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第2幕 聖なる巫女の千一夜
甘い誘惑は嘘を隠す
しおりを挟む「バルフの王女様が庶民にお願いなんかするのか?」
「王女だと思っていないクセに」
「いや立派な王女様だ。配慮のない言動、傲慢な思考、それから奔放で無鉄砲」
「ええ、全てを褒め言葉として受け取っておきます」
「利己的な理解力、の追加」
「では、率直に言います。雨が止んだらあなたの馬を貸して欲しいんです……どうしても今夜までにバルフに戻りたいの」
「俺に歩いて行けと?」
「まぁ、それはとても心苦しいんだけど、今は国と国との重大な局面にあるわけだから、多少の奉仕や犠牲は仕方ないのでは?」
ユージンが目尻に皺を寄せ笑った。
「わかった馬はやる。その代わり欲しいものがある」
「ええ、何でも言ってみて。今は無理でもバルフに戻ったら必ず用意させるから」
「では、まず彼女を外に」
ユージンがミーナをちらりと見た。
「ミーナを?」
「駄目です」
ミーナが厳しい顔で首を横にふる。
「外は雨が……」
「雨はやんだ」
いつのまにか屋根を叩く雨の音がしなくなっている。
「馬が欲しいんだろ?」
「わかりました……ミーナは外へ」
「……何かあったらすぐにお呼び下さい」
ミーナは外套を羽織り、心配そうな顔をダリアンに向けてから、小屋を出ていった。
「さぁ、欲しいものとは何ですか?」
ユージンはダリアンの顔をじっと見つめた。
ダリアンもその碧い瞳から目をそらせなくなり、ユージンが距離を縮め徐々に近付いてきてもそのまま動かなかった。
ダリアンは自分の鼓動の早まりに驚き、今まで感じたことのない感情に戸惑ったが、拒もうとは思わなかった。
ユージンの指がダリアンの髪に触れ首筋を伝い頭を支えた。
「欲しいのは……」
ダリアンは瞼を閉じて次に続く言葉と彼を待った。
「大変です!!」
ミーナが勢いよく扉を開けて小屋へ戻ってきた。ダリアンは慌ててユージンから離れる。
「イルファンの兵士達……」
ミーナは2人のただならぬ雰囲気に一瞬静止したが、直ぐに駆け出してユージンからダリアンを引き離すように引っ張った。
「さぁ、王女様!」
ユージンは外套を脱ぎ、自分の破れたシャツを眺めるがすぐに諦めたように袖を通した。
「馬は先払いにしておく、要求はこの次に」
ユージンはミーナの手から剣を奪い、外套をダリアンの肩へかけると外へ出た。
ダリアンは急いでラジャバードを懐に入れた。
「あの道を進めば沙漠に出る」
ユージンは馬1頭がやっと通れそうな小道を剣の先で示した。
「ユージン」
「心配するな。追われているのは俺だ、さぁ行け」
ミーナが手綱を持つのを見てから、ユージンは馬の尻を叩いた。
作業用BGM GFRIEND―Apple
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