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峯森誠司
2話 俺は関係ないからな(2)
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「峯森、やばい、出てきたっ」
竹井に肘でグイグイ押されて、膝に手をついていた上体を起こせば、昇降口からワラワラとバスケ部員たちが出てきていた。
男子のかたまりの中に幸太を発見して、手招きして呼び寄せると、ニヤニヤしながら近付いてきた。
「うわ、お前ら本気だな。そんなに気になるか、誠司も」
「俺は無理矢理つきあわされてんだっ」
「おい鈴木、それよりお前の彼女、こっちへ連れてこい」
竹井はソワソワと落ち着かない。「はいはい」と軽いノリで幸太は振り向いて、昇降口のほうへ戻っていく。
竹井のソワソワがさらに増していて、なんだかこっちまで落着かないし緊張してきてしまった。
「あれかな? あれだな! あ! てか羽馬さんもいる!」
俺を壁のようにして背後から覗きながら、竹井が歓喜の声を上げた。
「当たりまえだろ。筧とつねにセットなんだから」
羽馬は、高校では美術部ではなく、筧のいる女子バスケ部のマネージャーとなっている。
意外と言えば意外だったし、しっくりくる気もする。
幸太が身振り手振りで俺たちのほうを指しながら、筧と羽馬に話していて、ふたりは同時にこっちを見た。
久しぶりに視線が交わった気がする。だいぶ遠目だけど。ちょっと、いやなんか、すごい心臓に悪い。
「お、来たぞ! 峯森、頼むぞ!」
「は?」
羽馬がとくに反応しておらず、そのまま筧に手を振って行ってしまったことにモヤモヤしていたら、竹井が土壇場でとんでもないことを言う。
「えー、何? わたしに用があるって?」
心の準備をする前に、筧が目の前までやってきてしまった。
「あー、久しぶり」
「そう?」
相変わらず氷属性な女である。
「えーと、あのさあ」
てか、なんで俺が聞かなきゃならんのだ。
くそ、幸太逃げたな。竹井は背中つついてくるだけだし。
「ちょっと、なによ、はやくして。千香子が先帰っちゃうでしょ」
氷属性な上に短気である。いったい幸太はなにをキッカケで好きになったんだ?
「えっと、筧さん! ちょっと聞きたいことあって!」
俺に見切りをつけたのか、竹井が背後から出てきた。
「……誰?」
筧が一秒、時を止めたあと、怪しげに竹井を物色しはじめた。
「あの、筧さん、羽馬さんと仲良いって鈴木から聞いて」
「千香子?」
竹井と俺を交互にみて、俺の上で視線が止まる。俺はそれからなんとなく逃れるように、目線を他へやった。
「あのさ、噂が本当か知りたくてさ。その、羽馬さんの」
「噂……なんかあったっけ?」
「か、彼氏なんか、いちゃったり、するのかなーなんて」
竹井は意外に鋼の心臓を持っているようだ。たぶん、俺は、一生聞けなかった自信がある。
「彼氏? あ、へーぇ」
氷の仮面が突然意味深に笑いだして、なんとなく悪寒を覚える。しかも、ジロジロと、俺を見てくるの、やめてくれ。
「鈴木がさ、羽馬さんにイケメンの彼氏がいるって噂、聞いたとかいうからさ」
「ほーう。で、それを確認するということは、そーゆうことなのね?」
筧のニヤつきがピークに達していて、すこぶる居心地が悪い。だから、なんでこっちばっかり見るんだっ。
「こ、こいつ、竹井がさ、告白したけどダメだったらしくって。彼氏いないならまだ頑張るって言うからさ」
友を売ることにして、俺はこの居心地の悪さを避けることにした。
「おー、いいねいいね、竹井くんって言うんだ。ちゃんと告白するなんてエライぞ」
何者目線なのか、筧がふんぞり返っている。
「え? 協力してくれる?」
竹井は好感触を得たと思ったのか、さらに前のめりになった。
「それはしないけど、彼氏がいるかどうか、直接確かめさせてあげよう」
筧が上目遣いで、こっちを見てくる。なんとなくたじろいて、一歩うしろにさがった。
「千香子のあと、つけたらいーよ。水曜の部活ない日とか」
……つまりそれは、その日なにかあるのわかってて、その目で現実を受け止めろと言ってるようなもんじゃないか。
竹井に肘でグイグイ押されて、膝に手をついていた上体を起こせば、昇降口からワラワラとバスケ部員たちが出てきていた。
男子のかたまりの中に幸太を発見して、手招きして呼び寄せると、ニヤニヤしながら近付いてきた。
「うわ、お前ら本気だな。そんなに気になるか、誠司も」
「俺は無理矢理つきあわされてんだっ」
「おい鈴木、それよりお前の彼女、こっちへ連れてこい」
竹井はソワソワと落ち着かない。「はいはい」と軽いノリで幸太は振り向いて、昇降口のほうへ戻っていく。
竹井のソワソワがさらに増していて、なんだかこっちまで落着かないし緊張してきてしまった。
「あれかな? あれだな! あ! てか羽馬さんもいる!」
俺を壁のようにして背後から覗きながら、竹井が歓喜の声を上げた。
「当たりまえだろ。筧とつねにセットなんだから」
羽馬は、高校では美術部ではなく、筧のいる女子バスケ部のマネージャーとなっている。
意外と言えば意外だったし、しっくりくる気もする。
幸太が身振り手振りで俺たちのほうを指しながら、筧と羽馬に話していて、ふたりは同時にこっちを見た。
久しぶりに視線が交わった気がする。だいぶ遠目だけど。ちょっと、いやなんか、すごい心臓に悪い。
「お、来たぞ! 峯森、頼むぞ!」
「は?」
羽馬がとくに反応しておらず、そのまま筧に手を振って行ってしまったことにモヤモヤしていたら、竹井が土壇場でとんでもないことを言う。
「えー、何? わたしに用があるって?」
心の準備をする前に、筧が目の前までやってきてしまった。
「あー、久しぶり」
「そう?」
相変わらず氷属性な女である。
「えーと、あのさあ」
てか、なんで俺が聞かなきゃならんのだ。
くそ、幸太逃げたな。竹井は背中つついてくるだけだし。
「ちょっと、なによ、はやくして。千香子が先帰っちゃうでしょ」
氷属性な上に短気である。いったい幸太はなにをキッカケで好きになったんだ?
「えっと、筧さん! ちょっと聞きたいことあって!」
俺に見切りをつけたのか、竹井が背後から出てきた。
「……誰?」
筧が一秒、時を止めたあと、怪しげに竹井を物色しはじめた。
「あの、筧さん、羽馬さんと仲良いって鈴木から聞いて」
「千香子?」
竹井と俺を交互にみて、俺の上で視線が止まる。俺はそれからなんとなく逃れるように、目線を他へやった。
「あのさ、噂が本当か知りたくてさ。その、羽馬さんの」
「噂……なんかあったっけ?」
「か、彼氏なんか、いちゃったり、するのかなーなんて」
竹井は意外に鋼の心臓を持っているようだ。たぶん、俺は、一生聞けなかった自信がある。
「彼氏? あ、へーぇ」
氷の仮面が突然意味深に笑いだして、なんとなく悪寒を覚える。しかも、ジロジロと、俺を見てくるの、やめてくれ。
「鈴木がさ、羽馬さんにイケメンの彼氏がいるって噂、聞いたとかいうからさ」
「ほーう。で、それを確認するということは、そーゆうことなのね?」
筧のニヤつきがピークに達していて、すこぶる居心地が悪い。だから、なんでこっちばっかり見るんだっ。
「こ、こいつ、竹井がさ、告白したけどダメだったらしくって。彼氏いないならまだ頑張るって言うからさ」
友を売ることにして、俺はこの居心地の悪さを避けることにした。
「おー、いいねいいね、竹井くんって言うんだ。ちゃんと告白するなんてエライぞ」
何者目線なのか、筧がふんぞり返っている。
「え? 協力してくれる?」
竹井は好感触を得たと思ったのか、さらに前のめりになった。
「それはしないけど、彼氏がいるかどうか、直接確かめさせてあげよう」
筧が上目遣いで、こっちを見てくる。なんとなくたじろいて、一歩うしろにさがった。
「千香子のあと、つけたらいーよ。水曜の部活ない日とか」
……つまりそれは、その日なにかあるのわかってて、その目で現実を受け止めろと言ってるようなもんじゃないか。
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