8 / 51
再会と初雪
制服
しおりを挟む「椿、帰りにコンビニ付き合ってよ」
帰る支度を終え席を立った椿の腕に彩季の腕が絡まる。
「またクジ? 」
「うん。今度こそ1等が当たりますように! 」
「学校の前の? 」
「そこはあんまりだから、駅の方に行きたいんだ」
「いいよ」
「やった、いこいこ」
学校から駅までは、歩けば20分の距離だ。
コンビニはその途中にも何店舗かあったが、二人は学校前のバス停からバスに乗った。
そして終点ひとつ手前の停留所で降り、目的の店へ行く。
「いらっしゃいませぇ」
女性店員の、若干イントネーションの外れた日本語で迎えられる。
彩季がレジでクジを引いている間、椿は店内を歩いた。
お菓子やデザートの棚を眺めてから、雑誌コーナーで立ち止まり、ファッション誌に手を伸ばす。
「おはようございます」
店員がやや詰まった発音で挨拶するのが耳に入る。
「おはようございます。お疲れ様です」
もう夕方なのにおはようございますって、変な挨拶だな、椿は何気なく声のした方へ顔を向けた。
入り口から、すらっとした学生風の男性が入ってきて、椿の後ろを通り過ぎていった。
「え」
椿の手から持っていた雑誌が滑り落ちた。
「あの人……」
「あの人がなに? 」
椿が落とした雑誌を彩季が拾い上げた。
「え? 」
椿は大きな瞳をさらに丸くして彩季を見た。
「え? 」
彩季は椿の真似をするように目を見開いた。
「金髪アッシュの彼、めちゃイケメンだったね」
彩季が店の奥の扉を指差した。
「へっ? 」
「ちょっと待ってようか。すぐに出てくると思うよ」
「ええ?! と、ちょっと待って何言ってるのかわからない、んですけど」
「雑誌落とすぐらい見とれてたくせに」
「え? いや違う、そうじゃなくて」
「ああいう人タイプだった? 塾の五十嵐先生みたいな爽やか好青年が良いって言ってたのに」
「そ、そ、そ」
椿はぎこちなく笑い、彩季の手から雑誌を取り上げ棚へ戻した。
「クジ、どうだった? 」
「あー、4等だった。まぁまぁ? ほら」
彩季は四角い箱から皿を出して椿に見せた。
皿には彩季の好きなキャラクターが大きな口で笑っているイラストが印刷されている。
「かわいい、 良かったね、かわいい……」
椿は皿にちらりと目をやってから、彩季の手首を掴み引っ張った。
「もう、行かなきゃ」
椿は彩季を引っ張り店から出ていく。
「なに、急に慌てて」
「五十嵐先生で思い出した。今日塾の特講だったの忘れてた」
「そうなの? 」
「ごめん、もう行くね 」
「そうだっけ?! 」
「あ、お皿良かったね、おめでとう! 」
椿は彩季に向かって手を振ると満面の笑みと共に後ずさる。
「あ、ありがとう……また明日」
椿は彩季に背を向け駅へ向かって走った。
そして、駅構内へ入ると柱の後ろに身を潜め隠れた。
そこから彩季が駅とは反対の方向へと歩いて見えなくなるのを見送り、彼女の姿が完全に消えたのを見届けてから、先程のコンビニへ引き返した。
間違いなかった。
忘れもしない、ひと月前に電車越しに目を合わせた彼だった。
また会えた!!
しかもこんなに近くにいたなんて!!
さっきから心音がありえない早さで鳴っている。
偶然の再会に気持ちがたかぶっていた。
とはいえ、すぐに声をかけられるような性格ではなかった。
彩季なら何の抵抗もなく声をかけるだろう。
彼が自分の事を覚えているわけがないし、声をかけるにしても、いったい何て言えばいい?
自分の勘違いなら、ただの変人で終わる。
目が合った?
たまたまだったかもしれない、そもそも自分の思い込みだった可能性は?
ただの勘違い、ではないだろうか。
高まっていた気持ちが今度は急に萎んで自信が失われていく。
彩季を呼ぼうか。
彼女なら上手く話してくれるかも。
いや、待て、何を上手く話すんだ?
あの日、変な物見ませんでしたか?
って、馬鹿っぽいし彩季は何も知らないし、見えないし、説明すら出来ないのに。
やっぱり自分でなんとかするしかない。
そもそも、こんな込み入った話が彩季には出来ないから彼女を遠ざけたのだ。
椿はコンビニの外から店内の様子を伺った。
彩季の言うとおり、彼は長Tの上にコンビニの制服を重ね着した格好でレジの向こうに立っていた。
目深にキャップを被っているので表情はよく見えない。
胸のネームプレートには「すずき」というひらがな名が見てとれた。
鈴木さんか。
彼はレジで接客したり、商品を棚へ並べたり、スナックフードを調理したり、と忙しそうだった。
ふと、店内の時計が目に入った。
もう、7時を過ぎていることに慌てた。
椿はもう2時間以上もコンビニの外にいる。
今日はやめておこうか、でも店を辞めちゃったら? そもそも、いつもは違うバイトの今日だけのヘルパーかも。
だったら次もここで会えるとは限らないし。
と、憂慮だけが逞しく大きくなってなかなか踏ん切りがつかない。
徐々に萎んでいく気力に疲れ始めた頃、暗い空から大粒の雨が落ちてきた。
椿は店の僅かな軒先の下で身を縮めた。
「誰か待ってるの? 」
☆☆☆
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
世界的名探偵 青井七瀬と大福係!~幽霊事件、ありえません!~
ミラ
キャラ文芸
派遣OL3年目の心葉は、ブラックな職場で薄給の中、妹に仕送りをして借金生活に追われていた。そんな時、趣味でやっていた大福販売サイトが大炎上。
「幽霊に呪われた大福事件」に発展してしまう。困惑する心葉のもとに「その幽霊事件、私に解かせてください」と常連の青井から連絡が入る。
世界的名探偵だという青井は事件を華麗に解決してみせ、なんと超絶好待遇の「大福係」への就職を心葉に打診?!青井専属の大福係として、心葉の1ヶ月間の試用期間が始まった!
次々に起こる幽霊事件の中、心葉が秘密にする「霊視の力」×青井の「推理力」で
幽霊事件の真相に隠れた、幽霊の想いを紐解いていく──!
「この世に、幽霊事件なんてありえません」
幽霊事件を絶対に許さない超偏屈探偵・青木と、幽霊が視える大福係の
ゆるバディ×ほっこり幽霊ライトミステリー!
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

大神様のお気に入り
茶柱まちこ
キャラ文芸
【現在休載中……】
雪深い農村で育った少女・すずは、赤子のころにかけられた呪いによって盲目となり、姉や村人たちに虐いたげられる日々を送っていた。
ある日、すずは村人たちに騙されて生贄にされ、雪山の神社に閉じ込められてしまう。失意の中、絶命寸前の彼女を救ったのは、狼と人間を掛け合わせたような姿の男──村人たちが崇める守護神・大神だった。
呪いを解く代わりに大神のもとで働くことになったすずは、大神やあやかしたちの優しさに触れ、幸せを知っていく──。
神様と盲目少女が紡ぐ、和風恋愛幻想譚
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない
ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。
既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。
未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。
後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。
欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。
* 作り話です
* そんなに長くしない予定です
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる