恋するキャンバス

犬野花子

文字の大きさ
上 下
30 / 62
峯森誠司

2話 俺は関係ないからな(2)

しおりを挟む
「峯森、やばい、出てきたっ」

 竹井に肘でグイグイ押されて、膝に手をついていた上体を起こせば、昇降口からワラワラとバスケ部員たちが出てきていた。
 男子のかたまりの中に幸太を発見して、手招きして呼び寄せると、ニヤニヤしながら近付いてきた。

「うわ、お前ら本気だな。そんなに気になるか、誠司も」
「俺は無理矢理つきあわされてんだっ」
「おい鈴木、それよりお前の彼女、こっちへ連れてこい」

 竹井はソワソワと落ち着かない。「はいはい」と軽いノリで幸太は振り向いて、昇降口のほうへ戻っていく。
 竹井のソワソワがさらに増していて、なんだかこっちまで落着かないし緊張してきてしまった。

「あれかな? あれだな! あ! てか羽馬さんもいる!」

 俺を壁のようにして背後から覗きながら、竹井が歓喜の声を上げた。

「当たりまえだろ。筧とつねにセットなんだから」

 羽馬は、高校では美術部ではなく、筧のいる女子バスケ部のマネージャーとなっている。
 意外と言えば意外だったし、しっくりくる気もする。

 幸太が身振り手振りで俺たちのほうを指しながら、筧と羽馬に話していて、ふたりは同時にこっちを見た。

 久しぶりに視線が交わった気がする。だいぶ遠目だけど。ちょっと、いやなんか、すごい心臓に悪い。

「お、来たぞ! 峯森、頼むぞ!」
「は?」

 羽馬がとくに反応しておらず、そのまま筧に手を振って行ってしまったことにモヤモヤしていたら、竹井が土壇場でとんでもないことを言う。

「えー、何? わたしに用があるって?」

 心の準備をする前に、筧が目の前までやってきてしまった。

「あー、久しぶり」
「そう?」

 相変わらず氷属性な女である。

「えーと、あのさあ」

 てか、なんで俺が聞かなきゃならんのだ。
 くそ、幸太逃げたな。竹井は背中つついてくるだけだし。

「ちょっと、なによ、はやくして。千香子が先帰っちゃうでしょ」

 氷属性な上に短気である。いったい幸太はなにをキッカケで好きになったんだ?

「えっと、筧さん! ちょっと聞きたいことあって!」

 俺に見切りをつけたのか、竹井が背後から出てきた。

「……誰?」

 筧が一秒、時を止めたあと、怪しげに竹井を物色しはじめた。

「あの、筧さん、羽馬さんと仲良いって鈴木から聞いて」
「千香子?」

 竹井と俺を交互にみて、俺の上で視線が止まる。俺はそれからなんとなく逃れるように、目線を他へやった。

「あのさ、噂が本当か知りたくてさ。その、羽馬さんの」
「噂……なんかあったっけ?」
「か、彼氏なんか、いちゃったり、するのかなーなんて」

 竹井は意外に鋼の心臓を持っているようだ。たぶん、俺は、一生聞けなかった自信がある。

「彼氏? あ、へーぇ」

 氷の仮面が突然意味深に笑いだして、なんとなく悪寒を覚える。しかも、ジロジロと、俺を見てくるの、やめてくれ。

「鈴木がさ、羽馬さんにイケメンの彼氏がいるって噂、聞いたとかいうからさ」
「ほーう。で、それを確認するということは、そーゆうことなのね?」

 筧のニヤつきがピークに達していて、すこぶる居心地が悪い。だから、なんでこっちばっかり見るんだっ。

「こ、こいつ、竹井がさ、告白したけどダメだったらしくって。彼氏いないならまだ頑張るって言うからさ」

 友を売ることにして、俺はこの居心地の悪さを避けることにした。

「おー、いいねいいね、竹井くんって言うんだ。ちゃんと告白するなんてエライぞ」

 何者目線なのか、筧がふんぞり返っている。

「え? 協力してくれる?」

 竹井は好感触を得たと思ったのか、さらに前のめりになった。

「それはしないけど、彼氏がいるかどうか、直接確かめさせてあげよう」

 筧が上目遣いで、こっちを見てくる。なんとなくたじろいて、一歩うしろにさがった。

「千香子のあと、つけたらいーよ。水曜の部活ない日とか」

 ……つまりそれは、その日なにかあるのわかってて、その目で現実を受け止めろと言ってるようなもんじゃないか。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

形だけの妻ですので

hana
恋愛
結婚半年で夫のワルツは堂々と不倫をした。 相手は伯爵令嬢のアリアナ。 栗色の長い髪が印象的な、しかし狡猾そうな女性だった。 形だけの妻である私は黙認を強制されるが……

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

離縁の脅威、恐怖の日々

月食ぱんな
恋愛
貴族同士は結婚して三年。二人の間に子が出来なければ離縁、もしくは夫が愛人を持つ事が許されている。そんな中、公爵家に嫁いで結婚四年目。二十歳になったリディアは子どもが出来す、離縁に怯えていた。夫であるフェリクスは昔と変わらず、リディアに優しく接してくれているように見える。けれど彼のちょっとした言動が、「完璧な妻ではない」と、まるで自分を責めているように思えてしまい、リディアはどんどん病んでいくのであった。題名はホラーですがほのぼのです。 ※物語の設定上、不妊に悩む女性に対し、心無い発言に思われる部分もあるかと思います。フィクションだと割り切ってお読み頂けると幸いです。 ※なろう様、ノベマ!様でも掲載中です。

極道に大切に飼われた、お姫様

真木
恋愛
珈涼は父の組のため、生粋の極道、月岡に大切に飼われるようにして暮らすことになる。憧れていた月岡に甲斐甲斐しく世話を焼かれるのも、教え込まれるように夜ごと結ばれるのも、珈涼はただ恐ろしくて殻にこもっていく。繊細で怖がりな少女と、愛情の伝え方が下手な極道の、すれ違いラブストーリー。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編

タニマリ
恋愛
野獣のような男と付き合い始めてから早5年。そんな彼からプロポーズをされ同棲生活を始めた。 私の仕事が忙しくて結婚式と入籍は保留になっていたのだが…… 予定にはなかった大問題が起こってしまった。 本作品はシリーズの第二弾の作品ですが、この作品だけでもお読み頂けます。 15分あれば読めると思います。 この作品の続編あります♪ 『ヤリたい男ヤラない女〜デキちゃった編』

処理中です...