文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

文字の大きさ
上 下
31 / 117
第2章 巫女は聖なる盃を掲げ

銀色の月が壊れるとき

しおりを挟む



「ツキも行くか?」

面倒くさい。
正直、もうクタクタで眠かった。

「行ってもいいよ、俺は1人で大丈夫」

少年が犬でも追い払うかのように手を振った。

「誰も心配してないって……よいしょっ」

私は立ち上がりユージンの後に続いた。

石を積んだだけの簡単な井戸は村共通のようで、側には食器や野菜が入ったカゴが置いてある。
ユージンが井戸の中へつるべを落とすとポチャンっと良い音がした。
手早く引き上げ、桶に貯めていく。

「さぁ、これを着てください。脱いだものは洗っておきますから、ここへ入れて置いてくださいね」
「自分で洗いますから大丈夫です」
「息子の血がついてますから……すみません」

少年を担いだ時に着いたんだろう、赤く汚れているところがあった。

「夜のうちに干して置けば朝には乾きますから」
「すみません、ありがとうございます」
「では、良くお休み下さい」

ユージンはきちんとお辞儀して、お母さんを見送った。
私は岩の上に座りぼんやり星空を眺めた。
プラネタリウムみたい。
大量の星がチラチラ輝いている。
ふと自分の足を見ると、えっ、裸足?!
爪先まで砂で真っ白だ。
足の裏を確認すると細かい擦り傷が幾つか見える。小石踏んで痛いとか、何か踏んでキモいとかまったく感じなかったけどな。

「さぁ、こんなもんでいいか」

その声でハッとする。
ウトウトして意識が飛んでたみたい。
見れば桶は水でいっぱいになっている。
ユージンが着替えの入ったカゴを持ち上げ小脇に抱えた。

「何処に行くの?」
「そこの川で洗ってくる。丸ごと」

ユージンはニカッと笑い、自分を指した。

「洗ったほうがいいんだろ?」

村の前に小さな小川があったっけ。
私達はそこにかかった橋を渡って村に入ってきた。

「あっ、これ」

私は持っていたランプの明かり(本物)を指さした。月明かりはあるけど足元が暗い。

「必要ない。先に戻ってていいから」
「うん……」

「こんなにたくさん……」

汲んでくれたのか、水。
私のために。

「あっ、これも」

ユージンが何かを投げて寄越した。
赤い物体が飛んできて桶の中にチャポンと落ちた。
浮かんでいるのはリンゴだった。

「カゴに入ってた」

偽物みたいに艶々で赤い。
美味しそう。
桶の中に月が映って揺れている。
林檎を指先で弾くと銀色の月が弾けて壊れた。

そんなふうに遊んでいてふと思い出した。

私、いつまでここにいるんだろう。
このまま寝たら、次に目を覚ましたときにはこの夢から覚めているんだろうか?

「ツキ、ツキ?」

上裸のユージンがうっすら開いた私の視界に立っていた。
ああ、濡れ髪と割れた腹筋がセクシーダイナマイト破壊力抜群だよ……。




作業用BGM  IU―Into Tha I―LAND
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

立花家へようこそ!

由奈(YUNA)
ライト文芸
私が出会ったのは立花家の7人家族でした・・・―――― これは、内気な私が成長していく物語。 親の仕事の都合でお世話になる事になった立花家は、楽しくて、暖かくて、とっても優しい人達が暮らす家でした。

弱小領主のダメ息子、伝説の竜姫を召喚する。

知己
ファンタジー
————『このロセリアの地に数多の災厄が降りかかる時、東の空より紅き翼を携えし一人の騎士が降臨され、その比類なき神通力によって民は救済されるであろう』————  12の州からなるロセリア王国には古くからある言い伝えがあった。地方領主の息子・ベルはある時、絶体絶命の窮地に陥り期待半分冗談半分でこの言い伝えを口にしてしまう。すると、世界が一瞬真っ赤な光に包まれ————⁉︎  弱小領主のダメ息子と異世界から召喚された不思議な美女の織りなす西洋✖︎中華ファンタジーここに開幕!

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

処刑された令嬢、今世は聖女として幸せを掴みます!

ミズメ
恋愛
侯爵令嬢マリエッタは、聖女を害したとして冤罪で処刑された。 その記憶を持ったまま、マリエッタは伯爵令嬢マリーとして生を受ける。 「このまま穏やかに暮らしたい」田舎の伯爵領で家族に囲まれのびのびと暮らしていたマリーだったが、ある日聖なる力が発現し、聖女として王の所に連れて行かれることになってしまう。 王座にいた冷徹な王は、かつてマリエッタを姉のように慕ってくれていた第二王子ヴィンセントだった。 「聖女として認めるが、必要以上の待遇はしない」 ヴィンセントと城の人々は、なぜか聖女を嫌っていて……? ●他サイトにも掲載しています。

処理中です...