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第二章 簒奪篇 Fräulein Warlord shall not forgive a virgin road.

第50話 恋する乙女は強引でも許される

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アイガイオン城の外廷にある控室の一つにわたくしとパトリシアと侍女たちが集まって、パーティーのためのおめかしの準備をしていました。とはいえ王族のわたくしたちは基本的に何もしません。侍女が全部やってくれます。なのでわたくしは新聞を読みながら、侍女たちの髪結いとメイクアップに身を任せていました。床屋で髪を切られているオジサマみたいで、はしたないとパトリシアに注意されたのですが、どうしても先ほど出た号外の内容が気になってしまったのです。そこには『ニュルソスダム、反乱貴族軍が占拠!連合王国への反抗を宣言!』の見出しがありました。ニュルソス川上流のダムはバッコス王国の王室直轄地であり、重要なインフラの一つです。反乱したバッコス貴族たちが占拠し、連合王国への反抗を宣言したとのことです。…状況が動き始めました。これが誰の仕業なのかはわかりませんが、これでアルレネ王妃殿下の目はわたくしから逸れることでしょう。ニチャアア。

「ジョゼーファ殿下。メイク中ですから、顔を動かすのはお止めください」

「あら失礼。でもこのパーティーが楽しみ過ぎてね…。どうしても笑ってしまいます」

「殿下。今日のパーティーはとても大切なものです。陛下もとても気にしておいでです。殿下にはちゃんとお綺麗になっていただかないと。国の威信に関わります」

「ええ、わかっています。今日のパーティーはとても大切です。なにせこのわたくしが主役なのですから!」

 今夜の社交パーティーの主役は女性王族であるこのわたくしです。将来の女王であるこのわたくしへの忠誠を誓わせるための政治的セレモニーの一種です。なので今回のパーティーに父上は参加しません。わたくしが主役。なのですが…。

「姫殿下。ぜひとも踊り場から登場するときに、私を御傍につれていっていただけませんか?」

「お姉さま。この女はいったい何を言っているのからしら?ふふふ、さっぱり理解できないのですが…」

 妹のパトリシアが引き笑いを浮かべています。ラフォルグ中尉が控室にいるわたくしのところに来て、なにやら意味不明なお願い事をしてきました。今日のパーティーは色々と人々に未来の女王としての権威をアピールするための演出が組まれています。最たるものはわたくしが会場入りする時でしょう。パーティー会場はアイガイオン城の中庭で行われます。中庭には城のバルコニーが面しており、そこから会場の中庭と降りられる豪華な階段があります。わたくしはバルコニーから庭へとゆったりと階段を下りていくのです。この時煌びやかに飾った軍の儀仗隊と麗しい侍女たちを連れてパレードの如く降りていくのです。誰が一番偉いのか一目瞭然の演出なのです。この演出についてはすでにメンバーも決まっていて、いまさらラフォルグ中尉が入り込む余地などないのです。パトリシアが呆れるのも無理はない話です。

「それは儀仗隊の誰かと代わりたいということですか?儀仗隊は男性で揃えているので、見栄えを考えると女性兵士を混ぜるわけにはいかないのですが。シナジーが崩れます」

 やんわりとお断りしようと思ってそう言ったのですが、ラフォルグ中尉は食い下がってきます。

「いいえ。ドレスが着たいので、侍女の方がいいです。アイガイオン家の宝剣を持つ太刀持ちがいますよね。その方と代わっていただきたい」

「何なんですのこの女?!家宝の宝剣の太刀持ちは王族であるこのわたくしの役割なのですが?!」

 私の傍で家宝の宝剣を持って歩くのは王族であるパトリシアの仕事です。階段を降りきった後に、わたくしに剣を捧げるというとても重要で目立つ役割となります。

「そういえばパトリシア殿下の仕事でしたね。子供には宝剣は重いでしょう。私が代わってあげますね」

「なんですかこの自己中?!この女マジで何なのですか!?お姉さま!この馬鹿女の戯言など聞き流してください!」

 パトリシアはあまり公務には熱心な方ではありません。ですがそれでもこの仕事には熱意をもって臨んでいます。さすがに腹を立てています。

「ラフォルグ中尉。さすがに太刀持ちの交代は駄目です」

「そこを何とかしていただきたい!」

「普通ここで引き下がりません?あなたは王族の権威に喧嘩売ってるって自覚ありますか?」

「ジョゼーファ殿下。たとえ世界を敵に回しても、女には煌びやかに輝きたい時があるんです。わかりませんか?そんなんだから婚約を破棄されてしまうんですよ。哀れな…」

 逆に憐れまれました。…いや、マジで意味不明なのですが…。この人との会話が異次元過ぎて正直辛いのです。

「お姉さま!こいつ打ち首にしましょう!カドメイア王国不敬罪第一号の名誉ある罪人にしましょう!断罪!死刑!ざまぁ!」

「パトリシア殿下。カドメイア王国は王政復古してからまだ日が浅いので、王室典範および王族関連法案はまだきちんと整備されておりません。現在のカドメイア王国にカドメイア王族への不敬罪を法的に定める法律は存在いたしません。今後は当然整備される必要はあります。ですが法律がない以上、現在の私が不敬であってもそれはそれは罪には問われません。もちろん今後成立しても、今ここでの行いは帝国憲章が定める法の遡及適応の禁止に該当いたしますので、やはり私が不敬であるとは言えません。つまり私を裁くことはできませんよ。パトリシア殿下には今後は法律の御進講が必要そうですね。手配しておきます」

「くそ!法律の話なんてしてねぇんでございますわよ!この女まじで腹が立ちますわ!父上はどうしてこんなサイコ女をお姉さまの侍従武官に据えたのですか!任命責任を追及してやりたいですわ!きーーー!!」

 ラフォルグ中尉の天然がパトリシアの感情を逆なでしています。わたくしも頭痛を感じそうになります。
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