え、あ、そうか。うん、じゃあ、何年かぶりに呼んでみます、呼びます。つ、つ、つーちゃん?」
「はい」
ぽんっ!
「あれ?」
「だからさぁ、なんで僕に抱きつくの???」
梵天がアヤカシの姿に戻り椿の腕のなかから消える。
「え?だって、なんかこそばゆいってなって、ヒロくんには抱きつけないし……ひっ!!何を言ってるんだ!!わ、私」
「え?」
「え?!」
二人は顔を見合せ戸惑う。
「待って、ボンボン!」
椿はソファから下りようとする梵天の尻尾を掴み損ねる。
「もう、いいでしょう。後は二人で話してよ。こっちまで背筋がもぞもぞ痒くなっちゃうって」
梵天は刀を金庫にしまい部屋を出ていった。
「……あのさ」
「……あの、」
また同時に声が出る。
「ど、どうぞ先に」
「あ、いや、つ、つーちゃんから先に言って、どうぞ」
「ありがとう。病院で一緒にいてくれて」
「あ、たまたま、通りかかっただけで、ほんとに。救急車呼んだのは俺じゃないし、連れていったのも救急車と隊員の人で診てくれたのはお医者さんで、看護師さんと、それからお母さんが……」
「何か言った?お母さんが」
「……いや、別になにも」
「そう。何か言われたとしても、ヒロくんは悪くないから気にしないでほしい」
「うん……気にしてない」
「え?」
「あ、いつも世間一般的な常識の範疇で言われていることだから。いちいち気にはしない、それに」
「……」
「そこは、俺が変われば良いことだから」
「変わる?」
「だから、ここに来てる」
「そう……どうして、ここにいるんだろうって思ってた」
「自分の現実と向き合わないと、これから先の道は決められない、と思ったから」
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