文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

文字の大きさ
上 下
76 / 117
第2幕 聖なる巫女の千一夜

甘い誘惑は嘘を隠す

しおりを挟む



「バルフの王女様が庶民にお願いなんかするのか?」
「王女だと思っていないクセに」
「いや立派な王女様だ。配慮のない言動、傲慢な思考、それから奔放で無鉄砲」
「ええ、全てを褒め言葉として受け取っておきます」 
「利己的な理解力、の追加」
「では、率直に言います。雨が止んだらあなたの馬を貸して欲しいんです……どうしても今夜までにバルフに戻りたいの」
「俺に歩いて行けと?」
「まぁ、それはとても心苦しいんだけど、今は国と国との重大な局面にあるわけだから、多少の奉仕や犠牲は仕方ないのでは?」

ユージンが目尻に皺を寄せ笑った。

「わかった馬はやる。その代わり欲しいものがある」
「ええ、何でも言ってみて。今は無理でもバルフに戻ったら必ず用意させるから」
「では、まず彼女を外に」

ユージンがミーナをちらりと見た。

「ミーナを?」
「駄目です」

ミーナが厳しい顔で首を横にふる。

「外は雨が……」
「雨はやんだ」

いつのまにか屋根を叩く雨の音がしなくなっている。

「馬が欲しいんだろ?」
「わかりました……ミーナは外へ」
「……何かあったらすぐにお呼び下さい」

ミーナは外套を羽織り、心配そうな顔をダリアンに向けてから、小屋を出ていった。

「さぁ、欲しいものとは何ですか?」

ユージンはダリアンの顔をじっと見つめた。
ダリアンもその碧い瞳から目をそらせなくなり、ユージンが距離を縮め徐々に近付いてきてもそのまま動かなかった。
ダリアンは自分の鼓動の早まりに驚き、今まで感じたことのない感情に戸惑ったが、拒もうとは思わなかった。
ユージンの指がダリアンの髪に触れ首筋を伝い頭を支えた。

「欲しいのは……」

ダリアンは瞼を閉じて次に続く言葉と彼を待った。



「大変です!!」

ミーナが勢いよく扉を開けて小屋へ戻ってきた。ダリアンは慌ててユージンから離れる。

「イルファンの兵士達……」

ミーナは2人のただならぬ雰囲気に一瞬静止したが、直ぐに駆け出してユージンからダリアンを引き離すように引っ張った。

「さぁ、王女様!」

ユージンは外套を脱ぎ、自分の破れたシャツを眺めるがすぐに諦めたように袖を通した。

「馬は先払いにしておく、要求はこの次に」

ユージンはミーナの手から剣を奪い、外套をダリアンの肩へかけると外へ出た。
ダリアンは急いでラジャバードを懐に入れた。

「あの道を進めば沙漠に出る」

ユージンは馬1頭がやっと通れそうな小道を剣の先で示した。
 
「ユージン」
「心配するな。追われているのは俺だ、さぁ行け」

ミーナが手綱を持つのを見てから、ユージンは馬の尻を叩いた。
                             




作業用BGM  GFRIEND―Apple
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

転生騎士団長の歩き方

Akila
ファンタジー
【第2章 完 約13万字】&【第1章 完 約12万字】  たまたま運よく掴んだ功績で第7騎士団の団長になってしまった女性騎士のラモン。そんなラモンの中身は地球から転生した『鈴木ゆり』だった。女神様に転生するに当たってギフトを授かったのだが、これがとっても役立った。ありがとう女神さま! と言う訳で、小娘団長が汗臭い騎士団をどうにか立て直す為、ドーン副団長や団員達とキレイにしたり、旨〜いしたり、キュンキュンしたりするほのぼの物語です。 【第1章 ようこそ第7騎士団へ】 騎士団の中で窓際? 島流し先? と囁かれる第7騎士団を立て直すべく、前世の知識で働き方改革を強行するモラン。 第7は改善されるのか? 副団長のドーンと共にあれこれと毎日大忙しです。   【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?  ※誤字脱字マジですみません。懲りずに読んで下さい。

【完結】悪役令嬢が可愛すぎる!!

佐倉穂波
ファンタジー
 ある日、自分が恋愛小説のヒロインに転生していることに気がついたアイラ。  学園に入学すると、悪役令嬢であるはずのプリシラが、小説とは全く違う性格をしており、「もしかして、同姓同名の子が居るのでは?」と思ったアイラだったが…….。 三話完結。 ヒロインが悪役令嬢を「可愛い!」と萌えているだけの物語。 2023.10.15 プリシラ視点投稿。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

処理中です...