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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第101話 エロゲー特有の雑なボスキャラ!触手付き!

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 私を見てビビってるギムレーの背後に鋭い針のついた触手が迫っていた。

「わたくしをよけるなよぉギムレーーーーー!」

「ひいぃ!来ないでよぅ!」

 ギムレーは頭を抱えて伏せる。私的には好都合だった。
 跳んできた勢いそのままで私はギムレーを思い切り押し倒し、砂浜を二人でゴロゴロと転がる。
 ある程度転がって私たちは止まる。結構あっちこっち体をぶつけてしまったせいで、息がすごく苦しい。
 対してギムレーはすぐに起き上がり蹲ったままの私を睨みつける。

「めちゃめちゃ体痛いんだけど!まじでなんなのよ!あんたは!?あたしに何のうらみがあ・・・れ?あれ?え?なにあのぶっといはり?」

 どうやらこの女のもやっと自分の置かれた状況に気がついたようだ。さっきまで彼女がいたところにぶっとい針が刺さっているのが目に映ったようだ。
 その針はすぐに砂浜から引き抜かれて湖に素早く戻っていく。
 そして湖からとても大きな何かが砂浜の方に上陸してきたのだった。
 それは龍のように見える。さすがファンタジーワールド。
 王道じゃんと私は一瞬関心しかけた。
 だがよくみると下半身の形がおかしい。
 上半身は紛れもなく龍。
 だけど下は蛸のような足がうねうねとしていた。
 …ばかじゃねーの?まちがいなくエロイベント専用モンスターだ。
 マジで気持ち悪い。

「え?うそ?なんで湖のヌシがここに?」

 ギムレーが口に両手を当てて驚いている。
 どうやらあのモンスターのことを知っているようだ。
 さらにおかしな事態は続く。
 湖の中にさらに多くの影が見えはじめ、次々に半魚人みたいなモンスター達が上陸をし始めたのだ。
 あっちこっちから悲鳴が聞こえ始める。
 人々は雪崩をうって、砂浜から街の方へと走って逃れていく。

「そんな?!モンスターはめったに出ないはずなのに?!なんで?!どうして?!」

 ギムレーが体をブルブルと震わせている。つーかそんなのいいから早く逃げてくれないかな?

「あなたは…早く…逃げなさい…!」

 まだ体を打ったショックで上手く喋れないが、私はギムレーに逃げるように言った。
 どう考えても目の前のドラゴンのターゲットはこの女だ。
 実際ドラゴンの触手の切っ先はすべてこの女に向いている。
 だがギムレーも恐怖を多少は忘れたのか毅然とした表情でドラゴンに顔を向ける。

「でもモンスターならあたしの言うことは聞くはず…。人を襲うのはすぐにやめて!湖に帰りなさい!あなたはこの湖の主でしょ!?すぐに家に帰ってよ!」

 そう。普段ならきっとモンスターは彼女の言うことを聞く。
 なぜならばこの世界のモンスターはすべて女神の細胞から培養されて作られた存在。
 情深くいうならば女神の子供たち。悪く言うなら道具だ。主の言うことには絶対に服従する。
 だがそうはならなかった。ドラゴンの触手の切っ先はいまだにギムレーを捕えたままだった。
 だから間違いないはずだ。
 あのモンスターは誰かの支配下にある。
 十中八九、王妃の部下の密偵だろう。

「なんで?!なんであたしの言うこと聞かないの!?なんで?!どうして?!どうしてぇ!」

 想定外の事態にギムレーがギャン泣きしはじめた。
 多分彼女は生まれてはじめて本物の殺意を浴びたのだ。
 怖くないわけない。だからいつまでも蹲ってはいられない。
 私は立ち上がって彼女を庇う為にその前に立つ。

「え…なんで?」

「泣くのはやめなさい」

 背中からギムレーの間抜けな問いかけが聞こえる。

「なんであたしを守るの?」

「助けて欲しいんでしょ?なら助けます。だから黙ってなさい」

 私はホラー映画とかパニック映画に出てくるピーピーうるさい女が嫌いだ。
 ああいう男が活躍するための場を作るために泣く女はうざい。
 ここに王子様はいないのに、この女はきっと泣きわめく。
 邪魔極まりない。私は腰を落として構える。慌ててきたので、武器はない。
 一応魔法のシールドを展開し、攻撃に備える。

「でも!いいから逃げようよ。女の子のあたしたちが戦わなくてもいいでしょ?ね?」

 残念だが逃げる好機はもう逃してしまった。
 今逃げたら背中を刺されて御終いだ。
 素人は戦いの呼吸がわからないから駄目だ。
 もはや戦う以外に生き延びることはできないのだ。

「うるさい!あなたも戦う準備をしなさい!王子様は戦う女の下にしか来ないのだから!」

 私が怒鳴るとギムレーはビクッと肩を震わせてそれっきり黙った。
 静かにしているならそれでいい。それなら守れる。

『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
 
 ドラゴンが金切り声みたいな雄たけびをあげて、私たちに触手を向けてくる。
 私はそれを手にまとったシールドで払おうとした。その時。

「言ったよね、お嬢様?飛び出すならちゃんとわたしを連れてけって!」

 迫って来た触手が一瞬にして細切れになる。
 肉片がボトボトと砂浜に落ちて、光の粒になって消える。

「大丈夫ですか?派手に砂浜を転がってましたけど。回復魔法いります?」

 私の目の前にラファティがいた。
 水着の上に剣のホルスターを巻いて、両手にそれぞれ長剣を持っている。
 私たちを守ってくれたのはラファティだったのだ。

「大丈夫ですよラファティ。助かりました。ありがとう」

「どういたしまして。でもせっかくのバカンスが台無しですね。ほんと残念!」

 迫りくる触手のすべてを両手に持った剣で鮮やかに切り裂いていく。

「ラファティちゃんだけじゃないぞ!おらぁ!」

 頭の上の方からヒンダルフィアルの声が聞こえた。
 大剣を両手で大上段に構えたヒンダルフィアルが跳んでいる。
 そのまま落下する勢いを乗せてドラゴンの頭に思い切り剣を振り下ろす。

「GYAAAAAAA!AAAAAAAAAAAAAAAAA!AAAAAAAA!」

 ドラゴンは金切り声を上げて怯む。
 その隙に私はギムレーの手を引っ張って、ドラゴンから離れる。
 ラファティたちを置いていくのは心苦しいが、今は任せるほかない。
 堤防近くまで逃げてきた。ギムレーは安心したのだろう、その場に腰を下ろして座り込む。

「ご無事ですね。よかった。無茶はごめんですよお嬢様。冷や冷やしました」

 メネラウスが兵士たちを引き連れて私の傍にやって来た。

「メネラウス。状況を報告してください」

「現在、砂浜一帯にモンスターの群れが上陸しております。エレイン・カドメイア両州軍は対応マニュアルの規定通りに部隊を展開し、観光客と住民の避難を終え、現在交戦中です」

 あたり一帯はしっちゃかめっちゃかの戦闘状態に突入している。
 半魚人どもとうちの兵士たちは激しい攻防を続けている。
 町の方へ目を向けると、堤防沿いに兵士たちが並んで、砂浜を封鎖しているのが見えた。
 観光客たちがバリケード越しに砂浜を不安げな目で見ていた。

「よろしい。このままモンスター共を排除します。援軍はどれくらいでつきますか?」

「20分ほどで州都の方から来ます。それまで粘れれば我々の勝ちです」

 作戦目的が明確なのはいいことだ。防衛しきれれば、勝利ができる。

「お嬢様。ディアスティマ様を避難させませんか?兵士たちに護衛させますので、そろそろ手を」

 言われるまで気がつかなかった。私はギムレーの手を握りっぱなしだった。
 …やだ。すごく恥ずかしい。私は手を彼女から手を離す。
 だが彼女を避難させるわけにはいかない。

「残念ですが、ギムレーさんにはこのままここに残ってもらいます」

「え?!なんで?!」

 涙目でギムレーが鳴き声を上げる。
 ちょっと気の毒だ。
 私が欲しいのはこういうバイオレンスなざまぁではないのだ。

「あのドラゴンは間違いなくあなたを狙っています。あなたを避難させると、砂浜から離れてあなたを追跡するでしょうね。そうなったら事態はいよいよ混乱します。住民たちに被害が出かねません。統治者としてその被害は看過できません。なのでここでわたくしと戦ってもらいます。異議は認めませんし、聞きたくありません。よろしいですか?」

 あのドラゴン、結構距離を取ったのに、まだギムレーの方を見てるのだ。
 どう考えても、ここでこの女を避難させるのは全員にとってのリスクになる。

「だったら同意なんて求めないでよ!くそびっち!」

「安心しなさい。わたくしが守ってあげますから」

「女の子にそれ言われても全然安心できないよ…」

 顔を青くして俯くギムレー。
 はぁ、男いないと駄目な女の子ってまじで役立たずでかわいくない。

「女の同士はどうしてこうも厳しいのか…戦いとは世知辛いものだ。お嬢様、こちらをどうぞ。次からはちゃんと武器を持ってから飛び出してください」

 皮肉気な笑みを浮かべたメネラウスが私の愛用の銃を渡してくれた。
 これでやっと戦える。

「では皆さま。戦争のお時間でございますことよ。準備はよろしいかしら?」

 ギムレー以外の者たちは皆武器を手に持って自信満々に頷く。

「よろしい!戦闘を開始せよ!」

 いまさらだけど私は号令をかけ、モンスターに向かって銃の引き金を弾いた。
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