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第一章 立志篇 Fräulein Warlord shall not walk on a virgin road.

第8話 封建的って言うか、野蛮人の群れ?

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王都住まいの王太子様にはわからないだろうけど、この世界は地方へ行けばいくほど封建制が強く人々を律しているのだ。
 貴族が王族に逆らうのはごくごく当たり前のことなのだ。
 いまだに強い中央集権体制は確立出来ていない。
 だから地方の領地持ち貴族は王族に絶対の忠誠を捧げているわけじゃない。
 鎌倉武士みたいな御恩と奉公ってやつだ。
 もっている領地や経済権益の権利を認めてくれるから王に従ってるだけ。
 しょせん封建制度において王様なんて言うのは地域諸侯の首席くらいの力しかない。
 アイガイオン家は爵位こそ辺境伯止まりだが、内実はほぼ独立国家と言い換えてもいいくらいの国力を持っている。
 バッコス王国の国富の半分はアイガイオン家が握っている。
 我が実家ながらパワーがすごい。
 王家がうちみたいな地方貴族の権力とその源泉たる富を削れなかったのには、色々と複雑な国情と建国史のいざこざがある。
 だからギムレーの存在は疎ましいのだ。
 私が彼女を虐めていたのは何も自分の恋愛の邪魔だったからということだけではない。
 私の苛めには一応高度な政治的判断が含まれている。
 今この国はアイガイオン家と王家との間で勢力争いが起きている。
 両家は水面下でかなりモメている。
 だけど閨閥を形成してとりあえず同盟を組みましょうというところで話はまとまっている。
 つまり私は悪役令嬢かつ閨閥令嬢でもあるわけだ。
 ギムレーに王太子が夢中になるのは政治的には非常にまずい。
 もしトチ狂ってギムレーを正式な王妃に!
 なんて言い出した日には政治的大混乱を引き起こしかねない。
 まあさすがにそういうことを言い出すほど馬鹿ではないのだろう。
 今のところはそういうことをしでかしそうな空気はない。
 だけどあわよくば側室に!くらいの下心は感じる。
 中世ヨーロッパ風のくせに側室制度あるからなー。
 おかしいよなー。歴史考証しっかりするべきでは?まあエロゲーだしね。
 女に優しくないのはしょうがないね。原作イベントを思い出す。
 一年後、大戦前夜の政治的混乱の中で、王太子はギムレーを自分の妃にするために誘拐する。
 もうこの時点でヤバいアホ。だけどタイミングは悪くない。
 政治的に小娘一人誘拐したことの罪を責める余裕がないからだ。
 王太子は晴れて恋した女をゲットする。

「まったく無意味なことをしますよね」

 ちなみに彼女はメインヒロインなので、むりやり抱かれるなんてことはないのだ。
 エロゲーのくせに!いやむしろエロゲーだからだろう。
 真っ当で心清らかなエロゲーヒロインというものは主人公以外の手で非処女になることはないのだ(NTR系を除く)。何その無敵状態…。
 古来より権力者に誘拐された女の末路は哀れなはずなのに。
 なんだろうねこの理不尽。そしてこれが原作主人公の蜂起の切欠となる。
 王道、超王道!誘拐されたヒロインを救うために彼は決起して軍閥を立ち上げるのだ。
 いいなぁメインヒロインって、私なんか助けてくれる男いないんだよ。
 そんでそのためにカドメイア州を分捕りにくるわけで。
 で未来の私は負けてしまって戦利品として主人公の玩具になるわけで。
 エロゲー主人公は精子脳のサイコ野郎なので。
 ヒロインを助けるのと、捕虜の女を犯すことを何の精神的矛盾もなくやってくれるわけで。
 くそ!王太子マジ嫌い。全部こいつのせいじゃん!
 決起フラグがまだあった。
 しなきゃいけないことが多すぎて嫌になる。

「無意味とはどういうことだ、ジョゼーファ」

 気がつくと王太子が私を睨んでいた。
 なに?私なんかやっちまったんですかね?どうやら独り言が聞かれてしまったらしい。

「殿下、女の独り言に大それた意味なんてありませんわ」

 卑下しつつ話を切り上げようとしたが、王太子はうざったく私に食い下がってくる。

「果たしてそうかな?おれに何か不満でもあるんじゃないか?言ってみろ」

 鬱陶しい喋り方だ。自分に文句あるなら言ってみろって言う奴に碌な奴がいた試しがない。
 こういう問いを投げてくる奴は例外なく仕事が出来ないパワハラ野郎だった。
 現代社会なら録音してからシカトして弁護士に内容証明を書かせて送り付けるのが最適解だが、ここは中世風異世界。そんな常識的対応は通じない。
 本当にムカつくなこいつ。こいつのいやなところをまた見つけてしまった。
 私がいつでも王太子のことばかり考えていると自然に思っていることだ。

「殿下。わたくしは殿下に不満なんてありません。ですがそのようなことをわざわざ聞いてくるということは、殿下は婚約者としての務めを果たしていない自覚があるということですよね?自信がないからそういうことを聞いてくるのでしょう?」

 こいつにはムカついている。だけどもう不満はない。
 だってこの先の人生でこいつと積極的にかかわる気はないのだから。
 不満なんて持ちようがない。
 文句があるなら行ってみろっていうやつは相手に文句があるからそう言うのだ。
 そして同時に相手の言葉を欲しがる弱者なのだ。

「何を言っている?おれに自信がないだと?」

「自信があるなら。わたくしから文句を聞こうとはしませんよ。自分が至らないことに不安を持つ者のみが相手から話を聞こうとするものです。もう一度言います殿下。わたくしは不満などありません。殿下はどうですか?」

「おれは…」

 王太子は答えあぐねている。
 私は適当にふかしているだけだが、私への態度に自信がないのは事実らしい。
 傲慢だがまだまだ若い。この気まずい沈黙の中で社会科の先生が教室に入ってきた。

「何の騒ぎですか?授業を始めるので席についてください」

 おかしな教室の空気はそれで霧散した。
 私たちのいざこざなど授業という現実の前に吹き飛ぶようなものに過ぎないのだ。
 男女のやり取りって儚いなぁア。
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