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6.お風呂

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「じゃあ、リリウスよろしく」

 脱衣所の扉を開けるとリリウスにそういった。

「……承知しました」

 リリウスは自分の汚れた上着をたたむと手を洗う。そして次にテキパキと僕の衣服を片付けていく。上着が終わればズボン。そしてズボンが終われば下着だ。リリウスの手が一瞬戸惑うような動きをみせたが、表情は変わっていなかった。残念。

 素っ裸になった後は腕を組んでリリウスを待った。
 ここまで来て逃がすわけにはいかない。

 じっと見つめていれば、リリウスは謎のオーラをまといはじめた。

「……僕に逆らうのか?」

「いえ、そうではありません」

 リリウスは流れるような動きで脱衣した。その顔を下から伺ってみると、無表情なのになぜか殺気じみた何かが漏れでている。こんなにも不承を表情以外で表せる人なんて初めて見た。

「……少々お待ち下さい」

 そして、だからこそ僕は楽しくなってきた……!!

 あんなことをいわれてリリウスは怒っただろうか。だとすれば、口が軽くなるかもしれない。いつ本音を打ち明けてくれるだろう。今まですごしてきて不満がなかったかを知りたい。こんな僕でも主人として認めてくれているだろうか。

「ふふふ、さぁリリウス入浴の時間だぞっ!」

 気分が良い。
 まるで死刑宣告をするかのような気分で、石けんなどを持ち出してきたリリウスに言い放った。よりいっそうリリウスの気配がふくれあがる。

 さぁ、どこまでも無表情を貫き通せると思うなよ。
 今日こそは絶対にその表情を変えてみせる。

「……はい」

 リリウスの返事を背にしながら浴室へと歩みを進めた。

「とても広々とした浴室ですね。高級宿にも引けをとらないのではないでしょうか……」

「まあ当然だな。高位の貴族だからこういう贅沢はどこにも負けないと思う」

 浴室にはサウナなどの設備につながる扉があり、ゆったりとした造りの洗い場が一つ鎮座している。中心は円形に仕切られておりお湯で満たされている。リリウスの言葉通り高級宿にも負けない。それを誇らしいと思うと同時に、僕一人しか使わないのならムダだとも感じている。複雑な心境だ。

 椅子に座ると、リリウスに頭を洗われる。

「ん~、そこ、きもちー」

 一回だけでは泥を落としきることができずに二回目も洗ってもらった。
 そこでリリウスが手を止めたので尋ねた。

「……どうかしたか?」

「いえ」

 身体も洗ってくれと身を委ねる。
 リリウスはとても上手く髪を洗ってくれた。
 だから絶対に気持ちいいだろうな、と胸に期待をふくらませる。

「はふ……」

 うなじから背中にかけて泡立った手が滑っていく。そしてまた戻ってくるのを何回か繰り返されて思わず息がもれる。背中が終わり、すらりとしたリリウスの手は僕の右腕へと伸びる。もみ込むように、マッサージをしながら丁寧に末端へと向かう。剣を振って疲れていた筋肉がほぐされていった。
 手のひらをさらりと撫でられ、しわの一本一本まで念入りに綺麗にされる。その丁寧さは左腕にも発揮された。気持ちいい。大切にされているような気がしてあたたかな気持ちになった。

 椅子から立ち上がる。

 ゴクリっ……と聞こえた気がして思わず背後へ向いた。
 するとリリウスは何事もなかったかのように「どうしましたか」と聞いてくる。
 空耳か? と思って「何でもない」と返す。

 リリウスは僕の正面に来た。
 下半身だとおもってせっかく椅子から立ち上がったのに、先に上半身を終わらせてしまうらしい。

 そっと腕を持ち上げられて身体の側面に手がふれる。わきの下を通ったときにくすぐったくて声が出そうになった。でもリリウスの洗い方が上手いのか、我慢することができた。

「ひぅっ……!」

 けれど胸は我慢ができなかった。リリウスが全く力を入れないから。

「て、丁寧にするのは良いけど、くすぐったい……」

「…………失礼しました」

 上半身が終わって下半身に移る。
 お尻から両足の末端まで丹念に。
 最後は優しく股間を洗われた。

 お湯で全身をながしていく。

「リリウスも洗ってやるよ」

「それは……」

 瞬間、にやりとした。
 いつもよりリリウスが0.5秒くらい、ほんのわずかでも食い気味に答えた。

「遠慮すんなって!」

 強制的に椅子に座らせた。

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