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第3章 略奪溺愛とか重すぎるので、逃げ出させていただきます!しかし回り込まれてしまった!

第14話 旅立ち

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 夜があけると、私は短振袖に袴にブーツの最近流行りの女学生さんスタイルに着替え、フェンサリルは背広。ラファティたち特陸メンバーたちはおのおのごく一般人の服を纏ってカモフラージュした。今日の昼頃に幕府直轄領行きの船が港から出る。港は軍の警備下にあるだろうことは予測されていた。だが私の特陸はこういった任務こそ強みを発揮する連中なのだ。私たちは二手に分かれた。一つはメネラウスが率いる。港近くにある憲兵隊基地で撹乱作戦を行う。派手に暴れてスラムに逃げ込む陽動を行う。その隙に私たちは港内部に潜入する。なずけてピンポンダッシュ作戦。
 短剣をホルスターから抜いたラファティは曲がり角に立っていた歩哨に後ろから近づき。

「ぐっぅ」

 背後から背中を一突きし、静かに絶命させた。同時に遠くからどでかい爆発音が響く。憲兵隊基地の方からモクモクと煙が上がっている。陽動としては上場である。実際港の兵士たちの一部が応援という形でぞくぞく引き抜かれていく。

「順調ですね。順調すぎるくらいに…拍子抜けですね」

 倉庫エリアを兵士を静かに屠りながら進み、私たちは一般人たちが行きかう乗船ドックまでたどり着いた。ここでいざという時のためのバックアップ用要員たちと私とフェンサリル、それに護衛のラファティ、ファビオの乗船四人組で別れた。

「幕府の船っていうから軍艦化と思ったら普通の客船なんですね。でもなんか豪華!ウッドデッキある!すごいすごい!見て見てファビオ!プールもある!水着中で売ってるかなぁ!?超入りたい!」

 私たちが歩いている欄干の下の方に見えるドックに幕府の客船が停泊していた。上から見ると船上のプールやカフェ、展望台などが見えた。さらに言うとまだ『注水』されていないので普段は見えない船底の方まで見えそうになっている。船の横にはいくつかのシャッターが見えた。

「うわぁ。流石中央の船だなぁ。ベットもふかふかなんだろうなぁ」

 ラファティとファビオは任務とは言え幕府の船の豪華さにどこか浮足立っていた。

「逃避行中のわたくしたちにはちょっと頼りの無さそうな船ですね。襲われても大丈夫なんでしょうか?」

「幕府の船を襲う馬鹿は基本的にいない。それに見かけは客船だが、ちゃんと武装も蒸騎戦も積んでる。確か型番SN-12・アザミを3機積んでるはずだ。辺境だったらこの程度で十分だろうね。まあそもそも俺たちを追いかけてるのは曲がりなりにも正規軍の連中だ。幕府船籍の船に喧嘩を売るはずがない」

 蒸騎戦アザミは現行の幕府のSN-20の一世代下の機体だがそれでも辺境で出回っている機体と比較してキルレシオ1:4を誇っている。 だから辺境の海賊なんかに襲われても平気。

「たしかにそうですね。わたくし疲れてるんでしょうね。無駄な心配をしました。正規軍が幕府相手に喧嘩を売るはずありません。あの英邁で戦上手な国王陛下ならこの船に手を出すまずさはわかっているはずでしょうしね」

「あんな騒ぎを経験すれば用心し過ぎても仕方がないさ。だがここまでくれば大丈夫だ。早く船に乗ってしまおう」

 私たちはフェンサリルのあとについて、船のエントランスに入る。身分証を提示する。

「ん?カドメイア州海軍大尉ラファティ・マクリーシュさま?同じくカドメイア州海軍一等兵曹ファビオ・フェルヴァークさま?それにジョゼーファ?身分はバッコス王国貴族。つーかなんで苗字ないの?辺境の奇習?すみません。あなた方三名は搭乗リストにはお名前がございませんが」

 身分証とチケットを確認していた乗員が私たちの事を燻しがっていた。そこにフェンサリルが幕府の身分証を出して見せつける。

「!失礼いたしました!幕臣の方の関係者とは知らずに大変なご無礼を!」

「いやかまわない。こちらの三名は特殊作戦の関係者となる。詳細については軍機につき申し上げられない」

 フェンサリルがどことなく申し訳なさそうに、嘘をついた。

「あ…。いえいえ!かまいません!どうぞお入りください。私たち乗組員はなにも存じません。こちら、三名様の臨時の乗船許可証です。どうぞお通りください」

 私たちはあっさりと通してもらえ、客船の中に入れたのだった。


 船内の通路を私たちは歩いていた。


「さっきの特殊作戦!いいですね!なんかスパイ映画みたいでしたね!わたくしちょっと楽しかったです!うふふ」

「俺は幕臣失格だ。あはは。まさか密航の手引きをすることになろうとはなぁ。あはは、はは…」

 フェンサリルはルール違反をして少し凹んでいるようだ。実際幕臣はエリート中のエリートだ。必要とはいえこのようなことは本意ではないのだろう。だけどやっぱりフェンサリル、スパイ映画好きだよね。…中央に行ったら映画とかに誘ってくれたりするのだろうか?

「お嬢様!水着見に行きません!?プール入りましょうプール!」

「ラファティ一応任務中なんですけど…」

「いやーもう大丈夫でしょ。船の中は幕府の領土扱いですよ。王国軍がわたしたちに気がついても、もう引き渡しなんてできませんよ」

「まあそうなんですけどね。うーん。せめて船が港を出るまで待ってください。あとは私は水着は着ません」

「えー!着ましょうよ!せっかくのプールなんですから!お嬢様のスタイルの良さをこの船の皆さんに見せつけてやりましょう!!」

 どうしても渋い顔になってしまう。私は別に太ってはいないし、やせすぎてもいないはずだ。だけどなんというか露出は苦手だ。単純に恥ずかしいのもあるし、一応貴族令嬢として育った身だ。ラファティは褒めくれてるから断りづらい。だからフェンサリルの方に目を向ける。フェンサリルは少し顔を赤くしているように見えた。

「ん?ああ…。水着ね。はは。ははは」

 あれ?なんかポンコツな反応だ。頼りにならないけど、なんかそのドギマギした彼の笑みが可愛らしく思えてしまう。

「初心かよヘタレ幕臣!まあいいや。幕府までは日数もあるし、プールチャンスはまだあるんだぜ!ふふふ」

 ラファティはどことなく楽しそうにフェンサリルの肩を叩いて、私たちの前を歩いていく。

「ファビオ―なんか食べたいものあるー?おごってあげるー」

「え?姐さんいいの?でもこの船の料理絶対高いよ」

「大丈夫大丈夫。そこらへんのりっちなおっさんパパの財布をカモるにおねだりするから」

「あんた特殊部隊員だろ!?パパ活とかやめろよ!」

「いまさらかなぁ。オフの時はわたしキャバ嬢だしね。パパ活も大して変わらないよ。たぶん。エッチとキスしなきゃセーフでしょ?」

「いや絶対違う!絶対に違う!一線超えちゃダメ!俺焼きそばパンとかでいいから!安いのでいいから!」

「うわぁファビオいい子!キュンキュンする!ドンペリタワーを建ててあげよう!わたしを推してくれるおっさんの金で!」

 2人はまるで仲の良い姉弟のようにじゃれ合っている。特殊部隊員は皆仲がいい。命を預け合う者同士の不可思議な絆がある。そういうのが羨ましいといつも思っている。

「ジョゼーファ。俺は腰に巻くあの布のようなものがあれば恥ずかしくないんじゃないかと思うんだがどうだろう?」

「時間差ですか…!?…まあ考えておきます。うふふ」

 フェンサリルのおバカな回答にわたしはどことなく満足してしまった。水着を着てもいいかなって思ったのだ。

『お客様にお知らせいたします。本艦はまもなくバッコス王国本当を離陸し、『雲海』へと出航いたします。お知らせします』

 船内にアナウンスが響き渡る。それを聞いた私たちは船上のデッキに出た。欄干に手をのせて船の外を眺める。

「うわぁやっぱりきれいだなぁ。ああ、いつかは素敵な彼氏と一緒に見たいなぁ」

 ラファティは目の前の光景にウットリとしていた。実際それはとても綺麗なものだった。船の止まっていたドックに虹色の雲が流れ込んできてきた。そして一瞬フワッとした浮遊感を感じたと思ったら、船がその雲の上に浮き始めたのだった。そして船の周囲に一瞬煌めく膜のような光が奔った。そして船の目の前にあるゲートがゆっくりと開き始める。ゲートの向こうから眩い光が漏れてきた。

『『『おおおおおおお』』』

 船客たちが皆一応に感嘆の声を上げた。ゲートの向こうに広がっていたのは、世界の果てまで届くような一面の虹色の雲と星々の浮かぶ深い黒の空。私たちはこの一面の雲景色を海と呼ぶ。船はこの雲の上を浮いて進むのだ。

「やはり素晴らしい光景だ。男ならこの光景の果てまで船で漕ぎ出したいと一度は思うものだ。なあファビオ君」

「そうっすね!ロマン在りますよね!この雲海と宇宙の果てって何があるでしょうね!見てみたいなぁ」

 男子二人は何かよくわからない夢を語り合っていた。果てに行っても何もないような気がする。それでも旅立ちたいのか?男心はわからぬ。わからぬが二人の横顔はなんかかわいかったので今日はセーフにしといてやる。私たちが普段住んでいるのはこの雲海の底にあるとされる大地から伸びる樹の上にある。神話によると人類が各地に住む陸、すなわち島は巨人が伸びていた樹を切った切株なんだそうだ。まあ神話なんてあてにはならない。だけど私たちの住んでいる場所が切株だろうがなんだろうが住めればいいのだ。どうだっていい。雲海を進む船上の景色を見て、やっと私は安堵した。

「ふぅ…これでやっと安心ですね」

 気がついたら私は隣にいるフェンサリルの肩に頭を預けていた。油断した。だけどなんでだろうこの感触にひどく安心する自分がいる。同時に頭を伝わって胸の音が伝わってしまったらどうしよう。あるいは頭を預けたせいで髪型崩れて可愛くなくなってしまったらどうすればいいんだろう。どうでもいいことばかり考えてしまう。昨日はあんなことが起きたのに。カーティスの首が目の前で吹っ飛んだのに、私は喪にさえ服してない。一応婚約者だったはずなのに。婚約破棄されても当然かもしれない。こんな冷たい女は。

「あたたかいな」

「え?」 

「あ、いや。すまない。女は冷え性が多いと聞いていたのに、お前の身は温かく感じたんだ」

「ふふ。冷え性でも氷のように冷たいわけじゃないですよ」

「そうかそういうものか」

「そういうものです」

 拒絶はされてなかった。フェンサリルの声は優し気に聞こえる。

「ほら、姐さん!行くよ!」ひそひそ

「えー煽りたいィ!ヘタレ幕臣あおりゅのぉー」ひそひそ

「ほら!パパ活して奢ってくれるんでしょ!いくよ!ドンペリドンペリ!」ひそひそ

「キャーファビオったらごーいん!…がんばれお嬢様!」ひそひそ

 いつの間にかファビオ達はいなくなってしまった。それに周りも静かだ。ライトはついてない。虹色の雲から漂ってくる淡い光だけが展望台を満たしてる。

「…」

「…」

 あれ?こういう時どんなことを話せばいいんだろう?政治とか?だめだ!昨日のドンパチを思い出してしまう。科学技術の発展とか。その会話で何ができるのか?!株式、経済ぃ!だめ!お金の話は生臭い!どうしようどうしよう!なんか泣きたくなってきた。こういう時にどうすればいいのか。それすらわからないなんて。こういう時あのピンク色の髪の女ならうまくさばくのだろう。

「すまなかったジョゼーファ」

「え?なにがですか?」

「お前に夢を諦めさせるような提案をしてしまった。お前の願いはバッコス王国の政治を司ることだったのに。幕府に逃げ込めばそれは叶わない」

「…いいえ。昨日の馬鹿騒ぎの時点でもう無理だったんでしょうね。それに国王陛下のわたくしへの執着。どうせいつか道は閉ざされてましたよ」

 国王陛下のやってきたことは私の計算にはなかった。あんな獰猛な本性を隠していただなんて思わなかった。…いやだな。あの人のあの笑みと獣のような瞳。思い出すだけで、この身はまだ甘く痺れるのだから。
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