文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

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第3幕 巫女は秘密を抱いたままで

バルフの巫女

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イルファンとバルフの国境には、荒野が広がっている。

常に乾いた風が吹き荒び、人々から生気と希望を奪うような場所であるから、わざわざそこに根を張り生きようとする者はいない。

今はその場所に幾つかのゲルが置かれていた。


イルファンの攻撃に備えたバルフ軍であった。


先頭を走っていたスラオシャが馬の速度をゆるめやがて止まる。
一旦後ろを振り返り、後続の馬車が止まるのを確認して馬から下りる。

馬車の手綱を握っていたユージンは黒い幕で覆われた荷台へ声をかけようとしたが、すぐに諦めた。

荷台からはダリアンの号泣がまだ続いていた。



ダリアンは黒い布が被せられた棺にすがって泣いていた。

泣いたところで、自分のせいでミーナを犠牲にしてしまったこと、この現実を変えることなど出来ないこと、それを知りながらやはり泣くしかない自分に対する嫌悪感。



兵士を従えたアデルが荷台の幕を開くとダリアンは棺にすがり肩を震わせていた。

「姉上……」
「アデル……私のせいです、全て……」

ダリアンは顔をあげ赤く腫れた目でアデルを見た。

「……、父上が待っています」

「ミーナを1人にしたくない」

ダリアンは棺を優しく撫でている。


「あの、良ければ私が側にいますから」

その言葉で、アデルはその場にいるツキの存在を初めて知った。

ツキは荷台の隅で、道中ずっと嘆き悲しむダリアンの背中を見ていた。

「異国の巫女様……」

アデルはツキヘ向け礼儀正しくお辞儀をした。
ツキも軽く頭を下げる。

「姉上、ここは彼女に任せて、さぁ」

アデルは荷台へ上がりダリアンの手を引いた。


ダリアンはふらつきながら荷台から下りると、後ろを振り返った。

棺を眺め、次にツキに目をやった。


「ミーナをお願いします。本当は臆病で、誰よりも寂しがりなんです」

「……はい」

ツキが答えても、ダリアンは名残惜しそうに棺を見やり、幕が閉じるまで何度も振り返った。




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