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本編

21.カズヤから見る景色

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 こんにちは、今井一也です。中学生です。
 おれには、マブダチと呼べるやつがいます。アキラとリョウ。アキラは保育園の時から、リョウはサッカー少年団に入ってから。
 とくにアキラは腐れ縁で、途中入園してきたアイツをどこかの国のお姫様が現れたのかと思って、「ぼくのおよめさんになってくだちゃい!」と結婚を申し込んだのは、おれとアイツの黒歴史です。

 とにかくかわいかった。正直、周りの女子が霞むぐらいかわいかった。アイツは女のように見られるのは嫌がってたみたいだが、おれはすごい鼻高だった。

 そして当たり前のように女子が群がる。でもまったく羨ましく感じなかったのは、本当に別格でかわいくてかっこよかったし、なにより中身も大好きだったからだ。あ、これBL話じゃないですよ?


 サッカーをやると言い出したから一緒に始めて……あ、おれ、ノーマルですからね? まあ置いといて、そのスポーツ倶楽部でリョウと仲良くなって、さらに三人でつるむようになった。

 そう、そのサッカーの話だけど。
 勉強はほどほどだったし、スポーツも普通だったが、とにかくビジュアルの破壊力がすごいってだけでモテまくりで十分だろうに、ある日突然、「俺、サッカーやる」と言うもんだからビックリしたのを覚えてる。まったく興味なさそうだったのに。
「お前、サッカー好きだったっけ?」
「いや別に」
 おれは大げさにスッ転んだもんだ。まあ小学生のノリってやつ。

 で、その頃からよくアキラの家にも遊びに行くようになって、行く度に隣のお姉ちゃんが、お菓子やジュースをニコニコして持ってきてくれてた。
「遊んでばっかだね」と言われ、いつしか宿題も見てもらうことにもなった。

 ひとりひとり、覗きこんでは丁寧に教えてくれて、その時だけ急激に距離が近くなって、いい匂いがして、あちこち高鳴ったもんだ。
 兄貴の臭い匂いにしか縁がなかったから、女の子って、こんなにいいんだ、と思った。いわゆるこれがおれの二度目のはつこいだった。

 でもおれはガキンチョだったから、おっぱいでかい怪獣だの、パンツ見してーだの、アホなことばかり言って、夏美ちゃんの反応を楽しんでた。
 そしたら、パタリとアキラが家に呼んでくれなくなった。実は、うっすら気付いてた。アキラが夏美ちゃんに少しばかり依存してるんじゃないかって。
 おれの兄貴とも、友達のおれを差し置いてよくふたりで話てることがあって。ああ、たぶんアキラは一人っ子だから、兄弟が羨ましいんだろうな、だから夏美ちゃんを独り占めしたくなったのかな、と思ったんだ。


 そして今、目の前のアキラと、確か五年生の頃だったかのアキラが重なってしかたがない。

 すごい荒れてた時期があった。
 おれらとも少し距離を置いて、ひとりでどこかに遊びにいくようになった頃だ。
 この、今のアキラも、あの時と同じような顔をしている。うちのマネージャーとなんかあったんだろうか? いや、マネージャーの方はむしろ生き生きしてるから、別れ話のもつれとかでもなさそうだし。

 一度、聞いてみた。
「アキラ、なんかあったか? おれ、力貸すぞ?」
 小学生の時とは違う。今度は救ってやりたかった。このどこか孤独を漂わせる美しい生き物を。

 笑いたかったのだろうか、口の端を僅かに歪ませて、「ああ、ありがと。大丈夫」

 本当は大丈夫じゃないくせに。



 年が明けて、春が来て、おれ達は中学三年生になった。

 休みの日にひとりでブラブラ街に出て、大手レンタル屋を徘徊していると、見たことのある姿を見つけた。
 その人は、ぼーっと、壁に貼られているポスターを見ていて、とても無防備に思えた。
 少し躊躇ったのち声をかけた。「夏美ちゃん!」

 最初ビクリと振り返って何かを探るように周囲を見ていたが、ホッとしたように笑顔で答えた。「久しぶりだね、カズヤ君」


 近くのファストフード店でお互いの近況を話していたが、時々心ここにあらずで、思わず「なんかあったの?」と聞いてしまった。しばらくどうしようかな、て感じだったが、「うんとね、彼氏と別れちゃって」と教えてくれた。
 それが弾みになったのかポツポツと語ってくれた。

「わたしね、昔からなんだけど、彼氏が出来てもすぐ別れちゃうんだよね……。フラれちゃうの」
 まじか! と思った。この人のフラれる要因を見つけられないんだけど。

「なんで?」
 先に言う、中学生なんてこんなもんだ。配慮もなにもない。興味が勝ってしまうのだ。

「うーん……なんでだろうね、わたしも知りたいなあ」

 世の中にはもったいないことをする奴がいるもんだ。アキラが聞いたらアイツめっちゃ怒るぞ。
「そんな奴ら気にすんな、もっといいやつ現れるって!」
「うん……。でも、もうなんか、疲れちゃったなあ。怖くなったのかもね」
「えーー! でも、まだまだ夏美ちゃん二十歳かそこらだろ? いいやつどっかにいるって」
「うーん……」
 一気に夏美ちゃんの気分が落ちたような気配がした。

「でも、わたし……この間、初めて振っちゃったの……とっても……とってもやさしくて、素敵な人、だったのに……」

 おれはどうしていいかわからず狼狽えて立ち上がりそうになった。
 あのいつも元気でニコニコしてた夏美ちゃんが、ふるふると小さく震えながら、涙でうるうるしているのだ。
「……バカだよねえ……わたし……」

 おれは口をパクパクと開いては閉じ、開いては閉じ、プチパニックだ。

「もう、自分がいやんなっちゃって……。なんかごめんね。ていうか、まさかカズヤ君にこんなこと話す時が来るなんてね」

 そんなつらそうに笑顔作って。

 だからおれは、墓場まで持ち込むつもりでいたことを打ち明けたのだ。
「実はさあ、おれの初恋は夏美ちゃんだよ」
「……え?……ええ??」
「だから、もっと自分に自信持って! このおれ様に恋させたんだからっ」

 しばし濡れた瞳をまん丸にして見つめていたが、くしゃりと笑顔になった。
「もーー何言ってんだか。ふふっありがとね」

 大事な初恋はあっけなく破れてしまったが、彼女の作られてない笑顔を見て、おれの恋は立派に報われたんだな、と清々しく思ったのだ。


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