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第2幕 聖なる巫女の千一夜
影のない男②
しおりを挟むジャンガは結婚式の朝、雇い主の娘と馬小屋にいました。そしてこんなことを言われました。
「実は父から気になることを聞きました」
「なんでしょうか?」
「以前のあなたはよく仕事を休み、怠けてばかりいたと」
「まあ、そんな頃もありましたが、今は心を入れかえて、真面目にやっています。だから安心して下さい」
ジャンガは胸を張って答えました。
「そうですね、あなたは毎日欠かさず手紙を下さるような誠実な方ですもの」
「手紙?」
そういえば影のヤツが雇い主に毎日手紙を渡していたが、あれは彼女への手紙だったのか。
「あなたがいつも手紙の最後に書いてくれた言葉、それを今聞かせて下さい」
さて困りました。彼女へ毎日手紙を書いていたのは影の方です、もちろん内容を知りません。ジャンガは何を言えばいいのかわかりませんでした。おそらく愛しているだの何だのそんな事だろうと思いました。
「口に出して言うのは恥ずかしいなぁ」
ジャンガはそう言ってごまかしました。
「恥ずかしいことなんてありません、私達2人きりじゃないですか」
「まぁ、そうだが……」
「さぁ、早く言って下さい」
困ったな、ここで変な事を言って機嫌でも損なったら面倒だ。ここは一時的に影と替わるとしよう。ジャンガはこっそり影を呼び、自分は影になりました。
「私の愛しい人、私はジャンガの影だ」
「愛しいジャンガの影、本当にあなたね?」
「ああ、そうだ。さあ、早く私の教えた呪文を唱えてくれ」
「わかりました」
娘は隠し持っていたナナカマドの杖を空へ振り上げました。
「……影は光に、光は影に。光には自由、影は闇へ」
呪文を唱え、その杖で影を突き刺しました。
「何をする!」
ジャンガは杖のせいで、地面に張り付いたまま動けなくなりました。
「私が愛しているのは影のジャンガです。あなたではありません」
「ありがとう愛しい人」
ジャンガになった影が雇い主の娘を抱き寄せました。
「全てあなたが手紙で教えてくれた通りにしました。さあ行きましょう。結婚式が始まります」
「お前達、通じ合っていたんだな!待て、俺はどうなるんだ!」
ジャンガになった影と雇い主の娘は、地面に張り付いたジャンガなど見向きもせず行ってしまいました。
「おい待て、戻ってこい!」
その時、影のジャンガの真上でロバが「アーーー」と大きな声で鳴きました。
そしてロバがナナカマドの杖を蹴飛ばしました。
その時ちょうど、ジャンガの影はロバの影と重なり合っているところでした。
ダリアンの話は終わりました。
「影だ!!そうだ影だ!!」
突然、闇の奥から叫び声が聞こえた。
「うわっ!!」
「王子……様?」
ギルディールはその嗄れた声に驚いて、ダリアンの袖を柵越しに掴んでいた。
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