文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

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第1幕 囚われた偽りの巫女

真紅の衣は火を放つ

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「大丈夫?変なところはない?」

国王から送られた真紅の衣を纏ったダリアンは鏡越しにミーナを見た。

「はい……よくお似合いでございます」

ミーナの変わりに答えたのはイルファン側の痩せた年配の侍女だった。

「さぁ、お急ぎくださいませ」

侍女は硬い表情で平淡に言うと、ダリアンを促した。

「あなたは、ここで結構」

ダリアンの後ろに付いていこうとした、ミーナは侍女に遮られた。

「ですが……」
「待っていて、すぐに戻るわ」

ダリアンは不服そうなミーナに頷いてみせた。

「彼は、連れていってもいいでしょう?」

廊下にスラオシャが直立して待機している。

「王の間には立ち入れません。腰のものも置いて頂きます」

侍女はスラオシャを一瞥し、眉間に皺を寄せ答えた。

「ええ、ではそこまで」

スラオシャは素早く武器を外しミーナに預けた。

王の居住する宮殿までは随分と遠かった。
きっともう一人では戻れないだろう。その道のりを覚えることを途中で諦めた。
長い回廊をひたすら歩き、ようやくその場所にたどり着いた頃には、ダリアンの額には汗が滲んでいた。

「こちらでございます」

甲冑を装備し剣を携えた衛兵が立ち並ぶ廊下の奥、大きな扉の前で侍女が立ち止まる。

人の背を遥かに越える杉板の両扉には、翼を持つ獅子の姿が掘り込まれ、金や銀で美しく装飾されていた。
脇に立つ兵士二人が重そうな扉を押し開けた。
強い香の匂いが廊下へ流れ込み漂った。

「そちらはここでお待ちを」

スラオシャの前に兵士が立ち塞がった。

「言うとおりに」

そうスラオシャへ告げるとダリアンは王の間へと足を踏み入れた。

王の間は広いが、窓がなく松明と燭台の明かりだけなので、隅々まで行き届かず薄暗かった。そのせいか圧迫感に胸苦しさを感じる。
ダリアンは玉座の下まで届く絨毯の上をゆっくり歩き、その先端まで来ると立ち止まり王を仰いだ。
数段高い玉座に、イルファン国王が座している。右側に立っている細身の若者が王子だろう。

ダリアンはそのまま王の言葉を待ったが、王は黙っている。
みんな石にでもなったのか?
誰も動かずただ冷たい静寂だけがそこにあった。
玉座の背後にある燭台の炎が時々揺れるのを眺めながら、ダリアンは辛抱強く待った。

「お前が、バルフの巫女か……見たところただの小娘のようだが」

王は首を傾げ、薄ら笑った。
耳の飾りが揺れ蝋燭の明かりに煌めく。
赤い紅を指した唇が再び開こうとしていた。



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