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4.立て直し
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その後、使用人に礼をいってから自分の部屋へもどった。椅子に腰掛けて腕をくむ。
これまでの作戦では僕自身からリリウスを驚かせたり、何かを食事に入れたりしてきた。しかしそれだと今回の作戦は失敗する。
「……うむむ~う」
結果だけをもとめるなら、リリウスがお風呂に入っているところへ突入すればいい。それが単純明快でいて最も成功確率が高い。
……でも、それはできないのだ。リリウスは奴隷で使用人専用のお風呂に入っている。そこへ僕が突入してしまうと他の使用人たちの迷惑になるし執事はもちろん、両親にも怒られる。
つまり家族全員でつかう大浴場か、僕の部屋のお風呂にリリウスを連れて行かなければならない。それにはリリウスの同意が必要だ。他人と一緒にお風呂に入るのが苦手なリリウスの同意が。
僕の頭脳が導き出した作戦は。
……外堀を埋めよう。というものだった。
次こそは成功させるぞ!
「セバス!!」
叫べば、壮年の老執事が頭を下げてあらわれる。
「はい、お呼びでしょうかフィリル様」
「リリウスはいま剣の稽古をしているはずだよな?」
「ええ、フィリル様のおっしゃる通り稽古を行っておりますよ。それがどうかなさいましたか?」
「僕も剣の稽古に参加するっ」
セバスは目を見開いた。お前は執事としてもうすこし表情を隠すべきだと思う。
それはさておき早速リリウスのいる庭へ向かった。
庭に到着すると、武器庫の扉を開いて木剣を取り出した。ブンブンと振って感触を確かめる。
「よし」
先ほどから痛いほど視線を向けてくるリリウスを呼んだ。
「……どうなされましたか?」
「僕はね、ピンと閃いたんだよリリウス」
「……?」
「社交界のサイネリアと呼ばれる、カッコイイ僕が街を歩くと危険だってね」
まぁ、建前だけど。
稽古の誘いのため二の句を告げようとすると、リリウスが無表情でまくし立てた。
「……そうですね。フィリル様は女性が羨むほどの綺麗な容姿をなさっていますから」
「ふふん。そうだろ?」
まんざらでもなくそう言葉にすると、リリウスは続けた。
「ええ、そうです。ふわりとしたはちみつ色の御髪は、余人を甘く誘い惹きつけます。宝石すらかすませてしまうその碧眼はあふれんばかりの見事な輝きを持っています」
「そして、それらに引き立てられたフィリル様のお顔立ちはなんとも端正でいらっしゃる」
言い終えると同時に、リリウスはそっと頭を近づけてきた。
ほんのすこし何かあれば唇がふれあいそうな距離まで。
ひんやりとしたリリウスの左手が僕の頬にそえられる。まるで抱き合う恋人のようだ。
爽やかな香水の香りがした。
「へ?」
「少々いたずらがお好きなようですが、それすらも許せてしまうような魅力をフィリル様はお持ちです。簡潔に申し上げるなら、とてもかわい」
「……も、もういいからっ!!」
カァっと頬が熱くなる。
「そうですか、失礼しました」
いつそんな行動を学んだっ! 社交界にいた、あのチャラチャラしたやつか?!
とんでもない激情と温かくてもやもやとした変な気持ちに耐える。そうして無表情のリリウスに剣で襲いかかった。
右上から左下にかけて剣を振り下ろす。
リリウスの表情を見ても何をおもっているのか、わからない。
それが相手にされていないようで悔しい。
「くっ……」
カツッという乾いた音を響かせて剣は受け流された。
そして一歩、深く攻め込まれる。
「なんの!!」
受け止め、ようと思ったところで足をけられて転んだ。
「いてて……って、仮にも主人である僕に対して卑怯じゃないか?!」
「そうおっしゃられても……」
も、もう怒ったぞ!!
……はじめにやったのはリリウスだからな?
「ふ、ふふふ」
剣をもった逆の手で砂をつかんだ。
そして振りかぶった。
変な気持ちはいつの間にかどっかに行ってしまった。
これまでの作戦では僕自身からリリウスを驚かせたり、何かを食事に入れたりしてきた。しかしそれだと今回の作戦は失敗する。
「……うむむ~う」
結果だけをもとめるなら、リリウスがお風呂に入っているところへ突入すればいい。それが単純明快でいて最も成功確率が高い。
……でも、それはできないのだ。リリウスは奴隷で使用人専用のお風呂に入っている。そこへ僕が突入してしまうと他の使用人たちの迷惑になるし執事はもちろん、両親にも怒られる。
つまり家族全員でつかう大浴場か、僕の部屋のお風呂にリリウスを連れて行かなければならない。それにはリリウスの同意が必要だ。他人と一緒にお風呂に入るのが苦手なリリウスの同意が。
僕の頭脳が導き出した作戦は。
……外堀を埋めよう。というものだった。
次こそは成功させるぞ!
「セバス!!」
叫べば、壮年の老執事が頭を下げてあらわれる。
「はい、お呼びでしょうかフィリル様」
「リリウスはいま剣の稽古をしているはずだよな?」
「ええ、フィリル様のおっしゃる通り稽古を行っておりますよ。それがどうかなさいましたか?」
「僕も剣の稽古に参加するっ」
セバスは目を見開いた。お前は執事としてもうすこし表情を隠すべきだと思う。
それはさておき早速リリウスのいる庭へ向かった。
庭に到着すると、武器庫の扉を開いて木剣を取り出した。ブンブンと振って感触を確かめる。
「よし」
先ほどから痛いほど視線を向けてくるリリウスを呼んだ。
「……どうなされましたか?」
「僕はね、ピンと閃いたんだよリリウス」
「……?」
「社交界のサイネリアと呼ばれる、カッコイイ僕が街を歩くと危険だってね」
まぁ、建前だけど。
稽古の誘いのため二の句を告げようとすると、リリウスが無表情でまくし立てた。
「……そうですね。フィリル様は女性が羨むほどの綺麗な容姿をなさっていますから」
「ふふん。そうだろ?」
まんざらでもなくそう言葉にすると、リリウスは続けた。
「ええ、そうです。ふわりとしたはちみつ色の御髪は、余人を甘く誘い惹きつけます。宝石すらかすませてしまうその碧眼はあふれんばかりの見事な輝きを持っています」
「そして、それらに引き立てられたフィリル様のお顔立ちはなんとも端正でいらっしゃる」
言い終えると同時に、リリウスはそっと頭を近づけてきた。
ほんのすこし何かあれば唇がふれあいそうな距離まで。
ひんやりとしたリリウスの左手が僕の頬にそえられる。まるで抱き合う恋人のようだ。
爽やかな香水の香りがした。
「へ?」
「少々いたずらがお好きなようですが、それすらも許せてしまうような魅力をフィリル様はお持ちです。簡潔に申し上げるなら、とてもかわい」
「……も、もういいからっ!!」
カァっと頬が熱くなる。
「そうですか、失礼しました」
いつそんな行動を学んだっ! 社交界にいた、あのチャラチャラしたやつか?!
とんでもない激情と温かくてもやもやとした変な気持ちに耐える。そうして無表情のリリウスに剣で襲いかかった。
右上から左下にかけて剣を振り下ろす。
リリウスの表情を見ても何をおもっているのか、わからない。
それが相手にされていないようで悔しい。
「くっ……」
カツッという乾いた音を響かせて剣は受け流された。
そして一歩、深く攻め込まれる。
「なんの!!」
受け止め、ようと思ったところで足をけられて転んだ。
「いてて……って、仮にも主人である僕に対して卑怯じゃないか?!」
「そうおっしゃられても……」
も、もう怒ったぞ!!
……はじめにやったのはリリウスだからな?
「ふ、ふふふ」
剣をもった逆の手で砂をつかんだ。
そして振りかぶった。
変な気持ちはいつの間にかどっかに行ってしまった。
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