文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

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第2章 巫女は聖なる盃を掲げ

赤林檎にスリルを添えて

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「もう、大丈夫かな?」

私は後ろを振り返った。街を離れたのだろう辺りは真っ暗だ。さっきまでいただろう街の明かりが遠くに見える。
ユージンが荷馬車を止めた。

「まったく無茶をする女神さんだ」
「ありがとう、お陰で助かった」

私は本当に心から感謝の言葉を述べた。

「嘘も大概にしないと」

私とユージンの間に座っていた少年が初めて口を開いた。
って、まって。
今の台詞私に言った?!

「泥棒も大概にしないとね!」
「うるせぇ、偽物」
「偽物って、本物も見たことないくせになんで私が偽物って言えるわけ?」
「だったら、魔神を呼び出して俺を家まで今すぐ帰せ」

ぐっ、ムカつくけど痛いとこもつかれた。

「まぁ、そのくらいで」

ククっとユージンが笑った。
荷馬車から降りたユージンが少年に手を差し出したが、少年は無視して自力で飛び降りた。
私はユージンの手を借りて地面へ足を着いた。
何だか身体がフワフワと揺れているみたい。
荷馬車の揺れが残っているのかな。

「大丈夫か?」
「うん」
「震えているぞ?」

ああ、ガクブルというのはこんな感覚か。
私は歩き始めの小鹿みたいにヨタヨタしてすぐにその場へしゃがみこんだ。

「ねぇちゃん、大丈夫か?」

私は、ハァーと、長い息を吐いた。
ユージンが屈んで私の顔を覗いた。

「後先考えずに出しゃばるのは、もう止めるんだぞ」

私の頬にユージンの指先が触れた。
いつの間にか涙が溢れていた。
気が緩んだ途端にさっきの恐怖がまとめてやってきたみたいだ。

「良くやったぞ、ねぇちゃん」

少年が私の背中をポンポン叩いた。
こいつはどこまでも上からだな。

「ふふふふふっ」

今度は可笑しくて笑えてきた。

「ねぇちゃん、本気でおかしくなったか?」
「うるさい。あんたこそ、怪我は大丈夫なの?」
「こんなの平気だ、ほっとけば治る!」

どこかで聞いたなそれ。
ここの人達は病院いらずかよ。

「兄ちゃんたち、それを持って俺んちに来てよ」

と、少年は荷台に残った林檎箱を指差している。

「そんな重たいもの、子供の俺には無理だろ?」

ちゃっかりしている。図々しい。盗人猛々しい。いろんな形容詞が浮かぶわ。
いや、もうここまで来ると頼もしささえ感じられるし最高だわ。

「よいしょっと」

ユージンが林檎箱をひとつ肩に乗せた。
えっ、運ぶんかーい!
良い人かーい!

「ねぇちゃんはあれな」



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