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第2章 婚約破棄されたと思ったら、国王陛下が略奪溺愛のアップをはじめました!
第8話 なんとも笑えないざまぁ。--婚約破棄エピローグ--
しおりを挟む「ああ、マギー。わたくしはやりました」
自然とその名前が出た。マギー。私の大切な大切なお友達。もうこの世界にはいない。私は彼女に誓ったのだ。
『ジョゼーファ。あたしみたいな汚い女の子には王子様は来ないの』
『あなたは汚くない!汚いのはこの国の方!!だからわたくしが!あなたのお…』
昔の事を思い出して思わず瞳をぬらしてしまう。ギリギリ涙が零れるのを耐えていたその時だ。
「マギー?ああ、君のお友達のマグダレン・マリオンのことかい?」
国王陛下が私の友達のフルネームを口にした。ありえない。その名を知るものはごくごく限られている。彼女と私にプライベートな付き合いが会ったことを知っているものはほとんどいないはずなのに。
「えっ?…なぜその名を?」
輿入れ前に素行調査をされたのだろうか?それならおかしいとは思わない。だけど国王が知っているという言葉のニュアンスには報告書以上の感情的匂いを感じたのだ。
「知っているさ。君の事なら何でも知っている。君の知らない君自身の事さえ知っているのだから」
本来ならこんな言葉は気持ち悪いと思った方がいいのかもしれない。だけどそれ以上に、この人は、この人は、私の事を…ずっと気にかけていた。その事実に何か例えようもない高揚を覚える自分がいるのを感じた。だけどこれは駄目だ。理性はこの人への警戒をしきりに打ち出している。国王陛下が私の耳もとに唇を近づけてくる。社交でよくやる挨拶のキスか何か?胸がとくんと跳ねて体が固まる。唇が頬に触れるのを待ってしまう。だけどその感触はこなかった。代わりに耳元に囁かれた。
「なあジョゼーファ。私は君を娘とは思えそうにないんだ」
「…ふぇ…ええ、確かに突然こんなことを言われても陛下とて戸惑ってしまいますよね。はは」
どういう意味でいったのだろう?可愛くないからいやなのか?それともそれとも!?言葉の続きが気になる。嫌聞きたくない!そのはざまで揺れる自分が酷く滑稽で。
「今思いついたんだけど。そう。君が女王になりたいというならば、私と結婚するかね?」
「っんん!!」
思わず両手で口を押さえてしまう。漏れ出す。感情がきっと漏れ出してしまう。だから必死に抑える。だめだめなのそれはだめ。国王陛下の瞳の奥に激しい火が見えたような気がした。だがすぐに彼は顔を逸らしてしまう。まだ私は返事をしていないのに、私の傍から離れて行ってしまう。思わず手を伸ばしそうになった。だが届かない。彼の肩越しにミュレルと目が合った。彼女は私を睨んでいた。だから声に出さずに唇だけを動かす。
『かれはわたくしにむちゅうなの』
きっと伝わっただろう。ミュレルの目から涙が一筋零れた。国王陛下がすぐそばにいるからだろうおすまし顔をしているけど、必死に涙を堪えているのがわかる。私は勝った。全てを手に入れた。政治だけじゃない。おんなとしても勝利してしまったのだ!
「ばんざーい」「ばんざーい」「ばんざーい」「ばんざーい」
私は会場の皆に向かって手を振る。人々が私を讃える声はとても心地の良いものだった。
*********
ジョゼーファから離れたララミーは膝をつくカーティスの傍に立った。
「がっかりだよ。お前はもう息子ではない。何処へでも好きに行くがよい」
カーティスの背中が大きく震える。ララミーに向かって上げた顔には絶望がありありと浮かんでいた。
「そんなぁ父上!おれは頑張ったんです!信じてください!みんなわかってません!ジョゼーファは魔女です!!あいつは全部全部持って行ってしまうんです!だから怖かった!おれは怖かった!やっぱり魔女だった!あいつがおれを破滅させたんです!!」
「お前が破滅したのはお前の器故にだ。ジョゼーファのせいではないよ。だがね。言いたいことはわからないでもない。あの子は、そう、魔女でもあるのだろうね。くくく」
酷く楽し気にララミーは笑う。そして腰に佩いていた短剣をカーティスの目の前に投げた。
「自害しろってことですかぁ。いやだいやだようぅ。おれは!おれは父上の跡を継ぎたい!継ぎたいだけだったんです!それを邪魔されないためにジョゼーファを追放したかっただけなのにぃ」
カーティスは涙を流しながらかすれた声で喚く。その背中に向かってララミーは酷く優し気な声で囁いた。
「カーティス。この世の真理を教えよう。この世界に王、すなわち主権者とはただの一人だけだ。王の跡を継げるものはこの世にただ一人だけなのだ。ならばお前が王になるにはどうすればいいかわかるね?」
ララミーの瞳は愉しそうに歪んでいる。そしてその奥には何か形容しがたい狂気の陰があった。そしてカーティスはその狂気に飲まれて、目の前の短剣を手に取った。そして彼は叫びながらジョゼーファに向かって駆けていった。
************
突然の叫び声に私の手が止まった。振り返ると禍々しい目で私を睨むカーティスの姿が映った。彼は短剣をもって私に向かって走ってきている。
「うああああああああああああああああああああああああああああああ!!あああ!ああああっあああああああああああああああ!しねぇええええええええええええええええええええええ!!」
「そんな!?心はちゃんと折ったのになんで?!」
私はとっさの事で体が反応しなかった。カーティスはもう何もできないはずだったのに、一体何が起きているのか。
「下がれジョゼーファ!!」
フェンサリルが私を荒々しく突き飛ばす。私は床に倒れ込む。そしてカーティスの短剣を剣で払う。
「血迷ってるのか?!すぐに武器を捨てろ!!」
「うあああああああああああああ!どけぇえええええええええええ!!」
人間は時に恐ろしいほどの力を発揮する。カーティスはフェンサリル蹴って怯ませる。そして床に倒れた私に覆いかぶさり短剣を大上段から私の顔めがけて振り下ろしたのだった。フェンサリルの叫び声が聞こえる。
「!ジョゼーファアアアあああああああああああああああああああああああああ」
だが短剣は私の身を傷つけることはなかった。代わりに私のドレスに赤いしみが出来ていた。見上げるとさっきまでそこに見えていたはずのカーティスの顔がなかった。ごろん。そんな重くてどこか間の抜けた音が響いた。
「え?うそ?え?え?いや!いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
ミュレルの足元に金髪の首が転がっていた。その首の顔は良く知っている。
「くそ…加減できなかった…!」
フェンサリルの手にある剣は血糊でべったりと真っ赤に染まっていた。
「おやおやおや。これこれこれは。ああ、なんて親不孝な息子なんだろうね」
国王陛下は静かな笑みを讃えている。人々がみんなどよめき悲鳴を上げているのに、彼だけが笑っている。
「ああ、カーティス。だからいっただろう?王になれるのは一人だけなんだ。お前にはその器がない。身の程知らずの夢をみてしまったからお前はこの世界から退場してしまったんだよ」
転がる首はカーティスのものだった。フェンサリルは私を守ろうとして彼を勢い余って殺してしまった。
「さてさてジョゼーファ。その騎士たるフェンサリル・ケルムト。君らは大罪を犯してしまった。王族を弑し奉りし者に送られる罪の名は大逆罪。さあどうやって償ってくれるのかな?くくく」
すべての前提は一瞬にして崩壊した。婚約破棄も、摂政就任も何もかもが彼方に消えた。そして私たちは本当に先の見えないカオスに叩きこまれたのだ。
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