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第2章 巫女は聖なる盃を掲げ
銀色の月が壊れるとき
しおりを挟む「ツキも行くか?」
面倒くさい。
正直、もうクタクタで眠かった。
「行ってもいいよ、俺は1人で大丈夫」
少年が犬でも追い払うかのように手を振った。
「誰も心配してないって……よいしょっ」
私は立ち上がりユージンの後に続いた。
石を積んだだけの簡単な井戸は村共通のようで、側には食器や野菜が入ったカゴが置いてある。
ユージンが井戸の中へつるべを落とすとポチャンっと良い音がした。
手早く引き上げ、桶に貯めていく。
「さぁ、これを着てください。脱いだものは洗っておきますから、ここへ入れて置いてくださいね」
「自分で洗いますから大丈夫です」
「息子の血がついてますから……すみません」
少年を担いだ時に着いたんだろう、赤く汚れているところがあった。
「夜のうちに干して置けば朝には乾きますから」
「すみません、ありがとうございます」
「では、良くお休み下さい」
ユージンはきちんとお辞儀して、お母さんを見送った。
私は岩の上に座りぼんやり星空を眺めた。
プラネタリウムみたい。
大量の星がチラチラ輝いている。
ふと自分の足を見ると、えっ、裸足?!
爪先まで砂で真っ白だ。
足の裏を確認すると細かい擦り傷が幾つか見える。小石踏んで痛いとか、何か踏んでキモいとかまったく感じなかったけどな。
「さぁ、こんなもんでいいか」
その声でハッとする。
ウトウトして意識が飛んでたみたい。
見れば桶は水でいっぱいになっている。
ユージンが着替えの入ったカゴを持ち上げ小脇に抱えた。
「何処に行くの?」
「そこの川で洗ってくる。丸ごと」
ユージンはニカッと笑い、自分を指した。
「洗ったほうがいいんだろ?」
村の前に小さな小川があったっけ。
私達はそこにかかった橋を渡って村に入ってきた。
「あっ、これ」
私は持っていたランプの明かり(本物)を指さした。月明かりはあるけど足元が暗い。
「必要ない。先に戻ってていいから」
「うん……」
「こんなにたくさん……」
汲んでくれたのか、水。
私のために。
「あっ、これも」
ユージンが何かを投げて寄越した。
赤い物体が飛んできて桶の中にチャポンと落ちた。
浮かんでいるのはリンゴだった。
「カゴに入ってた」
偽物みたいに艶々で赤い。
美味しそう。
桶の中に月が映って揺れている。
林檎を指先で弾くと銀色の月が弾けて壊れた。
そんなふうに遊んでいてふと思い出した。
私、いつまでここにいるんだろう。
このまま寝たら、次に目を覚ましたときにはこの夢から覚めているんだろうか?
「ツキ、ツキ?」
上裸のユージンがうっすら開いた私の視界に立っていた。
ああ、濡れ髪と割れた腹筋がセクシーダイナマイト破壊力抜群だよ……。
作業用BGM IU―Into Tha I―LAND
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