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仕掛けたのは罠
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昼休みあけ5時限目の授業に、ギリギリで席に着いた秋本を横目で確認した。
ひょっとして戻ってこないんじゃないか、泣いて戻ってくるんじゃないのか、と思ったけど何事もなかったようにそこにいた。ここからじゃ表情までは確認できないけど。
放課後、今日はサッカー部がグラウンド横で基礎練な為、陸上部のやつらとは距離がありすぎてわからない。どっちにしろ、確認する気はもうなかったけど。
部活も終わり、いつものように自転車のオレと徒歩のアキラとカズヤとでダラダラと帰る。
「なあアキラ」
「ん?」
ペットボトルのスポーツドリンクをくわえたまま横目でオレを見るアキラ。ほんとにどんな時でもイケメンだな……。
「お前さあ、女から今告白されたらどうする?」
アキラはキョトンとして改めてこっちを見てきた。
「は? どうするって、どーもしねーけど」
「え? そうなの?」
と、ヒョイと向こう側からカズヤが覗きこむ。「アキラ、だって中学ん時とか……なあ?」
いや、オレに答えにくいこと振るなよカズヤ。
アキラはあんまり、てかほとんど自分のことを話したがらない奴だったけど、やっぱり本人が目立ちすぎるから否応なく噂やらが飛び込んでくる。
オレが実際に見てきた時は、学校内では彼女が重複したことはないっぽいが、外にもいた、とか。色々噂が尽きなかった。
「いや、ないない、てか無理」
でもアキラはそうキッパリ言いきった。「俺、ナツミで手一杯、てかナツミ以外で勃つ気がしない」
「ぶはっ! 聞きたくね~」
カズヤが耳を塞いで喚く。「夏美ちゃんなんでこんなエロ画伯なんかに捕まってんのー?!」
「カズヤ、エロ画伯じゃなくて、男爵とか大魔人とか、な」
またいちいちツッこんでしまうオレも律儀だな。
するとニヤリとアキラが笑う。
「俺がエロなんじゃなくて、ナツミがエロいの」
「ぎゃーーやめてくれーー!!」
アキラ、わざとカズヤ弄ってんなと、思わず笑ってしまった。ほんとおもろい奴ら。
ふとなにげなく後ろを見ると、女子の帰宅集団の中に秋本の姿が飛び込んだ。
向こうも気付いたのか、ギョッとしたように顔を反らした。
一気にテンションが下がる。
なんなんだよ、いったい。
オレにあんな最悪なことされといてもアキラの追っかけはやめないって?
彼女いるのわかってて近付こうとする意味がわからん。
オレらが思ってる以上に、アキラが彼女にゾッコンなのをアイツは知ったら、知っても、どうする気なんだろうか……。
無意識にフンッとオレは鼻で笑っていた。
次の日、教室で見る限りの秋本はやっぱりいつもと表情は変わらないようだった。ただ明らかにオレを避けている、というか気配を消すのに必死なような?
昼休み、実際のところギリギリまで行こうかどうしようか迷っていた。
あんな状態で、あんなことされといて、アイツがまずノコノコやってくる理由がない。それがわかっててこっちがノコノコいくのもアホらしかった。
あの場の勢いというか、わざと傷付けようとしてるオレの戯れ言だと、向こうだってさすがにわかるだろうし。
隣のクラスのアキラ達と昼食べてから自分の教室に戻ってなにげなく教室見渡すと、アイツが、いない。いつもの女子グループの中にも見当たらない。
いや、まさか。トイレとかだろう。
そう思うのになぜか足が理科室に向かう。
まさかとは思うけど、もし、アイツがいたら、さすがに謝ろう。
昨日のアレは酷すぎだ。無性にイライラしてたのをぶつけてしまった。
ガラガラガラ。
理科室の引き戸を開けて中に入る。使われていない為薄いカーテンが引かれてやや暗いが、さっと見渡しても人影がないのはわかる。
なぜかホッとして、長机に座って後ろ側に手をついた。
なんで「いるかも」なんて思ったんだオレ、バカだろ。てか、やっぱりどうであれ謝ったほうが、いいか。一日経つと意外と頭が冷えてくるもんだな。
ふと自分の口元から笑いがこぼれた時、カタッと音がして振り向くと、奥の長机からアイツが、秋本が立ち上がったのが見えた。
「……はあっ? おまえ、なんでいんのっ?!」
思わず出た大きな声に彼女はビクッと肩を揺らして自分の両手をギュッと握った。
「……だって、一ノ瀬君が、昨日……」
「お前、バカか? バカなのか? あんなことされといてまた来ようなんて……バカなのか?」
机から降りて対面に立って真っ直ぐ睨むと、俯いて自分の手元を見ている。
怖がらせてるのは自分だと解っているのに、どうしてもイライラしてしまう。怖いなら来なけりゃいいのに。別に写メ取って脅してたとかでもねーし。
ズカズカと目の前まで歩いて、その俯いていた顎をクイッと上げこちらを向かせると、僅かにピンク色の小さな唇が震えてるのが見てとれた。
あーあ。謝るつもりだったのになあ。
そういや、これって、カズヤの兄貴が言ってた『顎クイ』ってやつじゃねーのか? てか、まじでなんで来たんだ? コイツ。
止めどない思考に流されるソレとは別のところで、自分の顔が勝手に秋本に重なる。
柔らかさと、リップの薄い粘着感を味わうように唇丸ごと食らいつく。
「んっ」
グッと目を閉じた彼女の睫毛の震えをジッと見つめる。オレはそのまま舌先を硬く尖らせノックした。開かない。
下唇を甘噛みしてつつつとリップを舐めとる。そして再び唇の裂け目をグニグニと押す。……開いた……。
くちゅくちゅちゅぽ。
彼女の咥内を舐めつくしては舌を吸い上げ、ひたすら無心で貪った。
堪能した後唇を離すと、いつの間にかオレのブレザーを掴んでいたようで、その手がスッと離されたのが目の端に入った。
上気した頬と潤んだ瞳がオレをソワソワさせる。
「オレに脅されたと思って来たの? ……それとも、アイツの代わりが欲しかった?」
「え……」
目の前の瞳が凍るのがわかる。
「アキラ、すげえ彼女にゾッコンみたいなんだよねー。誰が告ってきても却下って言ってたの、聞こえたんだろ?」
昨日帰宅中に後ろをつけてた。聞こえてたかどうかは微妙な距離だったが。
秋本は首を振った。サラサラと薄茶色の髪が揺れる。
「ちがう。そうじゃない、よ。あの、一ノ瀬君、何か勘違いしてる」
「勘違い……」
「私、花咲君とお付き合いしたいとか、そんなこと思ってもない」
「ふーん」
オレは右手をそのサラサラの髪に絡ませる。指の間を抜けていく感触が気持ちよくてしばらくそうしていたら、秋本もされるがまま固まっていた。
「一ノ瀬君、あの、私ほんとに……」
「じゃあさあ、なんでいっつもアキラ見てんの? 意味もなく見るか?」
「それは……」
ほら、言えない。その場しのぎかよ。
「じゃあさ、アキラのこと好きじゃないってんなら、オレと仲良くする?」
「……え?……」
ぱちくりと潤んだままの瞳がオレを見上げて固まっている。
オレは髪の毛に差し込んでた右手を後頭部に回し、再び口付けそして離した。
「今日、部活終わったら、オレんち来る?」
「…………」
秋本の喉がコクリと動く。でも言葉は出ないようだ。
「お前、電車通だっけ。駅んとこで待っとくわ」
そう、有無を言わせず理科室を出た。
我ながら酷い男だと、笑いながら。
ひょっとして戻ってこないんじゃないか、泣いて戻ってくるんじゃないのか、と思ったけど何事もなかったようにそこにいた。ここからじゃ表情までは確認できないけど。
放課後、今日はサッカー部がグラウンド横で基礎練な為、陸上部のやつらとは距離がありすぎてわからない。どっちにしろ、確認する気はもうなかったけど。
部活も終わり、いつものように自転車のオレと徒歩のアキラとカズヤとでダラダラと帰る。
「なあアキラ」
「ん?」
ペットボトルのスポーツドリンクをくわえたまま横目でオレを見るアキラ。ほんとにどんな時でもイケメンだな……。
「お前さあ、女から今告白されたらどうする?」
アキラはキョトンとして改めてこっちを見てきた。
「は? どうするって、どーもしねーけど」
「え? そうなの?」
と、ヒョイと向こう側からカズヤが覗きこむ。「アキラ、だって中学ん時とか……なあ?」
いや、オレに答えにくいこと振るなよカズヤ。
アキラはあんまり、てかほとんど自分のことを話したがらない奴だったけど、やっぱり本人が目立ちすぎるから否応なく噂やらが飛び込んでくる。
オレが実際に見てきた時は、学校内では彼女が重複したことはないっぽいが、外にもいた、とか。色々噂が尽きなかった。
「いや、ないない、てか無理」
でもアキラはそうキッパリ言いきった。「俺、ナツミで手一杯、てかナツミ以外で勃つ気がしない」
「ぶはっ! 聞きたくね~」
カズヤが耳を塞いで喚く。「夏美ちゃんなんでこんなエロ画伯なんかに捕まってんのー?!」
「カズヤ、エロ画伯じゃなくて、男爵とか大魔人とか、な」
またいちいちツッこんでしまうオレも律儀だな。
するとニヤリとアキラが笑う。
「俺がエロなんじゃなくて、ナツミがエロいの」
「ぎゃーーやめてくれーー!!」
アキラ、わざとカズヤ弄ってんなと、思わず笑ってしまった。ほんとおもろい奴ら。
ふとなにげなく後ろを見ると、女子の帰宅集団の中に秋本の姿が飛び込んだ。
向こうも気付いたのか、ギョッとしたように顔を反らした。
一気にテンションが下がる。
なんなんだよ、いったい。
オレにあんな最悪なことされといてもアキラの追っかけはやめないって?
彼女いるのわかってて近付こうとする意味がわからん。
オレらが思ってる以上に、アキラが彼女にゾッコンなのをアイツは知ったら、知っても、どうする気なんだろうか……。
無意識にフンッとオレは鼻で笑っていた。
次の日、教室で見る限りの秋本はやっぱりいつもと表情は変わらないようだった。ただ明らかにオレを避けている、というか気配を消すのに必死なような?
昼休み、実際のところギリギリまで行こうかどうしようか迷っていた。
あんな状態で、あんなことされといて、アイツがまずノコノコやってくる理由がない。それがわかっててこっちがノコノコいくのもアホらしかった。
あの場の勢いというか、わざと傷付けようとしてるオレの戯れ言だと、向こうだってさすがにわかるだろうし。
隣のクラスのアキラ達と昼食べてから自分の教室に戻ってなにげなく教室見渡すと、アイツが、いない。いつもの女子グループの中にも見当たらない。
いや、まさか。トイレとかだろう。
そう思うのになぜか足が理科室に向かう。
まさかとは思うけど、もし、アイツがいたら、さすがに謝ろう。
昨日のアレは酷すぎだ。無性にイライラしてたのをぶつけてしまった。
ガラガラガラ。
理科室の引き戸を開けて中に入る。使われていない為薄いカーテンが引かれてやや暗いが、さっと見渡しても人影がないのはわかる。
なぜかホッとして、長机に座って後ろ側に手をついた。
なんで「いるかも」なんて思ったんだオレ、バカだろ。てか、やっぱりどうであれ謝ったほうが、いいか。一日経つと意外と頭が冷えてくるもんだな。
ふと自分の口元から笑いがこぼれた時、カタッと音がして振り向くと、奥の長机からアイツが、秋本が立ち上がったのが見えた。
「……はあっ? おまえ、なんでいんのっ?!」
思わず出た大きな声に彼女はビクッと肩を揺らして自分の両手をギュッと握った。
「……だって、一ノ瀬君が、昨日……」
「お前、バカか? バカなのか? あんなことされといてまた来ようなんて……バカなのか?」
机から降りて対面に立って真っ直ぐ睨むと、俯いて自分の手元を見ている。
怖がらせてるのは自分だと解っているのに、どうしてもイライラしてしまう。怖いなら来なけりゃいいのに。別に写メ取って脅してたとかでもねーし。
ズカズカと目の前まで歩いて、その俯いていた顎をクイッと上げこちらを向かせると、僅かにピンク色の小さな唇が震えてるのが見てとれた。
あーあ。謝るつもりだったのになあ。
そういや、これって、カズヤの兄貴が言ってた『顎クイ』ってやつじゃねーのか? てか、まじでなんで来たんだ? コイツ。
止めどない思考に流されるソレとは別のところで、自分の顔が勝手に秋本に重なる。
柔らかさと、リップの薄い粘着感を味わうように唇丸ごと食らいつく。
「んっ」
グッと目を閉じた彼女の睫毛の震えをジッと見つめる。オレはそのまま舌先を硬く尖らせノックした。開かない。
下唇を甘噛みしてつつつとリップを舐めとる。そして再び唇の裂け目をグニグニと押す。……開いた……。
くちゅくちゅちゅぽ。
彼女の咥内を舐めつくしては舌を吸い上げ、ひたすら無心で貪った。
堪能した後唇を離すと、いつの間にかオレのブレザーを掴んでいたようで、その手がスッと離されたのが目の端に入った。
上気した頬と潤んだ瞳がオレをソワソワさせる。
「オレに脅されたと思って来たの? ……それとも、アイツの代わりが欲しかった?」
「え……」
目の前の瞳が凍るのがわかる。
「アキラ、すげえ彼女にゾッコンみたいなんだよねー。誰が告ってきても却下って言ってたの、聞こえたんだろ?」
昨日帰宅中に後ろをつけてた。聞こえてたかどうかは微妙な距離だったが。
秋本は首を振った。サラサラと薄茶色の髪が揺れる。
「ちがう。そうじゃない、よ。あの、一ノ瀬君、何か勘違いしてる」
「勘違い……」
「私、花咲君とお付き合いしたいとか、そんなこと思ってもない」
「ふーん」
オレは右手をそのサラサラの髪に絡ませる。指の間を抜けていく感触が気持ちよくてしばらくそうしていたら、秋本もされるがまま固まっていた。
「一ノ瀬君、あの、私ほんとに……」
「じゃあさあ、なんでいっつもアキラ見てんの? 意味もなく見るか?」
「それは……」
ほら、言えない。その場しのぎかよ。
「じゃあさ、アキラのこと好きじゃないってんなら、オレと仲良くする?」
「……え?……」
ぱちくりと潤んだままの瞳がオレを見上げて固まっている。
オレは髪の毛に差し込んでた右手を後頭部に回し、再び口付けそして離した。
「今日、部活終わったら、オレんち来る?」
「…………」
秋本の喉がコクリと動く。でも言葉は出ないようだ。
「お前、電車通だっけ。駅んとこで待っとくわ」
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