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第2幕 聖なる巫女の千一夜
宵の風と金緑の瞳
しおりを挟む「お話したいことがございます」
そこへ、1人の兵士が走ってきた。
「王子、お伝えしたいことがございます」
「なんだ、言ってみろ」
「それが……国王様の荷馬車が何者かにより奪われ、積み荷が盗まれました」
「なんだと?」
兵士は頭を深く垂れている。
「積み荷はなんだ?」
「林檎と薔薇でございます」
「母上の沐浴用か。すぐに代わりを用意しろ」
「はい」
「国王に知られるなよ。知られたらお前達の血が沐浴の湯になるぞ」
「はっ、はい」
ギルディールは果物の山から林檎を掴みとった。
「よりによって、母上の林檎に手を出すとは恐れを知らぬ者がいるな」
「目に傷のあるヤツと、聖杯を持った巫女だそうです」
「目に傷?」
ギルディールの表情が一変し、険しい眼差しになった。
「そいつらをすぐに捕らえろ……」
「はい、承知致しました!」
グシャっとギルディールの手の中で林檎が砕けた。
「場合によっては殺してもいい」
目に傷のある男……ダリアンの頭に昨晩バザールであった男の顔がすぐに浮かんだ。
まさか、あいつ?……本当に賊だったとは。
それにしても、聖杯を持つ巫女とはいったい誰のことか。
聖杯はバルフで厳重に保管されているはず、聖杯が2つ存在するのか?
……いや、賊と一緒にいる者などが本物の聖杯を持つわけがない、ましてや巫女であるはずもない。
「聖杯を持った巫女があなた以外にもいるみたいだ」
ギルディールは砕けた林檎を地面に投げ捨て、汚れた手を水の入ったボールで洗った。
「ありえません、騙っているだけでしょう」
「そうだな、確かめよう。おいっ」
ギルディールが、去り際の兵士を呼び止めた。
「はい」
「女の方は殺さず連れてこい」
「承知致しました」
兵士は一礼して走り去った。
「さて、少し邪魔が入ったな。話したいこととは何だ?」
「いいえ、何でもありません。お忘れ下さい」
「……そうか」
牢から出た解放感と、この心地よい風に酔ったのだろうか、ダリアンは危うくこの王子に心の憂いを全て吐き出すところであった。
快活で聡い王子である。将来イルファンという大国を担うに値する器が充分にありそうだ。
その一方で、兵士との会話中に一瞬見せた冷たく暗い表情がダリアンは気になった。
給仕達が料理の膳を次々と置いていった。美味しそうな香りが湯気と共に漂う。
「さぁ、好きなものを」
作業用BGM ZICO―Summer Hate
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