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1.夏休み
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「あー、これから小学校最後の夏休みなわけだが。羽目をはずしすぎて事故ったりしないようにな」
静かな教室の中に先生の低くてしぶい声が響いていく。
きっとその声は、俺も含めたクラスメイト全員の心を期待へ導いた。
それが事実だと示すかのように、すこしずつみんなの話し声が聞こえてきた。
ざわざわと賑やかになってきたころ、先生がパンと手を鳴らした。
「それから、毎年これは言っているけどな、宿題は最後まで残さずきちんと計画をもってすること。おまえらがどんな自由研究をしてくるか先生は楽しみにしているぞ~」
丁度その時、ホームルームの終了をあらわすチャイムの音が鳴った。
先生は「……じゃあ」とすこし言葉に間を置いてから勢いよく告げた。
「みんな夏休みを楽しんでこい!! ホームルームを終了する!」
バンッと先生が教卓を叩く音に反応してか、隣の席からガタリと音がした。
「わぁあああああい!!!! ……ってあれ、ここは喜ぶところだよな?」
「うるさいバカ」
「あはは、はるちゃんが喜びすぎなだけだと俺は思うけど」
「……おいおい、まだ帰りの挨拶終わってないぞ」
さすがの先生も苦笑いを隠せなかったみたいだ。
元気な歓声を上げたのは幼稚園から付き合いのある、幼なじみの春樹。
みんなは春樹と呼ぶけれど、俺ははるちゃんと呼んでいる。
ピシャリと容赦なく罵声をあびせたのは律だ。
二人と俺をあわせて三人、このメンバーがよく一緒にいるメンバーだった。
「今日の日直は蒼翔だったな。バシッと挨拶してくれ」
「はーい」
先生に呼ばれて立ち上がる。
「起立。気をつけっ、礼! さようなら!!」
こうして俺たちの夏休みは始まった。
「なー、律とアオは自由研究どんなにするか決めたのか?」
夏休みが始まるとすぐに三人で、はるちゃんの家に集まった。
その目的は遊ぶことはもちろん、宿題のためでもある。
はるちゃんの部屋で、俺たちは算数や英語のドリルをのせた机を囲んでわいわいと話し合った。
「……別に、まだだけど」
「んー、俺はタマの観察日記でも書こうかっておもってる」
ニャーと鳴く姿を思い出しながらこたえた。
「アオ、それ研究じゃなくて日記だろ。いいのか?」
「……春樹はバカ。タマの行動、というか習性を調べるのは十分研究だし。蒼翔はそういうことを言いたかったとおもう」
バッ、とはるちゃんは俺の方を向いた。
「あ! ごめんなアオ、勘違いした」
「全然気にしてないから大丈夫。こういうのってタマだけじゃなくて、別に生き物ならなんでもいいから。はじめはポチにするか迷ったんだけどな」
ポチは懐っこい柴犬で、家にいるときはよく一緒にいる。
タマのことを書きたいと思ったのは、気まぐれで、つれない性格をしているからだ。
「ふーん」
ニヤニヤとはるちゃんが笑んでいる。
何か自由研究のヒントでも見つけたんだろうなぁ。
「なー、二人ともオレの自由研究につきあってくれよ!」
うん、予想通り。
はるちゃんが明るい声で身体を揺らしているときは、たいてい面白いことを思いついたときだというのは長年一緒にいればわかる。たとえばバケツプリンとか、屋根裏部屋に秘密基地を作ろうとか。そう考えれば今回の自由研究は楽しみではある。
うーん、と悩んでいると、はるちゃんが律の耳に口を寄せた。
「……ん」
何を言われたのか、最終的に律は小さな声で賛成した。
普段なら窘めるというか、文句の一言でもこぼすのに快諾なんて珍しい。
「アオはどうだ?」
そういってつぶらな瞳で見つめられる。
「……まぁ、律がいいなら、俺もいいけど」
「うおお、ありがとアオ!!」
ガシッと抱擁された。
「で、何の自由研究にするつもりなんだ?」
「それはアオの研究だ!」
静かな教室の中に先生の低くてしぶい声が響いていく。
きっとその声は、俺も含めたクラスメイト全員の心を期待へ導いた。
それが事実だと示すかのように、すこしずつみんなの話し声が聞こえてきた。
ざわざわと賑やかになってきたころ、先生がパンと手を鳴らした。
「それから、毎年これは言っているけどな、宿題は最後まで残さずきちんと計画をもってすること。おまえらがどんな自由研究をしてくるか先生は楽しみにしているぞ~」
丁度その時、ホームルームの終了をあらわすチャイムの音が鳴った。
先生は「……じゃあ」とすこし言葉に間を置いてから勢いよく告げた。
「みんな夏休みを楽しんでこい!! ホームルームを終了する!」
バンッと先生が教卓を叩く音に反応してか、隣の席からガタリと音がした。
「わぁあああああい!!!! ……ってあれ、ここは喜ぶところだよな?」
「うるさいバカ」
「あはは、はるちゃんが喜びすぎなだけだと俺は思うけど」
「……おいおい、まだ帰りの挨拶終わってないぞ」
さすがの先生も苦笑いを隠せなかったみたいだ。
元気な歓声を上げたのは幼稚園から付き合いのある、幼なじみの春樹。
みんなは春樹と呼ぶけれど、俺ははるちゃんと呼んでいる。
ピシャリと容赦なく罵声をあびせたのは律だ。
二人と俺をあわせて三人、このメンバーがよく一緒にいるメンバーだった。
「今日の日直は蒼翔だったな。バシッと挨拶してくれ」
「はーい」
先生に呼ばれて立ち上がる。
「起立。気をつけっ、礼! さようなら!!」
こうして俺たちの夏休みは始まった。
「なー、律とアオは自由研究どんなにするか決めたのか?」
夏休みが始まるとすぐに三人で、はるちゃんの家に集まった。
その目的は遊ぶことはもちろん、宿題のためでもある。
はるちゃんの部屋で、俺たちは算数や英語のドリルをのせた机を囲んでわいわいと話し合った。
「……別に、まだだけど」
「んー、俺はタマの観察日記でも書こうかっておもってる」
ニャーと鳴く姿を思い出しながらこたえた。
「アオ、それ研究じゃなくて日記だろ。いいのか?」
「……春樹はバカ。タマの行動、というか習性を調べるのは十分研究だし。蒼翔はそういうことを言いたかったとおもう」
バッ、とはるちゃんは俺の方を向いた。
「あ! ごめんなアオ、勘違いした」
「全然気にしてないから大丈夫。こういうのってタマだけじゃなくて、別に生き物ならなんでもいいから。はじめはポチにするか迷ったんだけどな」
ポチは懐っこい柴犬で、家にいるときはよく一緒にいる。
タマのことを書きたいと思ったのは、気まぐれで、つれない性格をしているからだ。
「ふーん」
ニヤニヤとはるちゃんが笑んでいる。
何か自由研究のヒントでも見つけたんだろうなぁ。
「なー、二人ともオレの自由研究につきあってくれよ!」
うん、予想通り。
はるちゃんが明るい声で身体を揺らしているときは、たいてい面白いことを思いついたときだというのは長年一緒にいればわかる。たとえばバケツプリンとか、屋根裏部屋に秘密基地を作ろうとか。そう考えれば今回の自由研究は楽しみではある。
うーん、と悩んでいると、はるちゃんが律の耳に口を寄せた。
「……ん」
何を言われたのか、最終的に律は小さな声で賛成した。
普段なら窘めるというか、文句の一言でもこぼすのに快諾なんて珍しい。
「アオはどうだ?」
そういってつぶらな瞳で見つめられる。
「……まぁ、律がいいなら、俺もいいけど」
「うおお、ありがとアオ!!」
ガシッと抱擁された。
「で、何の自由研究にするつもりなんだ?」
「それはアオの研究だ!」
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