17 / 18
第3章 略奪溺愛とか重すぎるので、逃げ出させていただきます!しかし回り込まれてしまった!
第17話 大抵の場合、王太子の傍にいるぶりっ子清楚系ビッチは、『恋』に足元を掬われる。
しおりを挟むフェンサリルは特殊部隊員たち相手にまだ戦っている最中だ。挑発して時間を稼ぐしかないな。
「あなたのことを見誤っていました。てっきり戦いなんて野蛮なことは殿方にまかせて銃後で蝶や花を楽しむようなレディーだと思ってましたからね」
「はっ!あんたもしかしてあたしのことをぐずかなんかだと思ってた?いつもニコニコして馴れ馴れしく男たちを惑わして媚びうることしか考えてないおバカな女の子だって思ってた?舐めるなジョゼーファ!!それこそお前が女のくせに女を舐めてる証拠なのよ!!」
怒鳴り声で一瞬体が怯んでしまった。
「あんたはあたしみたいな女を心底馬鹿にしてるんでしょうね?違う?いっとくけどあんたの方がずっと馬鹿よ。なんであんた自分で戦場を駆け抜けるの?男にできる仕事は男にやらせればいいのよ。わざわざ女がやる必要なんてない。男が勝ち取ってきた物の上前を撥ねれば良いだけなのにね。それができるのが女なのに」
「わたくしは自分のなすべきことを他人の手に委ねたくないだけです」
「違うわね。あんたは男に頼るのが下手なんでしょ。だって意志薄弱だから」
「違います」
「違わないわ。あんたは意志が弱いわ。他人の意志に流されやすい弱い女。よくいるわよね。誘われると断れない女。自覚あるんでしょ?」
「全然違います」
「図星ね。ねぇジョゼーファ?フェンサリルの奥さんになる妄想は愉しかったんじゃない?」
クスクスとミュレルは笑った。それが酷く私を苛立たせた。
「いい男よねフェンサリル。顔もいいし腕っぷしもある頭も切れる。幕府へ行っても出世街道に乗るんでしょうね。素敵ね。同期一番の出世頭。家庭想いのいい夫。あなたはそんな彼を健気に支える可愛い可愛い奥様!あなたは糟糠の妻でありながら、誰よりも美しい人に誇れる妻として君臨し続ける。あなたたちは誰もが羨むカップルで、いずれはこの社会の上にまで上り詰める。子共たちは可愛く、孫たちは栄えるでしょう。そんな退屈な幸せ。ああ、素敵よね」
別に誰だって傍にいる男と結婚したらどうなるんだろうと想像することくらいある。咎められるようなことじゃない。
「くだらない妄想はやめてください。それはわたくしの夢ではない。あなたの願望だ」
「いいえ。女の子すべてが望む野望よ。目を背けないでよジョゼーファ。あたしはあんたにチャンスを持ってきてあげたのよ」
この女になぜ女の代弁者を名乗る資格があろうというのか、だけど私はそう言葉にできなかった。私はこの女の言うことを認めたくないのに。
「チャンス?」
「そう。チャンス。あれを見て」
彼女が指さす先は雲海だった。そこに一隻の船が浮いていた。
「あんたにはあれをあげる。フェンサリルと一緒にあれに乗ってあたしから逃げなさい」
「へぇわざわざ逃げ道を用意してくれると?」
「ええ、あたしは寛大なの。あんたが悔い改めて普通の女の子っぽく生きていくならここで殺さないで許してあげる。そしてあたしたちはあんたの前に二度と姿を見せたりしない。結婚して幸せに生きて退屈な女になってちょうだい」
「退屈な女?退屈?」
「そうよ。退屈でありふれていてテンプレートでありきたりな幸せを掴んでよジョゼーファ。いいじゃない別に。仕方ないでしょ?だってあんたよりあたしの方が強いし、フェンサリルよりあたしの男の方がずっと強いんだもの!諦めていいのよジョゼーファ!仕方ないの!仕方ないんだからね!あはは!あはははは!!」
状況は私に圧倒的に不利だった。この船はすでに敵の制圧下に等しい。フェンサリルもラファティもファビオも足止めを喰らってる。そう仕方がない。だけど、私は我がままなんだ。だからこの選択は仕方がない!私はミュレルに向かってライフルの引き金を弾いた。銃声が甲板に広がる。
「なっ?!あんたバカなの?!あたしの!あたしの顔を狙うなんて!!」
銃弾はミュレルの頬を掠めた。スパっと切れた傷口から血がつつーっと流れて頬を赤く汚す。だが傷は聖女の特性で一瞬にして綺麗に治ってしまった。攻撃としてはあんまり意味がない。
「あら?せっかくお化粧のお手伝いをしてあげたのに。似合ってますよ!その頬紅!!」
「ふざけんな!!彼が傍にいるのよ!あたしの化粧を崩しやがって!!あの人にブスって思われたらどうしてくれるのよ!!」
ミュレルは鏡で自分の顔を見ながら必死にオペラグローブで血を拭っていた。
「あの人、あなたの彼。国王陛下ですね」
「そうよ。あたしはララミー様の女」
薄々そう思って居たけど、実際そう言われるとなかなかきつい。国王陛下はこの女にキスするのか。その先も…。その時彼はどんな顔をするんだろう。だけど。
「そんな奴がその息子に品つくっていたのかは今となってはどうでもいいですけどね。一つお忘れですかね?」
この女は目を背けてる。私は敵の心をいつもへし折る戦い方を心掛けている。私自身は暴力にそこまで優れているわけじゃないからだ。思い出させてやる。
「なに?!何が言いたいの?!」
「あなたの男はわたくしに夢中なんですよ。このわたくしにね!!あは!」
ミュレルが唇を噛んで私を睨む。酷く怖い顔。だけど同時に憐れな顔でもある。あんなに可愛くて皆に愛されるマルルーチェちゃんはこの私に嫉妬しているのだ。
「ああ…。彼はわたくしにこう言いましたね。面白い女と。ねぇマルルーチェ・ミュレル?あなたは面白い女って彼に言われたことありますか?」
「ぐぅぁっ…あ…っ」
声にならない苦悶の息が彼女の可愛らしい唇から漏れる。大変遺憾ながら国王陛下は私に夢中なのだ。理由はよくわからない。わからないなりに気持ち悪い部分もあるが、同時にどこか女として誇らしい気持ちになる部分もあるのは否定しない。もっともこのような残虐な虐殺まで引き起こすのだから国王陛下の気持ちを受け入れるつもりにはなれそうにない。だけど彼女は違う。とても惚れ込んでいる。普段はどんな男にも肩入れせず、ひらひらと男たちの間を優雅に飛び回るような女だったのに、たった一人の男の愛を欲しがって悶えてる。人は恋に狂う。それはとても恐ろしく、なによりも漬け込みやすい隙だった。
「銃剣突貫!!」
その隙を逃すほど私は子供じゃない。私は再び銃剣突撃を実行する。
「っ?!しまった?!」
私の銃剣は今度こそミュレルの心臓を捉え貫いた。駄目押しで引き金を弾いて心臓を銃弾でさらにグチャグチャにしてやる。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!」
そして突撃の勢いそのままくらった彼女の体は吹っ飛んでいき、欄干に激突してその場に倒れ伏した。
「あまり優雅ではありませんが、わたくしの勝ちです。あなたがわたくしに負けたのは、女であることに拘り過ぎたことですね。はっ!」
敵の親玉は排除した。ここからが私たちの逆転の時だ!
0
お気に入りに追加
39
あなたにおすすめの小説
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―
望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」
【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。
そして、それに返したオリービアの一言は、
「あらあら、まぁ」
の六文字だった。
屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。
ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて……
※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【本編完結】異世界再建に召喚されたはずなのにいつのまにか溺愛ルートに入りそうです⁉︎
sutera
恋愛
仕事に疲れたボロボロアラサーOLの悠里。
遠くへ行きたい…ふと、現実逃避を口にしてみたら
自分の世界を建て直す人間を探していたという女神に
スカウトされて異世界召喚に応じる。
その結果、なぜか10歳の少女姿にされた上に
第二王子や護衛騎士、魔導士団長など周囲の人達に
かまい倒されながら癒し子任務をする話。
時々ほんのり色っぽい要素が入るのを目指してます。
初投稿、ゆるふわファンタジー設定で気のむくまま更新。
2023年8月、本編完結しました!以降はゆるゆると番外編を更新していきますのでよろしくお願いします。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
【完結】私を虐げる姉が今の婚約者はいらないと押し付けてきましたが、とても優しい殿方で幸せです 〜それはそれとして、家族に復讐はします〜
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
侯爵家の令嬢であるシエルは、愛人との間に生まれたせいで、父や義母、異母姉妹から酷い仕打ちをされる生活を送っていた。
そんなシエルには婚約者がいた。まるで本物の兄のように仲良くしていたが、ある日突然彼は亡くなってしまった。
悲しみに暮れるシエル。そこに姉のアイシャがやってきて、とんでもない発言をした。
「ワタクシ、とある殿方と真実の愛に目覚めましたの。だから、今ワタクシが婚約している殿方との結婚を、あなたに代わりに受けさせてあげますわ」
こうしてシエルは、必死の抗議も虚しく、身勝手な理由で、新しい婚約者の元に向かうこととなった……横暴で散々虐げてきた家族に、復讐を誓いながら。
新しい婚約者は、社交界でとても恐れられている相手。うまくやっていけるのかと不安に思っていたが、なぜかとても溺愛されはじめて……!?
⭐︎全三十九話、すでに完結まで予約投稿済みです。11/12 HOTランキング一位ありがとうございます!⭐︎
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる