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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第98話 詫びを入れますわよ!

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 私を見るギムレーの目がすごく冷たい。 
 正直この目で見られるのはきつい。
 だがこれは甘んじて受け入れる罰の一つだ。

「あっ!わかった!楽になりたいんでしょ?悪いことしたのがわかっちゃって楽になりたいから、ごめんなさいしに来たんだね。…ふざけんな。あんたのせいであたしはルイカの傍にいられなくなったの。だってそうでしょ?大貴族のご令嬢でしょ?あたしがルイカと仲いいって知ってたら、きっとそっちに圧力かけたでしょ?」

 かも知れない。ぶっちゃけた話、こいつをいじめることに夢中で、この女の交友関係を前世の記憶を取り戻すまでは気にもしていなかった。
 知ってたらカンナギ・ルイカにターゲットを合わせていた可能性はある。

「ていうか意味わかんなすぎてキモい。エレイン州をお父さんから奪ったのに、謝りたいって気持ちが全然わからなくて気持ち悪い。ホント無理。あんたのこと生理的に無理」

 …私だってお前のことが生理的に無理だよ!わかってる…。
 だけど反論は許されない。
 彼女の言葉は私への正当な復讐だ。…受け入れるしかない。

「…ほんとよくわかんない。…ねぇ、新聞で読んだんだけど、デメテルの人たちを助けたんだよね。…人をいじめるような女がそんなこと出来るの?なんで?チグハグしすぎじゃない?なんで?そこまでして謝りたい?どうして?」

「わたくしは自分の筋は通したいんです」

「あんたが通したい筋って何?」

「わたくしは嘘つきです。目的達成のためなら騙し討ちもしますし、詐欺もやります。でも誰かのために良いことも成したいんです。そのためには自分に恥ずべき部分を残しておけないんです。だってそうしないと、他人にした善行がきっと嘘になってしまうから…。それは裏切りです。傍にいてくれる人々への卑劣な裏切りになってしまうから…それだけはできません」

 私は疚しさを捨てたいだけだ。
 それ自体一種の醜いエゴと言われたら反論は残念だけど出来ないだろう。
 だけど少しでも正しいことをしないといけない。
 私はこれから先、世界に破壊と混乱をまき散らす。
 少しでもその埋め合わせはしたい。
 させて欲しいんだ。
 …何言ってんだろう私。
 支離滅裂すぎる。
 自分の行動原理の意味不明さに涙が滲んできた。

「ねぇ。あたしも女だよ。だから先に泣いたって、あんたが正義になることはないよ」

 私の涙は目の前の女にとっては学級会の女子の物以下らしい。
 せめて卒業式と同じくらいには扱ってくれないかな?はは、意外に軽口でるじゃん。
 だからまだ大丈夫そうだ。

「そんなつもりで泣いてるわけじゃありません。悔しくて泣いてるだけです。あなたに勝ちたいからじゃないんです…。そうです。わたくしはよりよく生きたいから、あなたに許してほしいだけです」

 言っていて情けなくなる、けどここで嘘をつくわけにはいかない。
 ここで卑しいことをすれば、私はこの先の戦いで正義という建前を掲げられなくなってしまう。
 自分は正しいことをしていると嘘をつけなくなったら軍を率いる資格がなくなってしまう。

「あんたを許したって、あたしの気が晴れるわけじゃないんだけど?苛められてた時、すごくあんたが怖かった。学校で男子共がいくら守ってくれても、あんた相手じゃ恐ろしかった。王太子殿下はあんたにはいじめをやめろってちっとも強く言わないし。家に帰れば惨めな気持ちになって弱い自分を自分で蔑んで余計に悲しくなって、なのに好きな人にはもっともっと頼りたいのに、あんたがやばいから頼れなくて!サイテー!あんたマジでサイテー!くそ女!サイコ女!くそビッチ!何が王様!?みんな馬鹿なんじゃないの!ほんとバカ!みんなあんたが騙してる!あんたは他人を平気で圧し潰していくクズなのに!それなのに今さらごめんなさいぃ?気持ち悪いのよあんたは!」

 ギムレーがいつもの猫かぶりを捨てて怒鳴ってる。
 プレイ画面でもこういう激高は視たことがない。
 主人公の前でギムレーは可愛い女の子だって嘘をつく。
 弱ってる姿も晒す。
 プレイヤーたちの保護欲をくすぐる。
 可愛がられる。
 ツンツンしたってそれはお作法に沿った様式美で、わかりやすい甘えの演出に過ぎない。
 本当に私は彼女を追い込んだんだな。
 罪悪感で胸がいっぱいになる。

「本当にごめんなさい…。わたくしに出来ることがあれば言ってください。なんでもしますから」

 もちろん出来ることなら何でもする。
 過剰すぎる要求が来れば、流石に断るけど。
 それでも出来ることはする。

「…そう。そうね。…そうだ。じゃあ出来ることしてもらうかな。土下座して。いますぐに」

 結構キツイこと言ってくるねこの子。
 …まあ仕方ないかな。頭下げるくらいなら。
 安いもんかな…。そう思って私はしゃがもうとした。
 だが私の脇に手を差し込んで止める者がいた。ラファティだった。

「ディアスティマ様。…それはわたしが許さない。この人に屈辱を与えるようなことを望むなら、今すぐに貴女を斬る。ギムレー男爵の手前、そういうことはしたくないけど、わたしたちの王様の権威に泥を塗るなら、それ相応の覚悟をしてください」

 ラファティは淡々とそう言った。
 だけど多分今までで一番恐ろしい声を出している。
 だがギムレーはその恐ろしさを物ともせずに言い返す。

「出来ることならなんでもするんじゃないの?あなたたちの王様は謝ることもできないろくでなしってことでいいの?」

「勘違いしないで。もともと王様という存在が他人に頭を下げたりするわけないでしょ。だって王様は皆のプライドの象徴。だから別にあなたに謝罪なんてする必要ない。しらばっくれても別に責められる謂れはないの。それほどの権威と権力が今のこの人にはある。それなのにうちのお嬢様は以前あなたにやらかしたことのケジメをつけたいって言ってるの。要求があるならもう少しまともなことにしなさい」

「あたしにもプライドあるの。それ以上に好きな人と過ごす大切な時間を潰された。それを土下座一発で許してやるって言ってるの?むしろ安いでしょ?」

「あなたのプライドはわたし達には関係ない。個人的には報復を望むあなたの感情は理解できる。わたしも生まれ故郷でヒューマンに迫害されて、両親を殺されて、貨物列車に隠れて故郷から逃げて、この国に来た。今でもあの迫害者たちに同じことをやり返してやりたい。だけど報復のやり過ぎは駄目。社会が回らなくなる」

「気持ちが解るならあたしの要求くらい飲んでよ。別に死ねって言ってるわけじゃない。地面に一回頭こすりつければ許すって言ってるんだよ?やさしくでしょあたし」

「この人のために命を捧げた人がいる。プライドは失われた命よりも重いものじゃないといけない。だからあなたの望むことをもしやらさせたなら、わたしはあなたの好きな人ごと斬り殺す。泣いて喜んでください。好きな人と一緒に死ねるってロマンですよね?素敵じゃない?ん?」

 なんだよこの二人の会話。
 お互い暴投しまくりじゃないか…。
 だけどラファティの抵抗はちょっと嬉しい。
 誰かのプライドに自分は成れたのだという嬉しさが胸にジンジンと沁みる。
 だけどこのままだたと話が進まない。どうしよう?そう思った時だ。

「そこまでにしときなディアちゃん。土下座の要求はやめとけ。淑女らしからぬお下品さだぞ」

 いつの間にかヒンダルフィアルが私たちとギムレーの間に入って来た。
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