文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

文字の大きさ
上 下
67 / 117
第2幕 聖なる巫女の千一夜

時は水のように無味ではない

しおりを挟む



「知ったのは少し後だ。あれが第1王子のサウルだと。子供同士の些細な喧嘩の末の事故、それで済まされた」
「完全なる王はひとつの傷もあってはならない」

ダリアンが先に答えると、ギルディールは小さく頷いた。

「国王はそれを利用した。その時の怪我のせいで正当な王位継承権を失い宮殿を追い出された」

他人事とは思えない話だった。
何故ならダリアンもその掟に縛られ、そのせいで苦しんだ者のひとりであったから。
そして、バルフと自分は今、その恐ろしい国王の手の内にあることを改めて思い知った。

逃げよう。

唐突にそんな決意がわいた。
ここを出なくてはいけない。
ここを出てバルフを守らなければいけない。

たとえ魔神がいなくても―――――。


「あの従者は戻ると思うか?」

ギルディールは寝台から下りるとラジャバードを籠へ戻した。

「彼はきっと戻るでしょう。私がここにいる限りは」
「……そうか、では必ず戻ってくるということだな」

ギルディールは部屋の扉を押し開いた。

「どちらへ?」

何も考えず自然に出た言葉だった。

「なんだ、いて欲しいのか?」
「いっ、いいえ。そういう意味ではありません。決して。本当に。結構です……」

ダリアンはしどろもどろで、ギルディールから目をそらした。

「そこまで嫌うこともないだろう。話しすぎて少し疲れた。部屋に戻って休んでくる」
「もちろんでございます。どうぞごゆっくりお休みください。本当にごゆっくり……」
「ああ、そうだ。悪いが外から鍵を掛けさせてもらう」

親切にはしてくれるが、やはり自分達をここから出すつもりはないということか。

「もちろんどうぞ、そのように」
「それから、履き物を用意した。好きなものを履いてくれ」

大きな鏡の前にいくつか履き物が置いてあった。牢に入れられる前に、履き物は没収されていたから2人は今まで裸足だった。

扉が閉まり鍵のかかる音がした。
いつのまにか籠から出て来たラジャバードが、ギルディールを追いかけ扉の前でウロウロと歩いている。

「どうやら、ラジャバードは王子をお母さんだと思っているようですね」
「ミーナ」
「はい」
「私達、ここから逃げなくてはいけません」
「はい。えっ?!……今なんて?」
「逃げるんです」
「逃げるって、どうやって?」
「どうにかして、です」
「ダリアン様、お言葉ですがここから逃げるだなんて、正直無理な話ですし、現実的ではありませんよ。私達には何もないんです。力もないですし、お恥ずかしながら私は足も遅いんです」
「ええ、あなたの足が遅いのは重々承知です」

ダリアンは履き物の中から走りやすそうな作りのものを選んで履いた。




作業用BGM  WooSung―Face
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

最後に言い残した事は

白羽鳥(扇つくも)
ファンタジー
 どうして、こんな事になったんだろう……  断頭台の上で、元王妃リテラシーは呆然と己を罵倒する民衆を見下ろしていた。世界中から尊敬を集めていた宰相である父の暗殺。全てが狂い出したのはそこから……いや、もっと前だったかもしれない。  本日、リテラシーは公開処刑される。家族ぐるみで悪魔崇拝を行っていたという謂れなき罪のために王妃の位を剥奪され、邪悪な魔女として。 「最後に、言い残した事はあるか?」  かつての夫だった若き国王の言葉に、リテラシーは父から教えられていた『呪文』を発する。 ※ファンタジーです。ややグロ表現注意。 ※「小説家になろう」にも掲載。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

婚約破棄で命拾いした令嬢のお話 ~本当に助かりましたわ~

華音 楓
恋愛
シャルロット・フォン・ヴァーチュレストは婚約披露宴当日、謂れのない咎により結婚破棄を通達された。 突如襲い来る隣国からの8万の侵略軍。 襲撃を受ける元婚約者の領地。 ヴァーチュレスト家もまた存亡の危機に!! そんな数奇な運命をたどる女性の物語。 いざ開幕!!

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

魔道王子の偏愛と黒髪の令嬢(ただし、猫です)

有沢真尋
ファンタジー
日夜魔法の研究に明け暮れている第二王子。ついに父王は、すみやかに相手を選んで結婚するよう命じる。 これに反発した王子は、思いを寄せる令嬢がいると黒髪の麗しい少女を連れてくるが……? ※「小説家になろう 」にも掲載あり

デッドエンド済み負け犬令嬢、隣国で冒険者にジョブチェンジします

古森真朝
ファンタジー
 乙女ゲームなのに、大河ドラマも真っ青の重厚シナリオが話題の『エトワール・クロニクル』(通称エトクロ)。友人から勧められてあっさりハマった『わたし』は、気の毒すぎるライバル令嬢が救われるエンディングを探して延々とやり込みを続けていた……が、なぜか気が付いたらキャラクター本人に憑依トリップしてしまう。  しかも時間軸は、ライバルが婚約破棄&追放&死亡というエンディングを迎えた後。馬車ごと崖から落ちたところを、たまたま通りがかった冒険者たちに助けられたらしい。家なし、資金なし、ついでに得意だったはずの魔法はほぼすべて使用不可能。そんな状況を見かねた若手冒険者チームのリーダー・ショウに勧められ、ひとまず名前をイブマリーと改めて近くの町まで行ってみることになる。  しかしそんな中、道すがらに出くわしたモンスターとの戦闘にて、唯一残っていた生得魔法【ギフト】が思いがけない万能っぷりを発揮。ついでに神話級のレア幻獣になつかれたり、解けないはずの呪いを解いてしまったりと珍道中を続ける中、追放されてきた実家の方から何やら陰謀の気配が漂ってきて――  「もうわたし、理不尽はコリゴリだから! 楽しい余生のジャマするんなら、覚悟してもらいましょうか!!」  長すぎる余生、というか異世界ライフを、自由に楽しく過ごせるか。元・負け犬令嬢第二の人生の幕が、いま切って落とされた! ※エブリスタ様、カクヨム様、小説になろう様で並行連載中です。皆様の応援のおかげで第一部を書き切り、第二部に突入いたしました!  引き続き楽しんでいただけるように努力してまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

処理中です...