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第2幕 聖なる巫女の千一夜
時は水のように無味ではない
しおりを挟む「知ったのは少し後だ。あれが第1王子のサウルだと。子供同士の些細な喧嘩の末の事故、それで済まされた」
「完全なる王はひとつの傷もあってはならない」
ダリアンが先に答えると、ギルディールは小さく頷いた。
「国王はそれを利用した。その時の怪我のせいで正当な王位継承権を失い宮殿を追い出された」
他人事とは思えない話だった。
何故ならダリアンもその掟に縛られ、そのせいで苦しんだ者のひとりであったから。
そして、バルフと自分は今、その恐ろしい国王の手の内にあることを改めて思い知った。
逃げよう。
唐突にそんな決意がわいた。
ここを出なくてはいけない。
ここを出てバルフを守らなければいけない。
たとえ魔神がいなくても―――――。
「あの従者は戻ると思うか?」
ギルディールは寝台から下りるとラジャバードを籠へ戻した。
「彼はきっと戻るでしょう。私がここにいる限りは」
「……そうか、では必ず戻ってくるということだな」
ギルディールは部屋の扉を押し開いた。
「どちらへ?」
何も考えず自然に出た言葉だった。
「なんだ、いて欲しいのか?」
「いっ、いいえ。そういう意味ではありません。決して。本当に。結構です……」
ダリアンはしどろもどろで、ギルディールから目をそらした。
「そこまで嫌うこともないだろう。話しすぎて少し疲れた。部屋に戻って休んでくる」
「もちろんでございます。どうぞごゆっくりお休みください。本当にごゆっくり……」
「ああ、そうだ。悪いが外から鍵を掛けさせてもらう」
親切にはしてくれるが、やはり自分達をここから出すつもりはないということか。
「もちろんどうぞ、そのように」
「それから、履き物を用意した。好きなものを履いてくれ」
大きな鏡の前にいくつか履き物が置いてあった。牢に入れられる前に、履き物は没収されていたから2人は今まで裸足だった。
扉が閉まり鍵のかかる音がした。
いつのまにか籠から出て来たラジャバードが、ギルディールを追いかけ扉の前でウロウロと歩いている。
「どうやら、ラジャバードは王子をお母さんだと思っているようですね」
「ミーナ」
「はい」
「私達、ここから逃げなくてはいけません」
「はい。えっ?!……今なんて?」
「逃げるんです」
「逃げるって、どうやって?」
「どうにかして、です」
「ダリアン様、お言葉ですがここから逃げるだなんて、正直無理な話ですし、現実的ではありませんよ。私達には何もないんです。力もないですし、お恥ずかしながら私は足も遅いんです」
「ええ、あなたの足が遅いのは重々承知です」
ダリアンは履き物の中から走りやすそうな作りのものを選んで履いた。
作業用BGM WooSung―Face
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