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壊れる日常
日常は流れされていく
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欹愛がだんだんと娘ではなくなっていく。それにつれてますます俺は一つの疑問を抱くことになる。じゃあ欹愛の父親って誰?ってこと。妻ならもちろん知っているだろうけど、それを聞けば今の生活は終わりを迎える。そこまでの踏ん切りはついてない。よく妻が浮気した→証拠をかき集めた→復習→ざまぁ!なんていうお話がネットのまとめサイトにはゴロゴロしている。だけどね。
「でも離れたくない」
実際の裁判がどうなるのかは知らないが、俺と欹愛との繋がりがその時点で切れることは想像に難くない。なにせ俺たちは赤の他人なのだ。それに気になることもある。欹愛は自分が俺と血が繋がっていないことを知っていた。それが腑に落ちない。妻がそんなことを話すだろうか?それは絶対にあり得ないと思う。もしかしたら妻は欹愛を俺の子だと思っているのかもしれない。そんな気がするのだ。だから調べなければいけない。あの子がどこから来たのかを。
警察と言えば正義。世間の皆様はそう誤解しておられると思う。でも警察でもかなり暗部よりに所属している俺だからこそわかることがある。警察とは自分を正義と信じて疑わない悪党の集まりなのだと。
「というわけで本作戦であなた方には犯罪者のフリをしていただきます」
俺たち特殊部隊員が集まるブリーフィングルームで公安のキャリア様がとんでもないことを宣っていた。
「今回のターゲットである広域指定暴力団覇竜会系二次団体勇王組組長波動院軍治は歌舞伎町を縄張りとするドラックディーラーの元締めと目されています。そこであなた方の出番です。敵対ヤクザの兵隊のフリをして派手に襲撃し拉致をしていただきます。波動院は確保後にこちらで尋問してドラック販売のネットワークの特定を行います。その後はまた皆様にご活躍いただけると思いますのでご期待ください」
ずいぶんと乱暴な作戦を立てている。どう考えてもこれってイリーガルな任務にしか思えないのだが。
「普通に逮捕状取って確保すればいいんじゃないですか?」
俺は一応質問をしてみる。まあ答えはわかり切っているのだが。
「公安は覇竜会系のドラック販売網を危険視しております。海外の組織とも強く連携している動きも見られます。国民の皆様にそのような恐ろしいことが起きているなんて知らせるのは大変に酷なことでしょう。事件が表になる前に終わらせてしまう。真に優れた治安とは何も起きないことを言うのですからね」
つまり裁判とか捜査とかまどろっこしいから皆殺しで対処しましょっていうすごく乱暴な結論に上層部は至ったらしい。逆に言えばそれくらいにヤバいドラックネットワークを構築されつつあるわけだ。まあ仕事だからやるんだけどね。
「あんたらの都合はわかったけど、けっこう過酷なミッションになると思う。危険手当に色くらいつけてくれますよね?」
「そうですね。それはもちろん」
キャリア様はもっともだという顔で快く頷いてくれた。部隊員たちはみんな喜んでガッツポーズを取っている。
「あとさ、これは俺の頼みなんだけど、個人的に追いかけてる事件があるから、そのために科捜研を使用する権限くれません?」
「はて?特殊部隊の隊長のあなたが捜査ですか?need not to know な事件を追いかけてたりしませんよね?」
「うんなことしないよ。給料をくれる親方日の丸の闇なんてほじくりゃしないよ。あくまでも個人的なことだ」
「それでしたらいいです。ご自由に」
キャリア様は俺の個人的事情には興味がないようであっさりと科捜研の使用権限を認めてくれた。これで警察が集めているDNAデータベースにアクセスができる。それで欹愛の父親が誰かわかるはずだ。でも知って俺はどうすればいいのだろうか?それはまだ決まっていなかった。
今回の任務は珍しく私服での戦闘となる。正直に言って防弾のボディアーマーやヘルメットなどがないことには少し心細さを感じるが仕方がない。そんな装備をしている奴は警察だと自白しているようなものだからだ。俺はジーンズにTシャツ。その上に軽装のチェストリグだけを纏って歌舞伎町のとある雑居ビルの前に停まっているトラックの荷台の中に潜んでいた。そのビルがターゲットの組事務所が入っている。今回の戦闘で銃はMP7にサイレンサーをつけて使うことにした。この銃なら相手が防弾チョッキを着ていても十分殺傷力を維持できる。
「では総員配置に着け。突入準備!」
マスクをした俺たちはトラックから降りて目の前のビルに隊列を組んで突入する。エントランスに入りさっそくヤクザたちに遭遇する。
「カチコミか?!おんどりゃぁああああ!あっ…」
ヤクザたちは懐に手を突っ込んで拳銃を抜こうとしていたが、それより先に俺たちは彼らを射殺した。死体はスルーしてすぐに階段を上っていく。途中でまたヤクザと遭遇した。もちろん射殺。そして組事務所のフロアに辿り着く。偉そうな門構えのドアが鼻についた。むしろ壊すことにやりがいを覚えそうなものだ。隊員の一人が小型のショットガンをドアノブに向けて構える。そしてショットガンが発砲されてドアノブが壊れる。俺たち突入組はドアを蹴り飛ばして中へと突入した。
「討ち入りか?!やったらぁあああああ!うっ…」
イキがるヤクザたちを射殺しながらフロアの奥へと進んでいく。そして一番奥までやってきた。ここが組長の部屋だろう。ドアを破壊して中に入るとヤクザたちがいた。だけどターゲットはいない。とりあえず射殺して部屋の中を物色する。
「たいちょーどこにもいませんー!」
「こっちもいませーん」
「おかしいなぁ?ターゲットはこのビルにいるって観測班が断言してたのに」
観測班も特殊部隊員だ見逃すわけがない。
「なあ。昔聞いたことがあるんだけど。バブリーな頃の社長室ってのは隠し部屋があってだな。愛人とそこでイチャイチャしてたんだと」
俺はそんな逸話を思い出していた。それを聞いた隊員たちはあちらこちらの壁を調べだす。そして一人の隊員が俺の方に手招きをした。
「ここの壁の向こうが空洞見たいですね」
「なるほどねぇ。隠し部屋かぁ」
近くの本棚を横にずらすと扉が現れた。
「ここの組長さんはいい趣味してるねぇ。はい、突入」
俺たちはドアを蹴破り中に突入した。するとそこにははだかの男女がいた。俺たちはここまで静かに侵入してきたから、二人は何にも気づかずに腰だけへこへこ振っていたらしい。
「きゃあああああああああああああああ!」
「うるさい」
俺はまだ若い女の眉間に銃口を突きつけた。それで女は涙をボロボロ流しながら静かになった。
「お、おめぇら!?なにもんだ?!俺の舎弟たちがいたはずだろう?!なんでここにいるぅ?!」
「あ?そいつらなら皆殺しにしといたよ。さて。では着いてきて来てもらおうかなぁ?波動院軍治くぅん?」
俺の部下たちが波動院の両手をテープでぐるぐる巻きにする。そして顔に袋を被せて部屋の外へと引っ張っていく。そしてワンワン泣く女が一人だけ取り残された。
「お嬢さん。これに懲りたら反社なんかとセックスするのはやめておくんだな」
女はこくこくと頷いた。そして俺もまた部屋を後にする。ターゲットを連れてビルの外に出て、トラックの荷台に乗り込む。ターゲットと俺たち部隊員を乗せたことを確認したトラックは走り出して歌舞伎町を後にした。
次の日の朝。
「次のニュースです。歌舞伎町の暴力団の事務所が何者かに襲撃されました。組員は全員銃撃され死亡。組長である波動院軍治氏は誘拐されたようです」
キャスターがニュースを朗読するのを俺たちは家族四人で見ていた。テレビではマスクをした俺たちがターゲットを引きづっていく防犯カメラの映像が流れている。
「怖いわね。ヤクザなんてみんないなくなればいいのに」
妻は嫌悪感丸出しな顔だ。まあ世間様のヤクザへの感情なんてこんなもんだろう。子供たち二人は特に興味もなく朝飯を食べてることに集中している。
「次のニュースです。なんとペンギンが空を飛ぶところが目撃されたという通報が相次いでおります」
「え?まじ?すごく見たいんだけど?!」
欹愛が興味津々にテレビを見ている。こうして次のニュースで俺の仕事は流されていく。そのうち人々も事件そのものを忘れていくだろう。そして日常は続く。俺の日常もまた続くはずなんだ。
「でも離れたくない」
実際の裁判がどうなるのかは知らないが、俺と欹愛との繋がりがその時点で切れることは想像に難くない。なにせ俺たちは赤の他人なのだ。それに気になることもある。欹愛は自分が俺と血が繋がっていないことを知っていた。それが腑に落ちない。妻がそんなことを話すだろうか?それは絶対にあり得ないと思う。もしかしたら妻は欹愛を俺の子だと思っているのかもしれない。そんな気がするのだ。だから調べなければいけない。あの子がどこから来たのかを。
警察と言えば正義。世間の皆様はそう誤解しておられると思う。でも警察でもかなり暗部よりに所属している俺だからこそわかることがある。警察とは自分を正義と信じて疑わない悪党の集まりなのだと。
「というわけで本作戦であなた方には犯罪者のフリをしていただきます」
俺たち特殊部隊員が集まるブリーフィングルームで公安のキャリア様がとんでもないことを宣っていた。
「今回のターゲットである広域指定暴力団覇竜会系二次団体勇王組組長波動院軍治は歌舞伎町を縄張りとするドラックディーラーの元締めと目されています。そこであなた方の出番です。敵対ヤクザの兵隊のフリをして派手に襲撃し拉致をしていただきます。波動院は確保後にこちらで尋問してドラック販売のネットワークの特定を行います。その後はまた皆様にご活躍いただけると思いますのでご期待ください」
ずいぶんと乱暴な作戦を立てている。どう考えてもこれってイリーガルな任務にしか思えないのだが。
「普通に逮捕状取って確保すればいいんじゃないですか?」
俺は一応質問をしてみる。まあ答えはわかり切っているのだが。
「公安は覇竜会系のドラック販売網を危険視しております。海外の組織とも強く連携している動きも見られます。国民の皆様にそのような恐ろしいことが起きているなんて知らせるのは大変に酷なことでしょう。事件が表になる前に終わらせてしまう。真に優れた治安とは何も起きないことを言うのですからね」
つまり裁判とか捜査とかまどろっこしいから皆殺しで対処しましょっていうすごく乱暴な結論に上層部は至ったらしい。逆に言えばそれくらいにヤバいドラックネットワークを構築されつつあるわけだ。まあ仕事だからやるんだけどね。
「あんたらの都合はわかったけど、けっこう過酷なミッションになると思う。危険手当に色くらいつけてくれますよね?」
「そうですね。それはもちろん」
キャリア様はもっともだという顔で快く頷いてくれた。部隊員たちはみんな喜んでガッツポーズを取っている。
「あとさ、これは俺の頼みなんだけど、個人的に追いかけてる事件があるから、そのために科捜研を使用する権限くれません?」
「はて?特殊部隊の隊長のあなたが捜査ですか?need not to know な事件を追いかけてたりしませんよね?」
「うんなことしないよ。給料をくれる親方日の丸の闇なんてほじくりゃしないよ。あくまでも個人的なことだ」
「それでしたらいいです。ご自由に」
キャリア様は俺の個人的事情には興味がないようであっさりと科捜研の使用権限を認めてくれた。これで警察が集めているDNAデータベースにアクセスができる。それで欹愛の父親が誰かわかるはずだ。でも知って俺はどうすればいいのだろうか?それはまだ決まっていなかった。
今回の任務は珍しく私服での戦闘となる。正直に言って防弾のボディアーマーやヘルメットなどがないことには少し心細さを感じるが仕方がない。そんな装備をしている奴は警察だと自白しているようなものだからだ。俺はジーンズにTシャツ。その上に軽装のチェストリグだけを纏って歌舞伎町のとある雑居ビルの前に停まっているトラックの荷台の中に潜んでいた。そのビルがターゲットの組事務所が入っている。今回の戦闘で銃はMP7にサイレンサーをつけて使うことにした。この銃なら相手が防弾チョッキを着ていても十分殺傷力を維持できる。
「では総員配置に着け。突入準備!」
マスクをした俺たちはトラックから降りて目の前のビルに隊列を組んで突入する。エントランスに入りさっそくヤクザたちに遭遇する。
「カチコミか?!おんどりゃぁああああ!あっ…」
ヤクザたちは懐に手を突っ込んで拳銃を抜こうとしていたが、それより先に俺たちは彼らを射殺した。死体はスルーしてすぐに階段を上っていく。途中でまたヤクザと遭遇した。もちろん射殺。そして組事務所のフロアに辿り着く。偉そうな門構えのドアが鼻についた。むしろ壊すことにやりがいを覚えそうなものだ。隊員の一人が小型のショットガンをドアノブに向けて構える。そしてショットガンが発砲されてドアノブが壊れる。俺たち突入組はドアを蹴り飛ばして中へと突入した。
「討ち入りか?!やったらぁあああああ!うっ…」
イキがるヤクザたちを射殺しながらフロアの奥へと進んでいく。そして一番奥までやってきた。ここが組長の部屋だろう。ドアを破壊して中に入るとヤクザたちがいた。だけどターゲットはいない。とりあえず射殺して部屋の中を物色する。
「たいちょーどこにもいませんー!」
「こっちもいませーん」
「おかしいなぁ?ターゲットはこのビルにいるって観測班が断言してたのに」
観測班も特殊部隊員だ見逃すわけがない。
「なあ。昔聞いたことがあるんだけど。バブリーな頃の社長室ってのは隠し部屋があってだな。愛人とそこでイチャイチャしてたんだと」
俺はそんな逸話を思い出していた。それを聞いた隊員たちはあちらこちらの壁を調べだす。そして一人の隊員が俺の方に手招きをした。
「ここの壁の向こうが空洞見たいですね」
「なるほどねぇ。隠し部屋かぁ」
近くの本棚を横にずらすと扉が現れた。
「ここの組長さんはいい趣味してるねぇ。はい、突入」
俺たちはドアを蹴破り中に突入した。するとそこにははだかの男女がいた。俺たちはここまで静かに侵入してきたから、二人は何にも気づかずに腰だけへこへこ振っていたらしい。
「きゃあああああああああああああああ!」
「うるさい」
俺はまだ若い女の眉間に銃口を突きつけた。それで女は涙をボロボロ流しながら静かになった。
「お、おめぇら!?なにもんだ?!俺の舎弟たちがいたはずだろう?!なんでここにいるぅ?!」
「あ?そいつらなら皆殺しにしといたよ。さて。では着いてきて来てもらおうかなぁ?波動院軍治くぅん?」
俺の部下たちが波動院の両手をテープでぐるぐる巻きにする。そして顔に袋を被せて部屋の外へと引っ張っていく。そしてワンワン泣く女が一人だけ取り残された。
「お嬢さん。これに懲りたら反社なんかとセックスするのはやめておくんだな」
女はこくこくと頷いた。そして俺もまた部屋を後にする。ターゲットを連れてビルの外に出て、トラックの荷台に乗り込む。ターゲットと俺たち部隊員を乗せたことを確認したトラックは走り出して歌舞伎町を後にした。
次の日の朝。
「次のニュースです。歌舞伎町の暴力団の事務所が何者かに襲撃されました。組員は全員銃撃され死亡。組長である波動院軍治氏は誘拐されたようです」
キャスターがニュースを朗読するのを俺たちは家族四人で見ていた。テレビではマスクをした俺たちがターゲットを引きづっていく防犯カメラの映像が流れている。
「怖いわね。ヤクザなんてみんないなくなればいいのに」
妻は嫌悪感丸出しな顔だ。まあ世間様のヤクザへの感情なんてこんなもんだろう。子供たち二人は特に興味もなく朝飯を食べてることに集中している。
「次のニュースです。なんとペンギンが空を飛ぶところが目撃されたという通報が相次いでおります」
「え?まじ?すごく見たいんだけど?!」
欹愛が興味津々にテレビを見ている。こうして次のニュースで俺の仕事は流されていく。そのうち人々も事件そのものを忘れていくだろう。そして日常は続く。俺の日常もまた続くはずなんだ。
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