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第1章 異世界への扉
ここから逃げ出したい
しおりを挟む「なんで、私に役をつけたの?」
「……なんとなく? 何か言いたいことがありそうな気がしたから、かな」
「ん?……何それ」
さっぱりわからない。
私は表舞台に立つよりは、裏方が好きなんだよ。
人の前に立って何かをやる人なんかじゃない。
シミズこそ、もっと表に出た方がいい人だと思うけど。
顔とスタイルでいえば、うちの学校で1、2位を争うくらいなのに、自らいち早く制作班にまわっちゃって。
内心、もったいないと思っていた人も多いんじゃないかな。
「チケット完売したよ!!」
体育館で前売り券を販売していた子達が、跳びはねながら教室へ戻ってきた。
おおーっ!という歓声が教室に響いた。
「後5分でお客さん入ります!」
係りの人の声に、一同の緊張感がました。
「じゃあ、みんな集まって!円陣」
シミズの声に皆が集まって、大きな輪になった。
「3―A 優勝目指して、最後まで行くぞ!!」
「イエスっ!!3A!!」
主役の王様男子が声をあげると、みんなの気合いがひとつになった。
「じゃあ、キャストはカーテンの後ろで待機して」
シミズのシャキッとした声に、衣装を着た人達がさっと動いた。
「ねぇ、ねぇ、ハルキ先輩来てる!」
「うっそうっ、なんで?」
舞台の袖、暗幕の隙間から客席を覗いていた、商人①と衛兵①がコソコソ話している。
「ハナのこと見に来たんだよ」
「えっ、どういうこと?」
「だから、そういうこと」
「うっそ」
「まじかー、ショックだな。ファンだったのにー」
「でもさ、ハナよりツキと仲良かったよね?ハルキ先輩て」
「そうそう。でも、まぁ、お似合いだよね」
「うん、ビジュアル強いカップル」
「去年の最優秀主演賞と今年の候補だもんね」
そうなんだ、来てるのか。
ハルキ先輩。
まぁ、そうよ。
誰もがそう思うって、お似合いの二人だって。
私だって、認めるよ。
教室が暗くなると、客席が静かになった。
そして、初演が始まった。
「ツキ、出番!」
誰かに耳打ちされて、私は反射的に舞台に飛び出していた。
客席はたくさんの人で埋まっていた。
生徒の他にも卒業生や保護者、先生達も。
椅子に座れない人が、ロッカーの前にずらりと並んでいた。
その中で私はハルキ先輩をすぐに見つけることが出来た。
だって、もうそれはクセというか習慣なんだから。
ハルキ先輩が卒業するまでは、こうやっていつも探してた。
体育の授業で外にいる先輩。
昼休みにサッカーしてる先輩。
廊下ですれ違うと、必ず笑顔を向けてくれる先輩。
今思えば、それはハナに向けられた笑顔だったんだとわかる。
本当はすぐにでも逃げ出したかった。
シミズが引っ張った赤い線を思い出す。
逃げるわけにはいかない。
「出でよ!」
私は吹っ切るように最初の一声を発した。
「我が魔神イフリート!姿を現し我の願いを叶えよ!!」
小道具のランプを頭上高くに掲げた。
人前でこんなに大きな声は出したことない、ってくらいの発声だった。
ピカっ、ピカっ、ピカっ、何度かフラッシュが放たれた。
こんな演出あったっけ???
眩しさに目がくらみ、私は目を閉じた。
第1章 了
ここまで読んで頂きありがとうございました。
ツキさんのおしゃべりはひとまずここまで。
次回からは、もう一人のヒロインが登場します。
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作業用BGM straykids―MIRO
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