文化祭劇の脚本が異世界に繋がっちゃって、モブキャラのまんま、イケメン王子の前にブッ飛ばされたんだけど?!

蟻の背中

文字の大きさ
上 下
11 / 117
第1幕 囚われた偽りの巫女

命の恩人だからってなんなの?

しおりを挟む



「はいはい、わかったって」

男はダリアンからあっさりと離れた。
男の喉元へピタリと小刀を突きつけているのは、ダリアンの従者である、スラオシャだった。
ダリアンはすぐに男から離れると、スラオシャの後ろに隠れた。

「どこに行っていたのよ!もう、肝心なときにいないんだからっ!早く、こいつをぶっ飛ばして!今すぐ!」

ダリアンは男を指差し、きっと睨んだ。

「殺してやります」

そこまでは言ってないわよ、ダリアンは驚いてスラオシャの横顔を見た。彼の目にその本気度があらわれている。

「えっ!ええ、もちろん。そうしないとダメだけど、でも今は人も見ているし、後も面倒そうだから、特別に許します!」
「しかし、こんな無礼者は、死に値するかと」

いつのまにか辺りには人だかりが出来ていた。
ここで変な騒ぎは起こしたくない。

「いいわっ、そのまま、静かにそれをおさめて。あなたも変な真似はしないで」

ダリアンはスラオシャの腕を押さえ、男に念を押した。

「しかし、ダリアン様」
「見てないかもだけど、この人は一応命の恩人なの」
「まさか」
「本当に、本当」
「やっとわかったか」

男は刃物を当てられながニヤニヤ笑っている。
何て嫌なやつ!
ダリアンはむっとしながらも頷いた。

「ああ、礼ならまた今度でいいぞ」

(何が礼よ、このならず者が。二度と会うもんですか!)
「きっと、また会うことになるさ」
「はっ?」

ダリアンは心の中の悪態が聞こえたのかと思いギクリとした。

「さあて、飲み直すとするか」

男は野次馬を掻き分け悠々と去っていった。

「何よあいつ」
「ダリアン様、お怪我はありませんでしたか?」
「大丈夫よ」

ダリアンは気づいた。
そう言われれば、確かにかすり傷ひとつない。
まったくの無傷だった。

男は完璧にダリアンを救ってみせたのだ。
その事が、無性に悔しくてしょうがない。
少しでも傷がついていたら、まるまる恩を着せられる筋のものでもない。

「スィオ!」
「はい」
「あなたは、どこに行ってたの!」
「申し訳ありません」

完全な八つ当たりだった。が、いつものことなのでスラオシャもただ頭を下げる。

「それで、ジュースは?」
「はい、あそこに……」

スラオシャの視線の先に半身のメロンが砂だらけで転がっていた。

「何やってんのよ!」
「申し訳ありません」

周りにいた野次馬はすっかり消え去り、商人たちの声が飛び交う、いつもの活気あるバザールへと戻っていた。

「ところで、先程の男が……」
「さっきの奴が何よ」
「こんなものを落として行きました」
「こんなものって?」





作業用BGM   ATEEZ―WIN
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~

SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。 ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。 『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』 『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』 そんな感じ。 『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。 隔週日曜日に更新予定。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

妹だけを可愛がるなら私はいらないでしょう。だから消えます……。何でもねだる妹と溺愛する両親に私は見切りをつける。

しげむろ ゆうき
ファンタジー
誕生日に買ってもらったドレスを欲しがる妹 そんな妹を溺愛する両親は、笑顔であげなさいと言ってくる もう限界がきた私はあることを決心するのだった

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

処理中です...