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再会と初雪

告白

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 停留所にバスがとまった。
 扉が目の前で開き暖かい空気が流れてくる。

「来たよバス」

 わかっている、そう言いたげな目を実央に向け椿は更に続けた。

「助手をしているの、そこで」

 実央はバスに乗るつもりはなかったが、椿が一向に乗車する素振りを見せないので仕方なく先にタラップを踏んだ。

 実央がバスに乗ると、椿もその後を追いタラップを上がってバスに乗る。

 早朝のバスに他の乗客の姿はない。
 実央が一番後ろの座席を目指し移動しかけたところでバスが発車した。
 その勢いで椿は一歩二歩とよろめき実央の背中へと倒れこむ。実央は瞬間的に椿の手を取り彼女の背中を支えた、ふたりは向き合い至近距離で刹那見つめ合った。

「あ、ごめん」

 先に謝ったのは実央だった。
 傍らの座席に椿を座らせ、自分は一番後ろの窓側の席に座る。

 椿は後ろを向き物言いたげな目で実央を追った。
 実央はそのまま窓の向こうを眺め椿には目もくれない。

 バスが信号で停まると、椿は急いで実央の隣の座席へ移動した。

「避けてる?」

「学校の近くじゃん」

「だからなに?」

「お嬢様学校の生徒が、俺みたいなのと早朝から一緒じゃまずいだろ」

「そんなの関係ない、誰もいないし」

「そうだけど」

「避けないでよ、傷つく」

 椿は前を向き悔しそうに呟いた。

「そんなつもりじゃなくて、ごめん」

「まだ話の途中だから、着くまで聞いて欲しい」

 実央は車窓を流れる景色を眺め黙った。

「小さい頃からああいうモノが見えるの。でも、他の人には見えない『鈴の家』が火事になって、その後からだった」

 実央は椿の口から『鈴の家』という言葉が出たことに驚き思わず椿の横顔を見た。

「鈴の家?」

「児童養護施設、私、6歳までそこにいたから」

「火事があった?」

「竜巻でグシャグシャになって、その後火がついて燃えたんだって」

 実央は生唾を飲み込むと震える手をジャンバーのポケットに入れそれを隠した。

「初めてだから、同じモノを一緒に見られる人と会ったの」

 椿は嬉しそうに、無邪気な笑顔を実央に向けた。

「死んだんだ」

「え?」

「そこで人が死んだ」

「そう、なの? それは初めて聞いたけど」

「女の子が……」

「私、その火事の日のことも『鈴の家』での記憶も曖昧で、よく覚えてないの」

 そこで「次は白百合女子学園高校前」とアナウンスが入り、実央は降車ボタンを強く押した。

「連絡先を?またゆっくり話が……」

「スマホ、持ってない」

 嘘だ、ちゃんとポケットに入っているはず。
 椿は実央のそんな態度を流して鞄を開ける。

「そう、なんだ。じゃあちょっと待って」

 椿は学生鞄からペンケースを取り出すと、付箋に自分の名前とSNS のアカウントを急いで記した。

「連絡してくれたら嬉しい、もしなかったらまた押し掛けるかも」

 バスがとまり扉が開いた。

 差し出したメモを受け取る様子のない実央はポケットに両手を突っ込んだままだ。

 椿は苦笑し、実央の袖に付箋を貼り付けた。

「今日は、会えて嬉しかった」

 バスを下りた椿は実央を見送り手を振った。

 が、実央はそれを無視して袖に貼られた付箋をクシャクシャに丸めポケットへ突っ込んだ。



「新入りね?」

『鈴の家』の所庭の隅で、実央は居心地悪そうに身を縮め立っていた。

 そう声をかけられ、顔をあげると色白の少女がニコニコと屈託ない様子で微笑んでいた。

「一緒に遊ぶ?」

 実央は答えずに下を向き、手に持っているゲームのカードを意味もなく見つめた。
 ここの、何もかもが嫌だった。
 早く家に帰りたかった。

「鬼ごっこしよー!」

 少女が実央の手からカードを奪って逃げた。

「あ、返して!!」

 実央は少女の後をすぐに追いかけたが、小さいくせに意外にすばしっこくなかなか追い付けない。
 そのうち、実央の息が上がり追うのを諦めた。

「なんだ、つまんない。追いかけてこないなら、鬼ごっこにならないじゃない」

 少女はジャングルジムの上から実央を見下ろしケラケラ笑っている。

 実央はジャングルジムの一段目に上り少女へ手を伸ばした。

「ねぇ!」

「綺麗ね、ピカピカ光っていて」

 少女は手の中でカードを傾けたり、陽に向けたりして、都度見え方が変わる絵柄に興味津々な様子だった。

「かえして!!」

「ここまで来て」

 少女は自分の座っている、一番てっぺんの横棒を指し示した。

 実央は仕方なく、ゆっくり一段一段確かめながら登り、少女の向かい側の棒へ手をかけた、そこでふと下を見てしまい、高さへの恐怖に手足がすくんだ。

「もうちょっと」

 少女の手が目の前に差し出された。
 実央はその手を取って少女の隣まで登りきった。
 少女は満足そうに笑ってカードを返した。

「見て、今日は満点!」

 少女が指差した方向を見ると、そこからは街が一望できた。

 地平線には沈み始めた太陽が見える。

 夕日はあらゆるものをオレンジオ色に染め、少女と実央もその色のなかに飲み込まれた。

「なんて名前?」

「すずきみひろ」

「みひろ?」

「うん」

「わたしの男にしてあげる」

「え??」

「だって、イケメンでかっこいいから」

「え???」


☆☆☆

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