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3.作戦実行
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「……どこかな、っと。いたいた」
庭で剣の稽古をしているリリウスの姿を確認して、ほくそ笑んだ。
第一の作戦のために行動する。見つからないように、入り口からすこし離れたところで待ち伏せることにした。通路の角に隠れて、通りがかったリリウスを驚かせるのだ。
上手くいくかどうか緊張しながら待つ。
すると丁度稽古が終わったのかリリウスは武器庫に剣を片付けにいった。
よしよし、早く帰ってこい。
そう思いながら待ち時間を作戦のシミュレートに費やす。
何回も、何回もシミュレートして待つ。
気がつけばそわそわとしてしまっていた。
「……僕はリリウスの彼女か何かかよ、もう」
途切れかけた集中力をすんでのところでつなぎなおす。
扉の開閉音を頼りに、いつリリウスが通路へやってくるか予想する。
武器庫の扉の閉まる音がきこえた。待ちわびた音色に期待で胸をいっぱいにする。
通路の先からカツカツという足音が響いてきた。
ようやくか、と息を吐き出す。
一歩、また一歩と足音が大きくなってきた。
もう50メートルも離れていないだろう。
耳をすませる。
風の音、木々のざわめき、リリウスの足音。
心臓がトクトクとうるさい。
今だ!!
地面を強く蹴って飛びだした。
「わぁっ!!」
大声を出しつつもリリウスの顔を見上げた。
「……フィリル様どうかされましたか?」
リリウスは無表情だった。
くっ……!!
「なんでもない!」
すぐに第二の作戦を実行することにした。
目の前にいるリリウスの脇の下へ瞬時に手をのばす。
その名も、くすぐりだ。
引き締まった身体を五本の指でこねくり回す。
「……フィリル様?」
しかしリリウスは無表情だった。
「……くっ、ダメか!!」
続けて第三、第四と作戦を実行するが成果は上がらない。
よく無表情で生の唐辛子を食べられるな。
絶対にリリウスの味覚はおかしい。
そんな感想を残しつつ作戦は夜まで続いた。
「はぁ、はぁ。これが最後の作戦だ……」
本当にこれ以上は打つ手がない。
厨房から持ってきたフライパンを右手に持つ。
同じく厨房から持ってきたお玉を左手に持つ。
時刻は深夜3時だ。眠たいが、そうはいってられない。
リリウスの部屋へと突撃した。
できるだけ音を立てないように。
そして入室する。
リリウスらしさにあふれている部屋だ。僕の部屋とは大違いで不必要なものは置かれておらず、調度品はもちろんぬいぐるみもない。とても簡素で、良くいえば質実剛健だった。
ベッドには安らかに寝息を立てるリリウスがいる。
寝顔がもの珍しくてつい、じっと見つめてしまった。
「……さて、やるか。ちょっと気が引けるけど」
リリウスの耳元へそっと両手を高く持ち上げた。
なるべく力を抜き、スナップを効かせて、最後のインパクトは力強く。
コツを意識しながら両手を強く打ち鳴らした。
するとフライパンとお玉がぶつかり合い、とんでもない騒音が巻き起こる。
脳内のリリウスが何事かと飛び起きる。
さぁ、飛び起きろ。僕に驚いた表情を見せてくれ。
ワクワクとした気持ちを抑えつける、が。
「…………あれ?」
リリウスが起き上がることはなかった。
……いやいや、起き上がりすらしないのか?
驚きより何よりも、困惑の方が強い。
信じられずに呆然と呟いた。
「リリウス……?」
すると軽やかな音を立てて布団がめくれ上がった。
「はい」
「うひゃあ?!!?」
起きてるじゃんか!?
万策尽きて落ち込んだ翌日のこと。
昨夜のことを使用人に話していたとき。
突如、天啓が舞い降りた。
「あぁ、そういえば。あいつは何があっても風呂だけは欠かさなかったですね。けどオーラっていうか。気のせいかもしれないんですけど、一緒に入ろうって話になると無表情なのにそれで拒んでくるんですよ。他人と一緒なのが苦手なのかいつも一人でいるもんですから。もうすこし付き合い良くしてくれてもいいんじゃねぇか、って愚痴がよく話題に上がったもんです」
……ふぅん。
「ははぁ~ん?」
笑みを隠せず、にやりとしてしまった。
庭で剣の稽古をしているリリウスの姿を確認して、ほくそ笑んだ。
第一の作戦のために行動する。見つからないように、入り口からすこし離れたところで待ち伏せることにした。通路の角に隠れて、通りがかったリリウスを驚かせるのだ。
上手くいくかどうか緊張しながら待つ。
すると丁度稽古が終わったのかリリウスは武器庫に剣を片付けにいった。
よしよし、早く帰ってこい。
そう思いながら待ち時間を作戦のシミュレートに費やす。
何回も、何回もシミュレートして待つ。
気がつけばそわそわとしてしまっていた。
「……僕はリリウスの彼女か何かかよ、もう」
途切れかけた集中力をすんでのところでつなぎなおす。
扉の開閉音を頼りに、いつリリウスが通路へやってくるか予想する。
武器庫の扉の閉まる音がきこえた。待ちわびた音色に期待で胸をいっぱいにする。
通路の先からカツカツという足音が響いてきた。
ようやくか、と息を吐き出す。
一歩、また一歩と足音が大きくなってきた。
もう50メートルも離れていないだろう。
耳をすませる。
風の音、木々のざわめき、リリウスの足音。
心臓がトクトクとうるさい。
今だ!!
地面を強く蹴って飛びだした。
「わぁっ!!」
大声を出しつつもリリウスの顔を見上げた。
「……フィリル様どうかされましたか?」
リリウスは無表情だった。
くっ……!!
「なんでもない!」
すぐに第二の作戦を実行することにした。
目の前にいるリリウスの脇の下へ瞬時に手をのばす。
その名も、くすぐりだ。
引き締まった身体を五本の指でこねくり回す。
「……フィリル様?」
しかしリリウスは無表情だった。
「……くっ、ダメか!!」
続けて第三、第四と作戦を実行するが成果は上がらない。
よく無表情で生の唐辛子を食べられるな。
絶対にリリウスの味覚はおかしい。
そんな感想を残しつつ作戦は夜まで続いた。
「はぁ、はぁ。これが最後の作戦だ……」
本当にこれ以上は打つ手がない。
厨房から持ってきたフライパンを右手に持つ。
同じく厨房から持ってきたお玉を左手に持つ。
時刻は深夜3時だ。眠たいが、そうはいってられない。
リリウスの部屋へと突撃した。
できるだけ音を立てないように。
そして入室する。
リリウスらしさにあふれている部屋だ。僕の部屋とは大違いで不必要なものは置かれておらず、調度品はもちろんぬいぐるみもない。とても簡素で、良くいえば質実剛健だった。
ベッドには安らかに寝息を立てるリリウスがいる。
寝顔がもの珍しくてつい、じっと見つめてしまった。
「……さて、やるか。ちょっと気が引けるけど」
リリウスの耳元へそっと両手を高く持ち上げた。
なるべく力を抜き、スナップを効かせて、最後のインパクトは力強く。
コツを意識しながら両手を強く打ち鳴らした。
するとフライパンとお玉がぶつかり合い、とんでもない騒音が巻き起こる。
脳内のリリウスが何事かと飛び起きる。
さぁ、飛び起きろ。僕に驚いた表情を見せてくれ。
ワクワクとした気持ちを抑えつける、が。
「…………あれ?」
リリウスが起き上がることはなかった。
……いやいや、起き上がりすらしないのか?
驚きより何よりも、困惑の方が強い。
信じられずに呆然と呟いた。
「リリウス……?」
すると軽やかな音を立てて布団がめくれ上がった。
「はい」
「うひゃあ?!!?」
起きてるじゃんか!?
万策尽きて落ち込んだ翌日のこと。
昨夜のことを使用人に話していたとき。
突如、天啓が舞い降りた。
「あぁ、そういえば。あいつは何があっても風呂だけは欠かさなかったですね。けどオーラっていうか。気のせいかもしれないんですけど、一緒に入ろうって話になると無表情なのにそれで拒んでくるんですよ。他人と一緒なのが苦手なのかいつも一人でいるもんですから。もうすこし付き合い良くしてくれてもいいんじゃねぇか、って愚痴がよく話題に上がったもんです」
……ふぅん。
「ははぁ~ん?」
笑みを隠せず、にやりとしてしまった。
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