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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第17話 シスコンのくせにカッコいいんだよなぁ

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 王都における我が宿たる在王都カドメイア州領事館に帰ってきた時には、もうすっかり暗くなっていた。
 夕食を取り、風呂から出て、遊戯室の前を通りかかると。
 メネラウスが一人でビリヤードに興じていた。
 キューを持ち、台のヘリに腰掛ける姿はなんかすごくカッコいい。

「おや、お嬢様。もう出たのですか?いつもならもっとグ…ゆっくりと入っているとおもったのですが」

「いまグズって言おうとしませんでした?」

「まさか。それよりレポート出来ました。読みます?」

「本当ですか…随分早かったですね。締め切りはまだですけど」

「この程度造作もありませんよ」

 大量のレポートを渡される。
 手書きではなくちゃんと魔導タイプライターで正書されていた。
 ちっ、仕事に少しでも手抜きがあれば嫌味言ってやったのに…。

「何か疑問があれば、いつでもおっしゃってください」

 そう言ってメネラウスはビリヤードに戻る。
 私は近くのテーブルの上にレポート広げる。
 良くまとめられている資料であり、ギムレー家の財務と領地経営の真の姿が見えてきた。

「ギムレー家は魔石やヒヒイロカネの採掘を減らして湖の観光業に本格的に乗り出すことにしたのですね」

 ギムレー家の主要産業は魔石とヒヒイロカネの鉱山。
 魔石はあちらこちらにつかわれている。
 ヒヒイロカネも軍需物資としてある程度はつねに需要がある。

「そのようです。持っている資金のほぼすべてをエレイン湖のリゾート開発に回しているようですね。実際成功しているようですよ。遠からず投資した分は回収できるでしょう。リゾートの開発もドンドン規模を拡大しています。樹液式内燃機関の登場で魔石の需要が先細って、鉱山の規模を減らさざるを得なくなったのに、湖へのお客の輸送はわざわざ王都から鉄道の支線を引っ張ってきたらしいですよ。なんとも皮肉ですよね」

 時代の流れのせいで資源の需要は減った。
 全くないわけではないが、大きく減ったことは間違いない。
 だから産業転換の必要に駆られて湖という観光地の開発を行うことにした。
 ヒヒイロカネの鉱毒で水域が汚染されたのは、予算を減らしたせいだろう。
 仕事が粗くなれば鉱毒を止めることはできない。

「経営資源の組み換えで、鉱山の人員をカット。それによって職を失った人たちが盗賊になってこっちへ流れてきていると」

 カットされた鉱山労働者たちが観光業に簡単にシフトできるとは思えない。
 社会から取り零れて盗賊に身を落とす。あり得る話だ。

「大雑把に言えばそういうことです。代替産業に乗り換えられる者たちばかりではありませんからね。拠点がエレイン州にあるものだから、カドメイア州軍の憲兵隊も領境を越えられると追跡できなくなって手を焼いているわけです」

 そして領境を越えて追跡できない物だからカドメイア側からは防衛しかできない。
 やだなぁ。自衛隊の方針である専守防衛の欠点がまさか異世界で示されるなんて…。

「エレイン州では領兵はみな観光地に配置して、他からは姿を消した。故に盗賊たちを止めるものがいないと」

「そうです。治安維持がなされているのはリゾート地のみ。うちと違って財政に余裕がない以上、必要なところへ配置するのは当然です。経済だけを考えるなら、そう間違っているとは思えません」

「ですが場当たり的ですね。盗賊共が成長して軍閥化してしまったらどうする気なのでしょうか?」

 盗賊共を野放しにしておくことは非常に危険だ。
 今はまだ烏合の衆で済んでいる。
 だがある程度の人員が集まってしまうと、それは必然的に組織化を始める。
 もしそこに才覚のあるものが加われば?考えたくもない結果をもたらすだろう。

「そのためのディアスティマ嬢でしょう。王家から軍事的支援を引き出して片付ければいいのです」

 現状ギムレーによるハニトラは非常にうまくいっていると見ていい。
 恐らく今度の旅行もそれが狙いなのだろう。
 ギムレー家の領地の惨状を王太子に見せて、ギムレーにおねだりさせればいい。
 美女に私をお救いくださいと縋られおねだりされてその手を払う男は皆無だ。
 王太子は軍の出動を父である王に頼むだろう。
 王も自分の後継者のお願いを断るのは難しい。
 それに王国軍も平和な時代が続いているからこそ、武勲を欲しがって出動したがるはずだ。
 ギムレー家には十分勝算があるわけだ。

「政治家としては間違ってないですね。その割を食らうのがうちなのが腹立たしいですが」

 ギムレー家がやっていることは彼らの視点からすれば最適解なのだろう。
 経営資源を整理して事業の立て直しを計るのは何ら間違っていない。
 だけどそのせいで将来私が処女を失うのはどう考えてもおかしい。
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