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第1幕 囚われた偽りの巫女
怪しい男とメロンジュース
しおりを挟む「危ないぞ!」
「早く逃げろ!!」
ダリアンが振り返ると、黒く大きな山のような塊が物凄いスピードで向かってくるのが見えた。それは人や物を蹴散らしながら、ドカドカと重い足音と地響きをともないやってくる。
「水牛だ!」
誰かが叫んだ。
野生の水牛がバザールに迷いこんで来たのだ。
荷馬車よりも大きな水牛に蹴飛ばされたらひとたまりもないだろう。
「シっスィオっ!」
ダリアンは先程まで一緒にいた従者の名を叫んだ。
けれど、生憎その者は香屋に立ち寄る前に出した「メロンジュースを買ってこい」という命を受けていたため、この場に不在だった。
ダリアンはそのことを叫んだ後に思い出した。
「もう、スィオの役立たず!」
こうなったら自分でなんとかするしかない。
右か左へ避ければいいだけのこと。
わかっているが、恐ろしさからか体がまったく動かない。
(ダメだっ、私、死んじゃう!)
ダリアンはぎゅっと目をつぶった。
ドンッ!ボズッ、ゴロンッ、ドサッ!
ダリアンは何かの力によって、横方面へすっ飛ばされ、地面に転がった。
頭のすぐそばを、荒い鼻息と重い蹄の音が過ぎ去っていった。
目を開けると、そこには誰かの厚い胸板があった。
ダリアンは誰かの力強い腕の中にしっかりと抱え込まれていた。
洗い晒しの木綿のシャツが頬に当たっている。
そのさらりとした生地のすぐ下では、ドクンドクンと波打つ鼓動が感じられた。
潮の香りとそれに微かに酒の匂いがした。
「ぎゃあああ!!」
ダリアンの悲鳴に男は手を緩めた。
その隙に相手の胸を両手で強く突飛ばし、尻をついたまま後退した。
「私に触らないでっ!」
「酷いな、せっかく助けてやったのに」
そういって男は立ち上がった。
ダリアンは背が高くがっしりとした体格のその男を仰ぎ見た。
ボサボサの髪に、頬や顎にはうっすらと無精ヒゲがあり、野暮ったい感じの男だった。
質素な生成りのシャツに墨色のズボン。ズボンは脛の辺りまでまくられていた。
「俺の手を借りるつもりはないだろうな、そんな顔してる」
「ええ、その通りよ」
ダリアンは自力で立ち上がり男を見上げた。
男は右の目を細めダリアンを見下ろした。
もう片方の左目は大きな傷跡で塞がれていた。
「おい、俺は犯罪者か?人をそんなふうにみるもんじゃないぞ」
「だって、そうじゃないの。あなたの……その……傷を見れば」
「この傷が何の傷が知っているのか?」
「目をえぐられるのは……」
ダリアンはこの地方に伝わる残酷な刑罰を知っていた。
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