托卵だった娘が『パパのお嫁さんになる!』って言っているのだが?!

令令令 Rey_Cubed

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壊れる日常

壊れる幸せ

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 家に帰りたくないなんて思ったのは結婚して以来初めてだった。だけどいつまでも職場にいるわけにもいかない。子供たちが寝静まったら、妻に娘について問いただす。俺は玄関の前でそう決めてドアを開けた。家の中はまだ明るかった。リビングから妻と子供たちの楽し気な声が響いている。そう楽し気だった。その声には何にも不幸の匂いがなかった。仕事柄、俺はどうしたって人の不幸に触れることが多い。だからそういう気配には敏感だった。今この家は平和で幸せでいっぱいなのだ。俺を除いて。俺は何も声を出さずに、廊下を歩いて階段を上って二階に上がった。そして俺と妻の寝室に入りクローゼットに着ていたスーツをしまう。そしてパンツに白シャツだけのおっさんスタイルになった。きっと世のお父さんなんてこんな家に帰ればこんな格好だろう。この格好でリビングを通り過ぎて風呂に入るのが俺の日課だった。

「まだ子供たちは寝てないのか…」

 もう夜も遅いのに子供たちも妻も起きていた。事件が起きて遅くなる時、いつだって妻も子供たちも起きたままで俺の帰りを待っている。それは家族として愛されてるからだとちゃんと思えた。だけど今となっては。俺は階段を下りてリビングに入る。するとテレビの前のソファーでくつろいでいた妻がそばに寄ってくる。

「おかえりなさい。ご飯食べる?」

 妻が楽し気にそう問いかけてくる。子供たちは俺の姿を確認して、ほっとしながらテレビに顔を向けた。テレビからは今日俺が担当した地下鉄立てこもり事件を繰り返し流していた。俺がこの事件のせいで遅くなったことをわかっているのだろう。

「え、ああ。そうだな。そうする」

 心配をかけていたことに罪悪感を覚えてしまい、俺は妻の提案にそのままのせられてしまった。テーブルについて、遅めの夕食が出された。妻の料理は美味しい。何の不満も覚えたことがない。これからだってそうだと思っていた。俺はご飯を食べながらテレビの前の子供たちに目を向ける。息子の礼親あやちかはカーペットの上で何やら難しそうな本を読んでいた。娘の欹愛いよりはソファーに寝っ転がってスマホを弄っている。ごくごく普通の光景だ。これにだって何の不満もない。だけどそれは昨日までの話だ。娘の顔を見る。妻によく似ていてとても美人だ。それが俺には誇らしかった。だけどこの子は俺に全く似ていない。だって血がつながっていないから。

「でもパパ無事でよかったよねー。久しぶりにガチな出動だって聞いたからホント心配だったんだよ。お母さんもずーっとテレビにかじりついて心配しておろおろしてたし。普段スカしてるあやちゃんもなんか心配げだったしねー」

 娘が上半身を起こして俺の方に顔を向けた。その時、彼女の大きな胸が揺れた。娘は下着姿だった。この子はいつも下着姿で夜を過ごす。小さいころに俺がいつも夜になるとシャツとパンツ一丁で過ごしていたのを見て、そうなってしまったそうだ。流石に思春期を迎えてからは、服を着るように言っているのだが、一向に言うことを聞かない。他のところでは素直に親の言うことを聞くのに、この癖だけは治らなかった。

「女の子みたいな名前で呼ぶなよ姉ちゃん。てかお父さん帰ってきたんだから服着なよ。みっともない」

「えーべつにいーじゃん家族なんだし。三つ子の魂百までだし、娘は父親に似るっていうし、わたしのこの格好は治らないって。あはははは」

「そんながさつだから面がいいのに彼氏も出来ねーんだよ」

「は?わたしはモテるし!今日だってコクられたのよ!振ったけど!」

「あっそ。雑魚モテ自慢乙です」

「うわーマジでクソガキ。生意気ー!あはは」

 うちの姉弟同士の仲はいい。年頃になってもとくに確執をお互いに抱いたりはしなかった。ごくごく普通の幸せがここにはあった。

「そういえばパパ!この間の模試ちゃんと約束通り全国ランキングに載ったよ!だからお願い!」

 娘が立ち上がって俺の方に近づいてくる。

「お願い?…あーそれね」

「そうそう!門限伸ばしてくれるってやつ!わたしちゃんと約束守れるよ!だからいいでしょ!ねーってば」

 娘が俺の手を撫でてくる。俺の顔を覗き込む娘の顔は快活ながらもどこかコケティッシュに見えた。だから俺の手を撫でるその感触は…。

「私は反対。好きなものは買ってあげるからそれで我慢して。門限を伸ばすのはダメ。そんなことしたらずるずると夜遊びを覚えかねないもの。ダメよ私は認めない」

「ちゃんと時間は守るよ!でも友達と遊べるのって学校行ってる間だけだよ!もっと一緒に時間を過ごしたいよ!」

「だめ。そのお友達の中には男の子だっているでしょ。母親として認めない。だいたいあなたは最近スカートも短いし、お化粧も少し派手になってるし」

「そんなの普通でしょ!でもちゃんと勉強したじゃん!」

 普通の親子の小競り合いだろう。よくある風景。

「だめよ。だっていつも言ってるでしょ。下着姿でうろうろするなって。でもそれ守れたことある?」

「うっ。でもパパだってそうじゃん」

「あなたは女の子でしょ。お父さんと一緒にしないで」

「でも家族だよ。気にしなくてもいいでしょ。ねぇパパ!そうだよね!」

 娘が俺の腕につかまってくる。胸の柔らかな感触が伝わってきた。それに女特有の甘い体臭の匂いも感じた。それが否応なく俺の体の芯を震わせてくる。いやでも理解する。この子は俺の娘ではない。この子は俺にとって『女』にしか見えないのだと。

「…ふくをきろ」

 俺は小さな声でそうつぶやいた。触れられるのが恥ずかしくて、なのに心地よくて。それが何よりも痛くって。

「え?何か言ったのパパ」

「いいから今すぐに服を着ろ!!」

 だから俺はぐちゃぐちゃした心を抑えるために大声で欹愛を怒鳴りつけた。その時一緒にテーブルも拳で叩いた。コップが一つその拍子に床に落ちて割れた。

「え、その。パパ?どうしたの?なんか機嫌悪かった?」

「約束が守れるっていうなら今すぐに服を着ろ。今すぐに!!」

「ひっ!は、はい」

 欹愛はおろおろしながらすぐにソファーの上にあったパジャマを着た。可愛らしい半袖短パン。短パンから覗く太ももがとてもいやらしく見えた。昨日まではそんなことなかったのに。

「今お前の顔を見るのは不愉快だ!今すぐに上に行って寝ろ!」

「え?パパ?どうしたの?わたしなにかやっちゃった?」

 欹愛は涙目でオロオロしている。憐れだ。この子は何にも悪いことをしてないのに。息子は怪訝そうな顔で俺のことを見ている。そして妻は心配そうな顔で俺を見ていた。

「欹愛。お父さん今日は疲れてるからね。大人しく上に行こうね」

 日和は欹愛の肩を抱いて、リビングから出ようとする。母親が娘を庇うのはきっと当たり前のことだろう。だけどそれが気に入らなかった。だって俺と欹愛は娘じゃない。托卵の娘がそんなに大事か。

「日和!欹愛には一人で上に行かせろ!お前は床のコップを片付けろ!」

「ちょっとお父さん?!本当にどうしたの?!今日のあなたはおかしいわよ!」

 お父さんと日和は俺のことを呼ぶ。欹愛が生まれてからずっとそう呼ばれてる。下の名前で呼ぶのはセックスするときくらいだ。だけどそれは嘘の呼び方だった。

「鬱陶しい!お父さんなどと呼ぶな!とにかく俺の命令に従え!」

 俺は立ち上がって風呂場に向かった。風呂場に入って下着を脱いでいると、欹愛の泣き声がリビングから響いてきた。俺はいったい何をしているんだろう?幸せだったのにそれはたった今俺の手で壊れてしまった。いいやもともと嘘の幸せだった。それが今暴かれてしまっただけだと俺は自分に言い聞かせた。

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