文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

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第2幕 聖なる巫女の千一夜

夜のピクニック

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「影だ!影にやられるぞ!!」
「うっ、うるさい!驚いたじゃないか!!」

ギルディールは掴んでいた手をパっと離し、通路の奥の暗闇へと怒鳴った。

「まったく、ここじゃ落ち着いて話を聞けないな、牢番!」

ギルディールは立ち上がり牢番を呼んだ。

「はい、ご用でございましょうか?」
「鍵を」
「はい?」
「鍵をよこせ」
「しかし、それは……」
「大丈夫だ、母上はこんな所に来たりはしない」

ギルディールは牢の鍵を開け、ダリアンとミーナを外へ促した。

「こんな場所ではゆっくり話を聞けないからな」


牢獄から続く螺旋階段をぐるぐると上り、2人は塔の上へと案内された。
外の新しく清らかな空気を胸いっぱいに吸い込み、生き返った気持ちになる。
塔の上には見張りの兵士がいたが、ギルディールはその前を堂々と過ぎ、隣の塔へと繋がる天空の通路を進んで行った。

通路を渡りきると、円形の庭が現れた。
中央には柳の木があり、若草色の葉が落陽の余韻に輝き、揺れていた。

柳の下に高座敷が設けられ、極彩色の厚い絨毯が敷かれている。

「こっちへ」

ギルディールに案内され、2人は座敷へと上がった。幾つも置かれた腰当ての前には、山盛りの果物や多様な菓子が並べられている。

「今日は天気が良いな」

そこからは城下の街並みが一望出来た。
オレンジ色の灯りがポツポツと見える。
日が落ちてまだ間もないようで、絨毯にはまだ日の温もりがあった。

「さぁ、話を続けてくれ」

ミーナが側に用意されている碗にお茶を注いだ。湯気から薔薇とカルダモンの香りが立ち上り、清々しさに心が安らいだ。

スィオはどうしただろうか。
もう、国境近くまでは行っただろうか。
父上とアデルにこの事が伝われば、バルフはすぐに兵を用意し、イルファンを迎え打つ準備を始めるだろう。

「どうした、浮かない顔だな。あの牢よりもずっと快適だと思うが」

ダリアンはあらためてギルディールの顔を見た。王の間では乱暴な暴君、牢では臆病な子供、そして今は大国の王子ではなくごく普通の20歳そこそこの青年の顔をしている。
ギルディールは座敷の手摺に、伸ばした右腕を預け、一方の手で茶を啜っていた。
短い黒髪にミルク色の肌、オリーブ色の艶めく瞳がダリアンを真っ直ぐに見ている。
さすが、近隣諸国一の美女と噂されるアリアナ国王の息子だけあり、母譲りの美貌は目を引くものがある。

「ひとつお話ししたいことがございます」

ダリアンは決意を込めた目でギルディールを見た。

それは、庭のあちこちに松明の火が灯され始めた頃だった。




作業用BGM  V―Sweet Night
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