京に忍んで

犬野花子

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第二章

囚われる

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 深い深い眠りから、タキはようやく抜け出すことができた。
 ひどく頭が痛い。なにかの薬品の匂いが自分の顔あたりを漂っている。

 朦朧とした意識を時間をかけて覚醒させるにつれて、自分がうつ伏せで畳に倒れ込んでいるのがわかった。
 次に首元が妙にチクチクするので触ろうとしたが、後ろ手で縛られて動かせないのを知った。

 だるさに抗いながら自分の体を両腿を使って起き上がらせると、見知らぬだだっ広い部屋の一角にある柱と自分が縄で繋がれているのがわかり、さらにその部屋の対角線上の柱に同じく縄で首を繋がれた風太郎の姿があった。

 タキは一気に記憶を手繰り寄せた。

 典薬殿から風太郎と出た時、あの陰陽師月乎から何かを依頼されていた侍医が珍しく外出していくのを見かけたのだ。
 本当はひとりで後をつけたかったが、風太郎を撒いてる内に見失うことのほうが駄目だとそのまま後を着け、その侍医が月乎とは違う別の者と会っているのを確認したのだ。

 その別の男がどこへ戻っていくのか、確認をしようと後を着けている最中に薬品を嗅がされ意識を無くしてしまった。

(男に追尾を気付かれたのだろうか……。どうしよう、私だけでなく風太郎まで巻き込んでしまった。殺される?!)

 目を凝らして見ると、風太郎は胡座を組んだ状態で座り込み、ガクリと首を落とした状態でいた。表情までは見えない。起きているのか、いないのか。

 タキは風太郎に声をかけようとしたその時、部屋の中に数人の男が入ってきた。
 思わず身がすくみ、顔を強張らせる。

「起きたか女」
 ひとり、恰幅良く身なりの整った年配の男が、投げやりに声を出した。
 怖さで声も出せずにいると、ふんっと鼻を鳴らして横にいた男に「あっちの効きはどうだ? 念押ししとけ」と顎であしらうと、命令された男は一直線に風太郎の元へ行き、髪を鷲掴みにするとグイッと顔をあげた。
 痛さか、しかめ面をしている風太郎の口に竹筒から液体を飲ませる。
 むせているところをみると意識はあるようだが、いつものような覇気が感じられない。

「なにをしてるのっ?!」
 思わず出た声に、年配の男がニヤリといやらしく嗤う。
「すぐにわかる。しっかり楽しむがよいぞ」

 その男のそばに控えていたもうひとりの男も風太郎の元へ向かうと、二人がかりで後ろ手に縛られていた縄をほどき、首と柱を繋げていた縄を緩め、長さを作っていた。

 髪を引っ張りあげられて、力なく落としていた顔を上げられた風太郎の表情は、どこかぼんやりとしてる。

「風太! しっかりして! ねえ、大丈夫なのっ?!」
 タキの叫びに焦点があったように目線が初めて交わった。
「……タキ……」

「そうかそうか、お前達は知り合う仲なのか。それはさらに好都合じゃないか」
 年配の男がいやらしく笑っている。
「なんなのあなた! なにがしたいの!」
 恐怖より怒りが強まり、男に噛みつくように叫ぶが、相手は気にも止めてはいない。

 風太郎は二人の男に引きずられるようにしてタキの前まで連れてこられた。
「風太! 風太、大丈夫?! なにされたの?!」
 首に巻かれた縄に苦しめられながらもタキはさらに近付き風太郎の顔や体を見渡す。酷い怪我や傷は見当たらなかった。
 それだけで安堵がぶわっとタキの瞳を濡らした。

「タキ……」
 風太郎は自由になった両手でタキの体をふわりと抱きしめると徐々に力を込めて強く抱く。
「風太、ごめん、巻き込んだ……」
 震える肩を宥めるように、風太郎の大きくて温かい手のひらが撫でてゆくのにホッとして体の力を緩めると、「タキ、ごめん」と掠れ声で呟くやいなや唇を塞がれた。
「?!」

 いやに熱い風太郎の舌がぬゅるりと口内に入り込み、タキの舌を捕らえようと絡み付く。

 逃げようにも逸らそうにも拘束された状態は不安定で力も入らず。いつも以上に体温の高い風太郎の手のひらや舌にこれでもかと肌や粘膜を侵食されていくと、強張っていたタキの身体は本人の意志とは別にほぐれてゆく。

 ふれあい慣れた男の香りや包容が、恐怖から意識を遠ざけてくれるのだ。
 安心感を得る為なのか、別の欲が目を覚ましたのか、タキはそのうち抗うことなく風太郎の愛撫に身を委ねる。

 何か飲まされたのだろう風太郎は、いつもの行為中での楽しむような余裕も見えず、ひたすら餓えたようにタキの口内を貪る。ほんの一瞬のふたつの唇の隙間から唾液が顎を伝い落ちる。その息継ぎすらも惜しいのか風太郎は舐め、すぐまた舌を絡める。
 そして手はタキの腰紐を手探りでほどきにかかる。そこでタキは我に返った。

 拉致したと思われる男達の前でなぞ、さすがに無理だ。
 しかし、止めようにも口は塞がれていて、力で敵う訳もなく。
「んんっ!!」
 風太郎は紐をほどくのも待てないのか緩んだ衣の隙間から性急に手を滑り込ませ、いきなり乳首をつまみ上げた。
 甘い強い刺激に身悶えようにも風太郎の左手で背中を支えられるように押さえられ、右手はいやらしく集中的にしごきあげてくる。
 その強引な刺激に身体はフルフルと震え何度も駆け昇ってくる快感に打たれ続ける。
 そうこうしていると、風太郎は指貫さしぬきの紐をほどきずらすと衣の中に滑り込ませるように手を潜らせていき、直に秘所へ触れすぐに入り込む。

「ああっ!」

 風太郎のいつも以上に性急な行為に追い付かない。
 耳元でハアハアと呼吸荒く、全身から熱を発しているかのように汗ばんでいる。
 たぶん、半ば意識も朦朧としているのだろう。

 濡らす行為も感度を高める行為もないまま風太郎の大きくて節立った指はズブズブと挿入される。しかしその反動で中から蜜が溢れてくる。

「ごめん……ほんとごめんタキ……なるべく……」
「ふ、うた?」

 タキの衣の合わせ目から割り込むように風太郎は自分の腿を滑り込ませ胡座を組むと、タキの腰を掴み引き寄せるようにして降ろし込む。
 タキの身体をよく知る風太郎のいきり立つモノは迷うことなく入り口を捉え、間髪入れずに腰は押さえ込んだ手によって下へ降ろされる。

「あっ……うううっ」

 生理的に濡れていてもほぐされてなかったソコは、軋むようにギチギチと狭い場所を無理に広げられる。
 熱く硬いモノの、まるで少しの血管の出っ張りでさえも拾うかのようにこじ開けられていく。

 目を瞑ってその衝撃を耐え、奥まで行き着いたのを感じて目の前の風太郎を見ると、苦しそうに顔を歪ませながら目尻を濡らせていた。
 いまだ息は荒い。

 無意識に、いつものようにあちこちに跳び跳ねている黒髪に手櫛をしてあげようとして、自分の腕が縛られていたのを思い出す。

「風太……辛いんでしょ?」
「うっ……」
「いいよ気にせずに、して?」
「……タキ……」

 手櫛の代わりに汗で濡れたおでこにチュッと唇を落とすと、風太郎の黒々とした瞳は一瞬大きく開き、そしてしかめられると再び腰にある手に力が篭る。

 そこから何度も何度も突き上げられ落とし込まれ、あっという間に何度も登り詰める。
 いつの間にか、風太郎に感化されたかのように、タキの呼吸も荒く、動きも雑に大胆にひたすら快感を求める為だけに動き続けていた。

 その様子を静かに冷め冷めと見つめていた年配の男は、フンッと鼻先で嗤った。
「薬の必要もなかったか。まあ孕むまで励めばいいぞ」
 そう言い捨てると、興味をなくしたように部屋を出ていった。






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