あなたと××××の虜

犬野花子

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 私は現在、絶賛婚活中なのよ。33歳は適齢期真っ盛りなの。仕事にもやりがいを見いだし自信を持ちはじめたし、好きなことに夢中になれるそれなりのお小遣いを確保して公私共に充実してる。体力的にも性欲的にも、今、ほんとにちょうどいい年頃なのよ。

 周囲でも、今が一番結婚ラッシュと言っていい。20代で嫁にいった子のほうが稀で、みんな散々遊んで30越えたタイミングで「あ、そろそろ」とばかりに身を固めだした。

 私もそう。
 区が主催の婚活パーティーや、婚活アプリ、もちろん友人のツテやそこから派生するコンパなど、しっかりちゃっかり参加してそれなりの成果だって上げている。

 今も目の前で、グラス合わせて乾杯した相手は、その成果の賜物のひとり木下さんで。
 確かにビジュアルは平凡だ。多分平均的な体躯で、多分日本人の平均的顔で。二週間ほど会わなかったら、うろ覚えでも思い出せないレベルの普通の人だけども。
 それでもちゃんと就職してて、同年代の35歳で真面目そうで嫌悪感もまったくないタイプ。
 そう、これがまさに結婚相手としてうってつけなのだ。

 もう恋愛でドキドキワクワクとかいらない。お互いに平均点を叩き出した時点でさっさとゴールでいい。
 私はそれぐらい、焦っている。

「工藤さん?」
「え? あ、はいっ」

 いかんいかん、目の前のことに集中しなくては。
 今私は、居酒屋で、未来の旦那様になるかもしれない木下さんと、ふたりっきりで食事をしているのであって、けして居候の従甥のコンパ現場に鉢合わせして動揺してるんじゃあないっ。出来る限り身を縮こませて、間違ってもあの子の視界に入らないようにしなければいけない恐怖と戦ってるのでもないっ、けしてっ。

「なんか、体調が悪いのかな? 誘ってごめんね」
「いえいえとんでもないですっ。私もお酒飲みたかったし、あと体調は万全ですっ」

 せっかく誘ってもらえたのだ、見込みがあるからこその誘いなのだ。健康優良児であることもしっかりアピールせねばと、縮こまっていた背筋を伸ばした。
 だがそうすると、どうしても視界の先に若い男女グループの宴が目に飛び込んできてしまう。どうすればいいの。

 ああ一刻も早く店を出たい。つい今しがた先手のビールが届いたばかりだけども。
 まったく味がしない。シュワシュワ喉を通ってる実感もない。

「工藤さん、映画はどんなの見てる? よかったら今度公開する――」

 ああもうなんも頭に入ってこない、やばいやばい、婚期が……せっかく掴みかけている嫁入りチャンスが――


 **


「はぁあっ……ぅう……ひゃあん……やっ、やぁ」

 自分のアパートの小さなソファの上で、私はよがり狂う。
 さきほどから執拗に、舌先で秘裂を割られなぶられ、蜜穴をノックされてはジンジンと膨れ上がった芽に吸い付かれ。
 本当に気が狂いそうに気持ちがよくて、涙も止まらない。

 ソファの背凭れに膝がつくほど脚を押し広げられ、スカートの中に突っ込まれた男の髪の毛がユラユラと揺れているのを、滲んだ視界の端でとらえて。力の入らない両手で、その頭を押し退けようとしているのか掴んでいるのかわからなくなる。

 ガクガクと震えが止まらない自分の足も見ていられなくて、顎をそらしソファに後頭部を押し付ける。

 じゅるじゅると大きな音をわざとらしく立てるのはいつものこと。行為自体は乱暴なのに、その細やかな舌や唇の動きは私を絶頂へ何度も押し上げる。
 毎日、毎日、私は彼によって淫らに踊らされている。

「あああああ……!」

 脳も瞼の裏も明滅して全身に甘く強烈な電流が駆け巡る。
 もうさきほどから何度も呑み込まれているこの快楽の波に、慣れることはないのだろうか。どんどん刺激が強くなってきて私を堕落させていく。

 荒い息が止まらない。全身は汗で湿って気持ち悪い。股の間から動いた頭にダラリと自分の腕が支えを失って落ちた。

「えろマンコ」

 腕で唇を拭いながらニヤニヤ笑う男は、相変わらずセクシーだ。
 さっきの居酒屋でもそう。飛び抜けてイケメンだった。
 目の前の木下さんが霞んで背景になるほど、渉君は遠巻きでもかっこよすぎだ。

 両足はやっと解放されたというのに、力なく凭れるように膝同士をくっつけて。股の間がビクビクと痙攣が続く中、とろりと濡れ出た感触がある。そんな恥ずかしい状態なのに、股を閉じる力も起きず、絶頂の波がとにかくひいていくのを待つ。

「どーすんのこれ。すっげえ物欲しそうだけど、今夜は止めとこうか?」
「……え……?」

 ほぼ毎日だ。
 いつも問答無用とばかりに、どんなにお互いの帰宅時間が遅くとも行為に及ばれ、私の拒絶が甘く溶けてなくなるまで責めるというのに。

 ユルユルと重い頭を持ち上げて渉君に視線を合わせれば、その大きなアーモンド型の瞳を細めて濡れた口の端を上げている。

「デートから帰ってきたのに居候に犯されて喜んでるって、どーなの」
「っ!」

 やっぱり見つかってた。居酒屋では結局お互いに声をかけることも視線が合うこともなかったけど。ひょっとしたらという淡い期待は、砕けた。
 そして知っててこんなことをする渉君も相変わらずだけど、喜んでる自分の身体も、どうかしてるんだ。

 前触れもなく渉君の中指が、ちゅぷんと蜜穴に差し込まれて背筋が痺れてしなる。指の根元まで差し込んでまた引き抜いて、あたたかい蜜がそれに合わせてとろとろと零れ秘裂を濡らしていく。

「っん……はあ……ぁん」

 腕を突っぱねるようにソファを手のひらで押して、震える膝同士を強く押し付ける。まるでそれは、これから襲いかかるであろう甘美な衝撃を待ち構えているかのようだ。身体が勝手に、そうしてしまう。毎日渉君によっていやらしく甘やかされた身体は、もう最初から私の思考なんて分離して彼の手中にあった。

「どうする?」

 ソファが跳ねて、指を抜くことなく渉君は真横に座ってきた。
 変わらずユルユルと指を抜き差ししながら、右耳に唇を寄せてくる。背凭れと背中の隙間を縫うように彼の左手はすり抜けて、私の左乳房を服の上から鷲掴んでから先端をキュッとつねってきた。

「あんっ」
「コリコリしてんね。噛んでやろっか?」

 一気に服もブラも持ち上げられて、カプリとばかりになまあたたかい彼の口内に乳房は覆われた。それはすぐに唇をすぼめるようにしぼっていき、乳首を強く吸う。

「ああ!」

 軽く歯を立ててコロコロと舌先で転がされ、そちらに気を取られた瞬間に、ジンジンと熟れているクリトリスを親指で強く押し潰され、音にならない悲鳴が噴き出す。

 渉君に手加減などなく、じゅうじゅうと強く胸を吸って、クリトリスを親指ですり潰しながら中指でナカをグチグチかき混ぜる。

 そんなのいくらも持たないのに、カクカクと足腰が震えて腰が浮き、私が顎を仰け反らせたタイミングで渉君は突然すべての行為を止めてしまった。

「っはぅ……はぁ、はぁ……」

 首をかろうじて動かし、ぐちゃぐちゃの視界で渉君の顔を探せば、ソファから降りた彼は目の前に立ってうっすら微笑みながら見下ろしていた。

 色を明るめにした柔らかな髪質と、少し中性的でいてパーツが大きめな顔は爽やかで、高身長と骨格のしっかりしたスポーツマンである彼は、申し分なくいい男で。
 黙っていれば、いや、いつものように猫を被っていれば、ウットリ目の保養とばかりに楽しめただろうに。

 そんなのほんの一瞬だけだった。
 ここに転がりこんできて、半日で化けの皮を剥いだ。
 今は彼の性奴隷と化した私のほうが、世間や木下さんに普通を演じている気さえする。

「どうすんの?」

 渉君は、先ほどと同じ問いをする。その縛りのような台詞にも声音にも、彼の細められた瞳にもゾクゾクと艶美を感じる、条件反射のように。

 熱がこもった疼きに、思考も手足の神経も覚束ない。それでも上体を無理矢理起こして手を伸ばした。
 渉君のジーパンのボタンをひとつ外し、ジッパーを下ろす音がふたりだけの部屋に小さく響く。

 力の入らない腕で必死にジーパンを引きおろし、ボクサーパンツも下げれば彼の肉竿はいつでも私を貫く準備が出来ていた。

 キュッと子宮は疼く。ちらりと見上げれば、渉君はフッと優しく微笑む。
 それにつられるように、彼のモノを咥えれば、ヨシヨシと頭を撫でられた。
 ペロペロと舌全体を使って丁寧に舐めて、舌先で彼の先端周辺をつつき、また口内に招いて吸い付きに強弱をつける。
 その間、ずっと見下ろされているのも肌感覚でわかっている。
 自分が今どんなに、はしたない表情で、はしたない行為をしているのかも。
 アラサーが若い男とのセックスに、がっついているとしか見えなくても。
 ひたすら私は彼のモノを啜り舐め続ける。

「未琴」

 近頃、自分のモノのように呼び捨てにする。
 だけど、ひどく甘く呼ばれて瞼を押し上げれば、渉君の顔が近付いてきて唇を塞がれた。ヒリヒリとしてきた唇を労るように、優しく優しく舌で舐めていく。

「前からと、後ろからと、どっちがいい? 頑張ったから選ばせてあげる」

 こんなのけして彼の優しさではない。とにかく私に言わせたいだけなのは知ってる。それでも私は鈍感なフリして彼の望むことを言ってしまうのだ。

「ま、前で、お願い」
「いいの? 未琴はバックからのほうがイキやすいのに」
「っも、もうっ!」

 渉君は笑いながらジーパンもパンツも脱ぎ捨てて、勢いよく私をソファに押し倒した。

「じゃあ、未琴が欲しいもの、あげるね」

 両脚を大きく広げられたと思ったら、それはすぐに開始した。
 ズンズンと遠慮なく奥をうつ。ダイナミックに膣を隅々まで蹂躙していくその動きに、私は歓喜に似た悲鳴を上げた。

 ぐっちゃんぐっちゃんと粘着音が鼓膜を犯し、くつくつと抑えたような渉君の笑い声に子宮がうねる。

「っえろ……喜んでんじゃん。まあそーだよな、セックスしないなんて、我慢できないでしょ」
「やっ! あんっ、そ、そんな、ことっ」
「毎日セックスしてんだから、ほんと、好き者だよな未琴って」
「ち、ちがっ!」

 ズンッと奥を突かれて、歯を食い縛る。

「あーすっげ、きもちいぃ……未琴も、そーだろ?」

 気持ちいい。
 だって、渉君のは硬くて大きくて、入り口から最奥隅々まで私のナカを、よくしてくれる。私の弱いとこも、全部知ってる。煌めく艶美な瞳に射ぬかれ、綺麗な唇で全身舐め尽くされ、私の倫理観なんてとうの昔に破り捨られてる。

 眩しかった部屋のライトが遮られ、渉君が覆い被さってきた。耳朶や首筋を丁寧に舐めながら、腰は小刻みな動きへと変わって。
 爆発しそうな快楽の塊が、全身跳ね返って出口を探すように駆け巡る。

「っあ、っあ、っあ、っあ」

 揺すられて出るのは嬌声。しなやかな渉君の身体に抱きつくように腕を伸ばした。

「イキそ?」

 甘く吐息をかけられて、揺すられながらもウンウンと半泣きで頷く。

「ふっ、素直」

 チュッと唇が軽く啄まれる。

「だいたいさぁ、あんなしょぼい男とセックスしようなんて、よく思うよね」

 セックスじゃあない、結婚したいんだっ、と訴えたいのに、気持ちよすぎて啼き声しか出てこない。

「未琴の性欲は、そこらの男には相手できないって。なんでわかんないかなー」

 渉君はまだ何事かぶつくさ言いながら、私の膝裏を腕で掬い上げて、私の身体ごと押し潰す。
 重力と体重ごと上から勢いよく孕たれて、たまらない。

 きもちいいよ、きもちいいの、もっとほしい、わたるくん。

 同じ単語ばかりが脳内を埋めつくし上書きし、重なり濃くなる。

「わかったわかった。そんなに締め付けんなって」

 ベロっと渉君の熱い舌が口内にねじ込まれた。すがり付くようにその舌に吸い付けば、両手で頭を押さえられてガツガツと腰は激しくなった。
 ぐんぐん強烈な勢いで体内の欲が膨れあがって飛び散るように痙攣が起きて、カクカクと勝手に動く下半身とは別に意識はどこかへ飛んでしまって。

 荒い息づかいを縫って渉君は、上唇下唇と丁寧に啄んでくる。

「っん……はぁ……未琴」

 もう駄目かもしんない。
 抜け出せないのは、虜になってるのは。

 答えを決めてしまったら、その先は真っ暗だ。
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