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短編
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*いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は溶かします(๑•̀ㅂ•́)و
______________________
目が覚めたとき、見知らぬ場所にいた。
天井が高くて石造りの部屋。壁には古めかしい絵画がいくつも掛かっていて、重たいカーテンが窓際に垂れ下がっていた。窓の外には、明るい光が差し込んでいる。
まるで、夢の中にいるようだった。
「ここ、どこ…?」
混乱した私は、すぐに自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。確か、私は交通事故に遭ったはず…。横断歩道を渡っている時に車が迫ってきて…。
でも、それ以降の記憶がどうしても曖昧だ。
頭を押さえながらベッドから起き上がると、着ていた服が全然見たことのないものだった。豪華なドレス。普段の私とはまるで別人みたいな格好で、少し戸惑った。
「もしかして…これ、転生…?」
漠然とした不安が押し寄せてくる。まさか、異世界に転生なんてことがあるはずがない…と思ったその時、扉が静かに開いた。
目の前に現れたのは、背の高い男性だった。黒髪に鋭い目つき、全身を鎧で包んでいる。その姿は一目見ただけでただ者ではないことがわかるほどの迫力があった。
「アルベルティナ様、初めまして。私はダーフィット。これより、あなたを護衛いたします」
名前を呼ばれた瞬間、私は自分が誰なのかを思い出す。ここは異世界の「アーヴィル王国」。私は、かつて栄えていた名門貴族の一人娘、アルベルティナとして転生したのだ。
でも、その名家も今は衰退し、私自身も何者かに命を狙われるような危険な状況にあるらしい。
目の前の冷たい目をしたダーフィットという護衛が、その証拠だ。私は恐る恐る彼に尋ねた。
「どうして私が守られなければいけないの…?」
ダーフィットはしばらく私を見つめた後、冷静な口調で答えた。
「あなたはアルベール家の最後の血筋です。今のあなたに危害が加われば、この国の秩序に影響を与える可能性がある。だから、私はあなたを守るためにここにいます」
その言葉を聞いても、彼の表情には感情がないように見えた。まるで、私は彼にとってただの「任務」でしかないかのような態度に、少しだけ胸が痛んだ。でも、そのときはまだ、ダーフィットの本心なんて全然わかっていなかった。
---
ダーフィットとの生活が始まって、数日が経った。いつも私のそばにいるけど、ほとんど口をきかない。何かを話しかけても、返事は最小限。まるで壁に向かって話しているみたいで、私は次第に彼と話すのを諦めるようになった。
朝食のときも、彼は黙って私を見守るだけ。私は一人で食事をすることに慣れつつあったけど、それでも少し寂しかった。どうして、こんなに冷たいのだろう?彼の心の中が全く見えないのが、もどかしくて仕方なかった。
ある日、どうしても気になって、ついに彼に問いかけた。
「ねぇ、ダーフィット。どうしてそんなに冷たいの?私、何か気に障ることした?」
ダーフィットは一瞬驚いたような顔を見せたけれど、すぐにいつもの無表情に戻って、淡々と答えた。
「アルベルティナ様、私の感情は必要ありません。私の役目はただ、あなたを守ること。それ以上のことを求めても無駄です」
その言葉に、私は胸が締めつけられるような気持ちになった。彼にとって、私はただの「任務」でしかない。
けれど、どこかその言葉の裏には、本心を隠しているようにも思えた。
そんなダーフィットとの距離感が続く中、私の心に少しずつ不安が募っていった。
ある日、どうしても気分を変えたくなって、王都の市場に出かけることにした。鮮やかな色とりどりの店が並び、活気に満ちた声が響き渡る。久しぶりに人々の賑わいを感じ、私の心も少し軽くなった気がした。
でも、その楽しい気持ちは長くは続かなかった。
突然、腕を掴まれて、強引に引っ張られた。振り返ると、見知らぬ男たちに囲まれていた。恐怖で体が固まる。まさか、誘拐されるなんて…。
「おとなしくしろ」
低く響く声とともに、男たちは私を脅すように近づいてきた。私は声を出そうとしたけれど、喉が塞がったように動かなかった。絶望に沈みそうになったその瞬間、風を切る音が耳に届いた。
「そこまでだ」
振り向くと、ダーフィットが男たちを次々と倒していた。
剣さばきはあまりにも速くて、私は一瞬何が起きたのか理解できなかった。でも、その動きには確かな決意と冷静さがあり、ただならぬ技量を実感した。
「アルベルティナ様、大丈夫ですか」
差し伸べられたその手の温もりが、今までの冷たい態度とは全く違うものに感じられた。
「ありがとう、ダーフィット…」
涙が滲んで、私は手を握り返した。ダーフィットは無言で頷き、私を静かに守るようにその場を離れた。
その時、私の中にある冷徹さだけでなく、強い使命感や私を守ろうとする本心に気づき始めた。
ダーフィットは、ただの護衛ではない。何かもっと深い想いが、私のことを守らせているのではないか――そんな風に思えた。
その出来事からしばらくして、私はどうしても本心が知りたくなった。ある夜、静かな時間を見計らって、ダーフィットに話しかけた。
「ねぇ、ダーフィット。あなたは、どうして私を守ることにそんなに固執してるの?ただの任務以上の理由があるんじゃない?」
ダーフィットはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「私には、かつて守れなかった者がいる⋯」
その一言に、私は驚きと同時に胸が苦しくなった。
ずっと冷たい態度の裏には、過去の悲しい出来事が隠れていたのだ。
「誰を守れなかったの…?」
私の問いに、ダーフィットは微かに目を伏せた。
「昔、私には家族がいました。小さな妹がいて…でも、私の不甲斐なさで守れなかった。それ以来、私は、ただ守ることだけに徹するようになった。感情を持てば、また同じ過ちを犯すかもしれないから⋯」
その言葉に、私はダーフィットの苦しみが少しずつ理解できるようになった。
彼が冷たく振ろうとしていたのは、自分を守るためだったんだ。彼はもう誰かを失うことに耐えられないから、感情を押し殺して「任務」に徹していた。でも、そのことでどれほど苦しんでいるのかが、今になってようやくわかった。
「それでも…私にとっては、あなたの気持ちが知りたい。任務だからじゃなくて、ダーフィットがどう感じてるのかを知りたい」
私の言葉に、ダーフィットはしばらく何も言わなかった。
ただ、その目が少し揺らいだように見えた。
彼の中で何かが変わり始めているのかもしれない。そんな期待を胸に抱いた。
「…アルベルティナ様。私は…」
何か言おうとしたその時、外から突然の騒ぎ声が聞こえた。部屋の外で何かが起きているようだ。私たちは急いで扉の方へ向かう。
外に出ると、廊下にいた兵士たちが何かを叫んでいる。どうやら、城の中に侵入者が現れたらしい。緊張が一気に高まる中、ダーフィットはすぐに私を後ろに下がらせ、剣を抜いた。
「アルベルティナ様、ここで待っていてください。すぐに戻ります」
そう言ってダーフィットは、敵の方へ向かって走り出した。その背中を見て、私は彼がどれほど私を守ろうとしているかを感じた。
でも、それと同時に、私はただ待っているだけではいけないという気持ちが沸き上がってきた。
私は、ダーフィットの過去を知ってしまった。
どれだけ自分を責めて、誰かを守ることに必死になっているのかを理解した以上、もう私は何も知らないふりはできない。
そう思うと、私は無心でダーフィットの後を追いかけていた。たった一人で敵に立ち向かう姿を見た時、私の胸は激しく高鳴った。
もし、またダーフィットが過去のように誰かを失ってしまったら…。
それが私だったら⋯
ダーフィットはどれほど苦しむのだろう⋯。
「待って、ダーフィット!」
叫びながらダーフィットの背中に向かって走った。すると、彼が振り返り、驚いたような顔をしている。
「アルベルティナ様、何をしているんですか!ここは危険です、戻るんだっ!」
「いやだ!あなた一人に全部背負わせるなんてできない!私は…私も、あなたと一緒に戦う!」
私の言葉に、ダーフィットは戸惑いながらも、一瞬黙り込んだ。そして、やがてゆっくりと微笑む。
その表情は、これまでの冷たい態度とは全く違って、暖かさを感じるものだった。
「…アルベルティナ様、わかりました。では、一緒に行きましょう」
ダーフィットは私の手を取り、強く握りしめる。
その瞬間、私たちの間にあった距離が一気に縮まった気がした。もう彼は、冷たい護衛ではなく、私にとってかけがえのない存在だった。
その後、ダーフィットと共に侵入者を退け、城は再び平穏を取り戻した。
ダーフィットの剣の腕前と冷静な判断のおかげで、私は無事に守られた。そして、彼との距離はさらに近づく。
ダーフィットの過去を知り、その苦しみを共有できたことで、私たちはお互いを理解し合うようになったのだ。
ダーフィットはもう「任務」として私を守るのではなく、一人の人間として私のことを大切に思ってくれているのだと感じるようになっていた。
私もまた、ダーフィットと共に新しい未来を歩んでいく覚悟を決めていた。
もはや彼に守られるだけの存在ではなく、共に支え合うパートナーとして。
「ダーフィット、これからもよろしくお願いします」
私はそう言って、ダーフィットの手を握り返した。
ダーフィットは無言で頷き、その眼差しには確かな優しさが宿っているのがわかる。
私たちの物語は、これからも続いていく。
異世界での新しい生活の中で、困難はまだまだ待ち受けているかもしれない。
でも、彼が隣にいてくれる限り、どんな困難も乗り越えられる気がする。
---
それからしばらくして、異世界での生活にもすっかり慣れてきた。
騒動が収まり、城の中は静かな日常を取り戻していた。私は自室のバルコニーから広がる青い空を眺めて、深く息を吸い込んだ。
異世界に転生して、思いもよらないことが次々と起きたけれど、今はただ心が穏やかだった。
「アルベルティナ様、こんなところにいたんですね」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはダーフィットが立っていた。
少しだけ優しくなった彼の表情に、思わず微笑みがこぼれる。今では、こんなふうに私を呼んでくれるのが嬉しくて仕方がない。
「ええ、少し風に当たりたくて」
私は、ダーフィットが近づくと、自然と手が伸びて彼の手を握っていた。
その手を軽く包み込むように握り返してくれる。その手の温もりが、私の心をさらに温かくする。
「ダーフィット、私…この世界に来たこと、そしてあなたに出会えたこと、本当に良かったって思ってる」
そう口にするのは少し照れくさかったけど、今の気持ちをどうしても伝えたかった。
私の言葉を聞いて、一瞬目を伏せてから、再びダーフィットは私を見つめた。その瞳には、以前よりもはっきりとした優しさが宿っている。
「私も、アルベルティナ様に出会えてよかった。あなたを守るために、この剣を振るうことに迷いはもうない。それは、あなたが私にとって大切な存在だからです」
言葉が胸に響く。
これまで冷たく距離を置いていたダーフィットが、こうして真っ直ぐに想いを伝えてくれることが、夢のようだった。
私たちはお互いの気持ちを確認し合うように、そっと顔を寄せ合った。彼のぬくもりを感じながら、私は静かに目を閉じた。その瞬間、唇が私の額にそっと触れる。
「これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」
ダーフィットの問いに、私は心から頷いた。
「もちろん、ずっと一緒よ。あなたとなら、どんな未来でも乗り越えられるから」
ダーフィットの手を強く握り締めながら、私は未来への決意を胸に抱いた。
異世界での冒険は終わりを迎えたのかな?
ちょっとだけ、そんなふうにも思ったけど⋯
確信もある⋯。
私たちは互いに愛を深め、これから共に歩んでいく新しい人生が始まるのだと。
終
______________________
***
最後までお読みいただきまして、どうもありがとうございます(๑•̀ㅂ•́)و
お気に入りや感想で応援頂けますと幸いです!
今回は溶かします(๑•̀ㅂ•́)و
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目が覚めたとき、見知らぬ場所にいた。
天井が高くて石造りの部屋。壁には古めかしい絵画がいくつも掛かっていて、重たいカーテンが窓際に垂れ下がっていた。窓の外には、明るい光が差し込んでいる。
まるで、夢の中にいるようだった。
「ここ、どこ…?」
混乱した私は、すぐに自分の身に何が起きたのかを思い出そうとする。確か、私は交通事故に遭ったはず…。横断歩道を渡っている時に車が迫ってきて…。
でも、それ以降の記憶がどうしても曖昧だ。
頭を押さえながらベッドから起き上がると、着ていた服が全然見たことのないものだった。豪華なドレス。普段の私とはまるで別人みたいな格好で、少し戸惑った。
「もしかして…これ、転生…?」
漠然とした不安が押し寄せてくる。まさか、異世界に転生なんてことがあるはずがない…と思ったその時、扉が静かに開いた。
目の前に現れたのは、背の高い男性だった。黒髪に鋭い目つき、全身を鎧で包んでいる。その姿は一目見ただけでただ者ではないことがわかるほどの迫力があった。
「アルベルティナ様、初めまして。私はダーフィット。これより、あなたを護衛いたします」
名前を呼ばれた瞬間、私は自分が誰なのかを思い出す。ここは異世界の「アーヴィル王国」。私は、かつて栄えていた名門貴族の一人娘、アルベルティナとして転生したのだ。
でも、その名家も今は衰退し、私自身も何者かに命を狙われるような危険な状況にあるらしい。
目の前の冷たい目をしたダーフィットという護衛が、その証拠だ。私は恐る恐る彼に尋ねた。
「どうして私が守られなければいけないの…?」
ダーフィットはしばらく私を見つめた後、冷静な口調で答えた。
「あなたはアルベール家の最後の血筋です。今のあなたに危害が加われば、この国の秩序に影響を与える可能性がある。だから、私はあなたを守るためにここにいます」
その言葉を聞いても、彼の表情には感情がないように見えた。まるで、私は彼にとってただの「任務」でしかないかのような態度に、少しだけ胸が痛んだ。でも、そのときはまだ、ダーフィットの本心なんて全然わかっていなかった。
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ダーフィットとの生活が始まって、数日が経った。いつも私のそばにいるけど、ほとんど口をきかない。何かを話しかけても、返事は最小限。まるで壁に向かって話しているみたいで、私は次第に彼と話すのを諦めるようになった。
朝食のときも、彼は黙って私を見守るだけ。私は一人で食事をすることに慣れつつあったけど、それでも少し寂しかった。どうして、こんなに冷たいのだろう?彼の心の中が全く見えないのが、もどかしくて仕方なかった。
ある日、どうしても気になって、ついに彼に問いかけた。
「ねぇ、ダーフィット。どうしてそんなに冷たいの?私、何か気に障ることした?」
ダーフィットは一瞬驚いたような顔を見せたけれど、すぐにいつもの無表情に戻って、淡々と答えた。
「アルベルティナ様、私の感情は必要ありません。私の役目はただ、あなたを守ること。それ以上のことを求めても無駄です」
その言葉に、私は胸が締めつけられるような気持ちになった。彼にとって、私はただの「任務」でしかない。
けれど、どこかその言葉の裏には、本心を隠しているようにも思えた。
そんなダーフィットとの距離感が続く中、私の心に少しずつ不安が募っていった。
ある日、どうしても気分を変えたくなって、王都の市場に出かけることにした。鮮やかな色とりどりの店が並び、活気に満ちた声が響き渡る。久しぶりに人々の賑わいを感じ、私の心も少し軽くなった気がした。
でも、その楽しい気持ちは長くは続かなかった。
突然、腕を掴まれて、強引に引っ張られた。振り返ると、見知らぬ男たちに囲まれていた。恐怖で体が固まる。まさか、誘拐されるなんて…。
「おとなしくしろ」
低く響く声とともに、男たちは私を脅すように近づいてきた。私は声を出そうとしたけれど、喉が塞がったように動かなかった。絶望に沈みそうになったその瞬間、風を切る音が耳に届いた。
「そこまでだ」
振り向くと、ダーフィットが男たちを次々と倒していた。
剣さばきはあまりにも速くて、私は一瞬何が起きたのか理解できなかった。でも、その動きには確かな決意と冷静さがあり、ただならぬ技量を実感した。
「アルベルティナ様、大丈夫ですか」
差し伸べられたその手の温もりが、今までの冷たい態度とは全く違うものに感じられた。
「ありがとう、ダーフィット…」
涙が滲んで、私は手を握り返した。ダーフィットは無言で頷き、私を静かに守るようにその場を離れた。
その時、私の中にある冷徹さだけでなく、強い使命感や私を守ろうとする本心に気づき始めた。
ダーフィットは、ただの護衛ではない。何かもっと深い想いが、私のことを守らせているのではないか――そんな風に思えた。
その出来事からしばらくして、私はどうしても本心が知りたくなった。ある夜、静かな時間を見計らって、ダーフィットに話しかけた。
「ねぇ、ダーフィット。あなたは、どうして私を守ることにそんなに固執してるの?ただの任務以上の理由があるんじゃない?」
ダーフィットはしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「私には、かつて守れなかった者がいる⋯」
その一言に、私は驚きと同時に胸が苦しくなった。
ずっと冷たい態度の裏には、過去の悲しい出来事が隠れていたのだ。
「誰を守れなかったの…?」
私の問いに、ダーフィットは微かに目を伏せた。
「昔、私には家族がいました。小さな妹がいて…でも、私の不甲斐なさで守れなかった。それ以来、私は、ただ守ることだけに徹するようになった。感情を持てば、また同じ過ちを犯すかもしれないから⋯」
その言葉に、私はダーフィットの苦しみが少しずつ理解できるようになった。
彼が冷たく振ろうとしていたのは、自分を守るためだったんだ。彼はもう誰かを失うことに耐えられないから、感情を押し殺して「任務」に徹していた。でも、そのことでどれほど苦しんでいるのかが、今になってようやくわかった。
「それでも…私にとっては、あなたの気持ちが知りたい。任務だからじゃなくて、ダーフィットがどう感じてるのかを知りたい」
私の言葉に、ダーフィットはしばらく何も言わなかった。
ただ、その目が少し揺らいだように見えた。
彼の中で何かが変わり始めているのかもしれない。そんな期待を胸に抱いた。
「…アルベルティナ様。私は…」
何か言おうとしたその時、外から突然の騒ぎ声が聞こえた。部屋の外で何かが起きているようだ。私たちは急いで扉の方へ向かう。
外に出ると、廊下にいた兵士たちが何かを叫んでいる。どうやら、城の中に侵入者が現れたらしい。緊張が一気に高まる中、ダーフィットはすぐに私を後ろに下がらせ、剣を抜いた。
「アルベルティナ様、ここで待っていてください。すぐに戻ります」
そう言ってダーフィットは、敵の方へ向かって走り出した。その背中を見て、私は彼がどれほど私を守ろうとしているかを感じた。
でも、それと同時に、私はただ待っているだけではいけないという気持ちが沸き上がってきた。
私は、ダーフィットの過去を知ってしまった。
どれだけ自分を責めて、誰かを守ることに必死になっているのかを理解した以上、もう私は何も知らないふりはできない。
そう思うと、私は無心でダーフィットの後を追いかけていた。たった一人で敵に立ち向かう姿を見た時、私の胸は激しく高鳴った。
もし、またダーフィットが過去のように誰かを失ってしまったら…。
それが私だったら⋯
ダーフィットはどれほど苦しむのだろう⋯。
「待って、ダーフィット!」
叫びながらダーフィットの背中に向かって走った。すると、彼が振り返り、驚いたような顔をしている。
「アルベルティナ様、何をしているんですか!ここは危険です、戻るんだっ!」
「いやだ!あなた一人に全部背負わせるなんてできない!私は…私も、あなたと一緒に戦う!」
私の言葉に、ダーフィットは戸惑いながらも、一瞬黙り込んだ。そして、やがてゆっくりと微笑む。
その表情は、これまでの冷たい態度とは全く違って、暖かさを感じるものだった。
「…アルベルティナ様、わかりました。では、一緒に行きましょう」
ダーフィットは私の手を取り、強く握りしめる。
その瞬間、私たちの間にあった距離が一気に縮まった気がした。もう彼は、冷たい護衛ではなく、私にとってかけがえのない存在だった。
その後、ダーフィットと共に侵入者を退け、城は再び平穏を取り戻した。
ダーフィットの剣の腕前と冷静な判断のおかげで、私は無事に守られた。そして、彼との距離はさらに近づく。
ダーフィットの過去を知り、その苦しみを共有できたことで、私たちはお互いを理解し合うようになったのだ。
ダーフィットはもう「任務」として私を守るのではなく、一人の人間として私のことを大切に思ってくれているのだと感じるようになっていた。
私もまた、ダーフィットと共に新しい未来を歩んでいく覚悟を決めていた。
もはや彼に守られるだけの存在ではなく、共に支え合うパートナーとして。
「ダーフィット、これからもよろしくお願いします」
私はそう言って、ダーフィットの手を握り返した。
ダーフィットは無言で頷き、その眼差しには確かな優しさが宿っているのがわかる。
私たちの物語は、これからも続いていく。
異世界での新しい生活の中で、困難はまだまだ待ち受けているかもしれない。
でも、彼が隣にいてくれる限り、どんな困難も乗り越えられる気がする。
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それからしばらくして、異世界での生活にもすっかり慣れてきた。
騒動が収まり、城の中は静かな日常を取り戻していた。私は自室のバルコニーから広がる青い空を眺めて、深く息を吸い込んだ。
異世界に転生して、思いもよらないことが次々と起きたけれど、今はただ心が穏やかだった。
「アルベルティナ様、こんなところにいたんですね」
背後から聞こえた声に振り返ると、そこにはダーフィットが立っていた。
少しだけ優しくなった彼の表情に、思わず微笑みがこぼれる。今では、こんなふうに私を呼んでくれるのが嬉しくて仕方がない。
「ええ、少し風に当たりたくて」
私は、ダーフィットが近づくと、自然と手が伸びて彼の手を握っていた。
その手を軽く包み込むように握り返してくれる。その手の温もりが、私の心をさらに温かくする。
「ダーフィット、私…この世界に来たこと、そしてあなたに出会えたこと、本当に良かったって思ってる」
そう口にするのは少し照れくさかったけど、今の気持ちをどうしても伝えたかった。
私の言葉を聞いて、一瞬目を伏せてから、再びダーフィットは私を見つめた。その瞳には、以前よりもはっきりとした優しさが宿っている。
「私も、アルベルティナ様に出会えてよかった。あなたを守るために、この剣を振るうことに迷いはもうない。それは、あなたが私にとって大切な存在だからです」
言葉が胸に響く。
これまで冷たく距離を置いていたダーフィットが、こうして真っ直ぐに想いを伝えてくれることが、夢のようだった。
私たちはお互いの気持ちを確認し合うように、そっと顔を寄せ合った。彼のぬくもりを感じながら、私は静かに目を閉じた。その瞬間、唇が私の額にそっと触れる。
「これからも、ずっと一緒にいてくれますか?」
ダーフィットの問いに、私は心から頷いた。
「もちろん、ずっと一緒よ。あなたとなら、どんな未来でも乗り越えられるから」
ダーフィットの手を強く握り締めながら、私は未来への決意を胸に抱いた。
異世界での冒険は終わりを迎えたのかな?
ちょっとだけ、そんなふうにも思ったけど⋯
確信もある⋯。
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