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第1章 ん?どうしたん?話聞こうか?じゃ略奪溺愛するね。

第2話 ん?どうしたん?話聞こうか?系王様

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 ホールの人混みから私は逃げるように窓際へと行った。窓を覗き込むと自分の顔が映った。灰色がかった銀髪に赤い瞳。私はこの目の色が苦手だった。瞳が強すぎる。そう言われたことがある。圧を感じると思われている。陰を感じさせるような色。そして窓に映る顔の後ろにはダンスの輪が見える。そこには王太子とマルルーチェ・ミュレルの姿があった。ミュレルの明るいピンク色の瞳、輝く青い瞳。私とは対照的に陽の世界にいるように見える。実際にそうだ。彼女は多くの男性たちからダンスを申し込まれている。ちやほやとされ可愛がられ愛されている。同じ女でも同じようには扱われない。彼女は男には困ってない。なら私の邪魔まではしないで欲しかった。

「まあ一番の男が好きなのは女の性なのかもしれませんね…」

 私は窓に肩を預ける。周りの者たちは私を見てひそひそと噂している。王太子の寵愛を失った婚約者なんてただの道化に過ぎないんだろう。その時だった。こつんと窓に何かがぶつかった。一瞬目に映ったそれはコルクのように見えた。飛んできたであろう先に目を向ける。そこにはバルコニーがあり、一人の男がこちらに向けて酒瓶の先を向けていた。そのコルクを飛ばしてきたらしい。暗がりで顔はよく見えない。

「あれでわたくしを狙撃した?ほぅ。なかなか大胆な男がいるんですね。このわたくしを狙い撃つなんてね!」

 そんな大胆な男がこの国にいたのか。少し気分が上がった。私はそのバルコニーに辿り着き、柵の上に腰掛ける男に近づく。黒曜石よりもなお深い黒髪に氷よりも透けるような青い瞳の美形な男。男は詰襟の大礼服を纏っていた。近づいてその顔をよく見て、私は少し驚いてしまった。だってそこにいたのは。

「やあジョゼーファ。こんなところへどうしたんだい?」

「わたくしを狙撃してきた不届き者を仕留めに来たんです。ですがまさかその犯人が国王陛下とは!事実は奇なりですね!」

 そこにいたのはなんとこの国の国王陛下、ララミー・パラシオスその人だった。護衛も連れずにたった一人。足元にはビールの空き瓶が何本か転がっていた。

「くくく。私もたまには童心に帰って悪戯してみたくもなるのさ。浮かない顔をしている女を見れば特にね」

 国王はタバコを吹かしながら、まるで子供の様に笑う。この国の最高権力者でありながら、屈託のない笑み。普段は厳しくも凛々しい顔をしているのに。この落差を私は不思議と可愛いと思ってしまった。

 私は思わず笑ってしまう。その悪戯にまんまと引っ掛かってしまった。そのことがどうにも楽しくて仕方がない。

「わたくし、そんなに顔に出してました?」

「ああ。私の息子への不満という不満をこれでもかとね!だがコルクで吹っ飛ばしてやった。どうかな?君も一杯」

「申し訳ありません。未成年ですからね。お酒は駄目です」

「おやおやかたいかたいね。くくく。君のその白い頬に朱が差すところを見てみたいのだがね。国王として命じてしまおうか?」

「残念ですが、わたくしはまだお酒に口をつけるつもりはございません。ましてや夫以外の男性と二人きりで飲むなんておそろしいこと!わたくしは淑女たらんと自らに誓いを命じています。その誓いはこの国の王権よりもなお尊いものなのです!」

「ほう?国王相手にそうまで啖呵を切るか!…本当に君は面白い子だねジョゼーファ。なぜ息子は君を放っておいてあんな退屈な催し物に興じるのか?あんな見た目だけの空っぽな女などに夢中になるのか。まったく理解しかねるな」

 国王は冷たく侮蔑的な視線をホールの中心にいる王太子とミュレルに向けている。

「ミュレルさんは魅力的な女性ですよ。まさに学園のアイドルで多くの殿方が彼女の下にいつも群がっていましたし、若手の社交界でもいつも求婚のアプローチが絶えませんでした。それだけではありません。癒しの術にもたけて敎后庁も彼女を神の祝福を得た聖女と認定していますしね。まさに女の中の女と言えましょう」

 私はわざと国王の前で彼女を褒めてみた。はっきり言ってあんな悪女のことを口にするのは嫌だ。だけど少し反応が気になったのだ。国王までミュレルの魅力に惑わされていたら、私は今後の身の振り方を考えなければいけない。

「はっくだらん。抱くだけなら聖女だなんて大層な肩書も夜伽を盛り上げる小道具くらいにはなろう。多くの男たちを惑わせる美も連れて歩くには見栄えるだろう。だがそれだけだ。動物じゃあるまいし、夜だけ共に過ごせばいいわけではない。マルルーチェには夜以外の時を過ごす理由ワケに欠けている。面白くないね、あの子は」

 国王は興ざめとでも言いたげな顔でコップに瓶の酒を注いだ。そしてそれを私に渡してきた。

「お酒は駄目です」

「わかってる。君のルールは尊重しよう。これは酒ではないよ。王家の荘園にブドウ畑があるんだ。そこではワインを作っているんだけどね、この前ちょっと醸造家に頼んでそのブドウでジュースを作ってもらったんだ。それがこれだよ」

 私はコップに鼻を近づけた。漂ってくる香りにはアルコールの匂いはない。

「これはいい香りがしますね。ブドウの瑞々しくて、でも芳醇な甘さを感じます」

「だろう?最高のワインを作るためのブドウで最高のジュースを作ってもらった。今日の為にだよ。君と息子と三人でお祝いするために作ってたんだ。だが息子はあのありさまだ。一緒に飲もうジョゼーファ」

 国王はジュースの瓶を何処か寂し気に見詰めている。そんな顔は見たくなかった。さっきみたいに笑ってほしい。私はコップを高く持ち上げた。

「陛下。2人っきりです。何に乾杯いたしましょうか?」

「そうだね。愛かな。そう互いに心に秘めた愛が叶いますように。なんてどうだろう?」

「恋ではなくてですか?」

「恋にはエゴの匂いがある。君と乾杯するなら愛の方がいい」

 そうかもしれない。恋心はエゴだ。王太子を惑わせているように恋にはエゴがつきまとう。エゴは他者を害してしまうのだから。

「それは素敵ですね。では」

「「互いの愛に!!」」

 私と国王はジュースの入ったコップで乾杯した。
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