文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

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第1幕 囚われた偽りの巫女

嘘の代償は冷たく重い

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「お前はこの娘の変わりに国へ戻り、我が国の宝を取り戻して来るのだ」

スラオシャの首にも大きな半月刃があてられている。

「期限は次の満月まで」
「そんなことは叶いません!バルフはリュトンを手放しません!無駄なことはお止めください!」
「人質は王女と、もう一人の侍女だ。バルフの王がどう答えるか見ものだな」
「答えは決まっています」
「約束の時までに戻らなければ、侍女を殺し軍を送る。そしてお前の目の前で国王と王子の首をはねてやる」

ダリアンは首を振った。恐ろしさに身が震えた。この国王が一方的に書簡を送りつけてきた次点で本当の目的はわかっていたはずだった。
自分は、あえてそれに目をつぶり綺麗事で片付けようとした。

イルファン国の王アリアナは、陰では「血の女王」と恐ろしげに呼ばれている人物だった。
先王、つまり夫と先妻の息子をその手で殺めたと、まことしやかな噂まで流れている。

話など通じない、父と弟は当然反対した。
バルフは負けない、ジンと共に戦えば、どんな敵も恐れるものではないと。

けれど、それは無理なのだ――――――。

イルファンが本気で攻めれば、バルフのような小さな国はひとたまりもないだろう。

ダリアンだけがその理由を知っていた。

父にも弟にも、とうとうその理由を明かすことが出来ず、ここに来てしまった。
つまり、全て自分の保身のためだった。本当の事を知られるのが恐ろしかった。
だから、イルファンの国王が真に両国の和平を望んでいるものと信じたかっただけだ。

「さぁ、急いだ方が良いぞ!時は止まらぬのだからな」

突然、王子がスラオシャの背中を蹴った。彼は反射的に床に手を付いたが、いささか膝を打ったようだった。

「何をするの!」

ダリアンは兵士を振り切りスラオシャの元へ駆け寄った。

「スィオナ……」

スラオシャの背に手を当て顔を近づけた。

「絶対に戻ってこないで、これは命令です」

スラオシャの耳元で小さく早口で告げる。

「……それは出来ません」

スラオシャはゆっくり体を起こしながら、ダリアンの横顔に向け、やはり小声で答えた。

「!」
「 王女様をお守りするのが、私の使命ですから」

それは迷いのない凛とした声だった。

「いけません」
「すぐに戻ります」

立ち上がったスラオシャは、王子を睨みながらそのすぐ脇を堂々と歩き、王の間から去っていった。

「はははははっ!」

アリアナ国王は高らかな声をあげて笑い続けた。



第1幕     了




作業用BGM   BTS―Dionysus
―――――――――――――――――――――――――――                

もう1人の主人公ダリアンの物語が一旦終了です。ここまで読んで頂きありがとうございました。さて、次回はまたツキさんのターンに戻ります。
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