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7話 黒幕の存在
しおりを挟むロベルト伯爵から得た書類を手に、二人は深夜の書斎で膝を突き合わせていた。揺れる蝋燭の灯りに照らされながら、一枚一枚書類を見つめる二人の視線には緊張が走っていた。その中に浮かび上がった名前が、アンブレルを驚かせた。
「この名前…まさか、この人物が裏で糸を引いているなんて」と、アンブレルの声には驚愕と嫌悪が滲んでいた。
その貴族は領地の上層部に位置し、これまで全く疑念を抱かれていなかった者だった。表向きは信頼の厚い人物として知られ、アンブレル自身も一度は会話を交わしたことがある。あの時の微笑みが、裏でこれほどの悪行を隠していたとは――そう考えると胸の中に苛立ちと不快感が渦巻く。
アルベルタはアンブレルの表情を静かに観察し、深い呼吸を一つついてから口を開いた。
「ここからが本番ですね。これでロベルト伯爵が単なる駒であったことがわかりました。しかし、この人物の正体を暴くにはさらなる証拠が必要です」
冷静なアルベルタの言葉には、決意の色が感じられた。
しばらく無言で書類を見つめ、次第に瞳の中に強い光を宿し始める。そして、立ち上がると冷たい床を踏みしめ、アンブレルは意志の強さを感じさせる声で言った。
「もう戻れないわ。これ以上領地を混乱させるわけにはいかないし、私自身の復権のためにも、この陰謀の全貌を暴いてみせる」
アルベルタはアンブレルのその姿を見つめ、微笑みを浮かべた。そして、再び悪役令嬢に舞い戻らぬことを心の内で願う。
「アンブレル様の決意があれば、必ず成功しましょう」
その瞬間、アンブレルの心にはこれまでの苦悩と挫折がよぎったが、それを振り払うように首を軽く振った。どんなに辛い道であっても、もう逃げることはできない。追放される前の栄光を取り戻すためには、誰よりも強くならなければならないと感じていた。
必ずや、あの自由奔放な未来を掴み取るべく。
アンブレルは書類を一つ一つ丁寧に束ねながら、次の行動の計画を立て始めた。
「まず、この人物の周辺を調査するわ。協力者がいる可能性も高いし、どのように動いているかを把握しないといけないわね。アルベルタ、あの商人たちにも接触してみて。彼らなら何かしらの情報を握っているかもしれない」
「了解しました。時間を無駄にはしません。それにしても、この人物がこんなにも大掛かりなことを計画しているなんて……想像を超えていますね」
アルベルタはつぶやいた。
アンブレルはその言葉に答えず、ただ窓の外を見つめた。闇に包まれた領地の光景が広がり、どこかで人々が安らかな夜を過ごしているのだろうと想像した。守るべきものがある、それが今のアンブレルの行動原理であり、心の奥底で燃え続ける炎だった。
「領地を守るため、そして私自身の復権を果たすために――そのためならどんな困難にも立ち向かう覚悟があるわ」
と、自らに誓うように呟いたアンブレル。アルベルタもその言葉を聞き取り、静かな笑顔を浮かべて小さく頷いた。
しかし、
それは突然だった。
それは、メイベルが毒殺未遂にあったのだ。
宴の席で皆が歓談していた最中、毒が盛られたワインが手元に届いた。メイベルはそのグラスに手を伸ばし、ワインを口に含んだ瞬間、たまたま居合わせたカシュパルが、その手を掴み止めた。
何か、とても嫌な予感がした。
「待ってください!」
声が緊張感を帯びて響いた。その言葉に場の空気が凍りつき、視線が集中する。カシュパルは顔を赤らめつつも、真剣な眼差しでグラスを見つめていた。
カシュパルは内気な性格ながらも、正義感に満ちた青年だ。結果、メイベルの命を救った。含んだワインが少量だったことが幸いした。
その後、ワインの検査が行われ、毒が含まれていることが確認される。
メイベルもまた衝撃を隠せなかった。しかし、そんな中でアンブレルは一つの確信を抱いた。これは単なる偶然ではなく、明らかに陰の権力者の手が関わっていると感じ取ったのだった。
アンブレルとアルベルタはすぐに行動を開始した。二人はこれまでの情報を精査し、陰謀の背後にある権力者の存在を洗い出そうとした。
でも、ここで再び待ったがかかる。
調査を進めるにつれて、目に見えない圧力が二人を包囲し始めた。その圧力は、ただの噂や脅迫の手紙といったものではなかった。周囲の貴族たちからの冷淡な視線、協力を拒む態度、まるで全てが二人を孤立させるために仕組まれたようなものだった。
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