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第2幕 聖なる巫女の千一夜
雷鳴は畏れを連れてやってくる
しおりを挟むミーナが扉を叩くが返事はない。扉を開き中を覗いた彼女はダリアンを呼んだ。
「誰もいませんが、ここでひとまず雨宿りをしましょう」
馬を繋ぎ小屋に入ると緊張が解けたダリアンはすぐに座り込んだ。
ミーナはダリアンの外套を脱がせ剣を外した。
絨毯も腰当ても何もない、砂だらけの床だったが、雨を凌げ疲れた体を休めることが出来るだけでも有り難かった。
ミーナが暖炉に薪を入れ火をつけると、ラジャバードがダリアンの懐から抜け出して、火の前で体を伸ばし毛繕いを始めた。
「王女様もっと火の側へ、そのままでは風邪を引きます」
「雨、止むかしら」
「雷の音が近付いてきましたね」
閃光と雷鳴が小屋の真上までやって来た。
ゴロゴロと恐ろしげな音をあげ、強まった雨足が小屋の屋根を激しく叩くようになった。
ラジャバードがダリアンの傍へ近寄り不安そうに彼女を見上げている。
「雷は嫌い」
「誰も好きな人なんていませんよ」
「大きな音でビリビリ響くでしょう?それがもう……ほらっ、ひかった!」
ダリアンは耳を塞ぐ。
その雷鳴とほぼ同時に扉が開け放たれた。
空気を震わせる雷の轟きを背負い、扉に黒い人が立っていた。
「ひゃっ!」
人影に気付いたダリアンが悲鳴を上げた。
ミーナは咄嗟に床に置いた剣を手に取りダリアンを庇うように前へ出た。
「すまないが、暫く雨宿りをさせてもらえないか?」
ずぶ濡れの男が頭から水を滴ながら立っていた。背中に弓を背負っているが矢筒には1本も矢が入っていない。
「駄目です、他をお探しください」
ミーナは凄みのある声できっぱり言うと男を睨んだ。
ミーナは男から雨の匂いと共に血の匂いがするのを嗅ぎとっていた。
「怪しいものではないんだが……」
男は濡れた髪をかきあげ、困ったように笑った。
「ちょっとまって、あなたは……」
ダリアンは男を見て驚く。
バザールで自分を辱しめた隻眼の男がまた目の前に現れたからだ。
「あれ?何故あんたがこんな場所に?」
「王女様、知っている男ですか?」
「気をつけて、こいつは泥棒よ!」
「泥棒?……そういえばあいつに俺の金を返してもらうの忘れたな。泥棒はそっちだろ」
「王女様に向けて聞き捨てのならない言葉です!」
「スィオに、スラオシャに会ったの?!」
「そうか……あんたが持っているのか」
「どこで会ったの、スィオはバルフに無事に着いた?」
「彼の名前はシミズじゃなかったかなぁ。ツキはそう呼んでいたけど……」
「早く答えなさい!」
詰め寄るダリアンを、男は目を細めて見下ろした。
「まずは、俺の金を返してもらうか。ダリアン王女」
作業用BGM EXO-SC―Telephone
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