3 / 17
3話 メイベルの秘密
しおりを挟む翌朝、アルベルタと一緒に早朝から動き出した。メイベルの言葉に含まれていた不自然な警告を掘り下げるため、次の一手としてメイベルの周囲にいる人々への接触を試みることにした。メイベルの居住地である屋敷には、多くの使用人たちが働いている。その中に、何かを知る者がいるはずだ。
そして、かつての社交界での人脈を頼りに、使用人たちの中でも古くからメイベルに仕える者の一人と接触することに成功し、アルベルタが裏で手を回し、密会の場を設けることができた。
その場所は領地のはずれにある古い教会だった。誰もが寄り付かない場所で、秘密を守るにはもってこいの場所だ。
古い教会の扉を開けると、ひんやりとした空気が流れ込んできた。薄暗い内部には、わずかに灯された蝋燭の光が揺らめいている。その光に照らされた一人の男性が立っていた。名前はルーカス、メイベルの屋敷で長年仕えてきた者であり、信頼に値する存在である。
「アンブレル様、こちらへどうぞ。誰にも気づかれておりません」
ルーカスの低い声に導かれ、アンブレルとアルベルタは教会の奥へ進んだ。石造りの壁に囲まれた空間に座り、ルーカスが話を始めた。
「実は、メイベル様のご様子が最近少しおかしいのです。何かを隠しているようで、時折不安そうな顔を見せています。そして、その度に誰かと密会しているような気配がありました」
ルーカスの言葉に耳を傾けながら、アンブレルは注意深く考えた。メイベルが何かを知っていて、それを隠そうとしている。そして、その背後にはさらに別の存在がいる可能性が高い。アンブレルはルーカスに感謝の言葉を伝え、さらに情報を得るための協力を依頼した。
「ルーカス、もしメイベルが誰と会っているのか、その相手を特定することができるなら、すぐに知らせてほしいわ。それが分かれば、もっと核心に近づけるはず」
ルーカスは頷き、深く頭を下げた。「承知いたしました、アンブレル様。必ずお役に立てるよう努めます」
その後、ルーカスと別れたアンブレルとアルベルタは、隠れ家へ戻る途中で次の行動を相談した。
アルベルタが提案したのは、メイベルに密会相手がいる時間帯を狙って屋敷に潜入し、その動向を探ることだった。危険を伴う行動であるが、アンブレルはそれを承諾した。今や後戻りはできない状況にある。
夜が更け、再びメイベルの屋敷の周辺へと足を運ぶ。静寂に包まれた屋敷の様子を慎重に観察しながら、二人は時が来るのを待った。
ルーカスからの連絡によると、密会が行われるのはこの夜。時間が近づくにつれ、屋敷の一部屋だけが灯りをともしているのが見えた。
「アルベルタ、あそこだ。あの部屋が怪しい」
アルベルタは頷き、二人は影を潜めながら屋敷へと近づいていった。窓越しにその部屋の中を覗くと、メイベルが誰かと話している様子が見えた。相手の姿は確認できないが、明らかに激しい議論が交わされているようだった。
「どうやら、何か重要なことを話しているみたいだな。相手の姿を確認する必要がある」
アルベルタの指示に従い、アンブレルは少し離れた場所から視線を向け続けた。その時、相手がちらりと窓際に姿を見せた。見覚えのあるシルエット――それはこの領地でも高い地位にある貴族の一人、ロベルト伯爵だった。
「ロベルト伯爵…なぜここに?」
驚きを隠しきれないまま、アンブレルは静かに息を飲んだ。この伯爵がメイベルと密会を重ねているということは、単なる噂話では済まされない。何か重大な陰謀が裏で進行している可能性がある。アンブレルの脳裏に、暗殺事件との関わりがちらついた。
「ロベルト伯爵が暗殺事件の背後にいるかもしれない。メイベルもそのことに気づき、動揺しているのか…」
アンブレルは低くつぶやきながら、これからの行動を決めるために隠れ家に戻ることにした。
状況はますます複雑になっていく。
14
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
[完結]18禁乙女ゲームのモブに転生したら逆ハーのフラグを折ってくれと頼まれた。了解ですが、溺愛は望んでません。
紅月
恋愛
「なに此処、18禁乙女ゲームじゃない」
と前世を思い出したけど、モブだから気楽に好きな事しようって思ってたのに……。
攻略対象から逆ハーフラグを折ってくれと頼まれたので頑張りますが、なんか忙しいんですけど。
気がついたら自分は悪役令嬢だったのにヒロインざまぁしちゃいました
みゅー
恋愛
『転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります』のスピンオフです。
前世から好きだった乙女ゲームに転生したガーネットは、最推しの脇役キャラに猛アタックしていた。が、実はその最推しが隠しキャラだとヒロインから言われ、しかも自分が最推しに嫌われていて、いつの間にか悪役令嬢の立場にあることに気づく……そんなお話です。
同シリーズで『悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい』もあります。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました
みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。
ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。
だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい……
そんなお話です。
悪役令嬢はざまぁされるその役を放棄したい
みゅー
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生していたルビーは、このままだとずっと好きだった王太子殿下に自分が捨てられ、乙女ゲームの主人公に“ざまぁ”されることに気づき、深い悲しみに襲われながらもなんとかそれを乗り越えようとするお話。
切ない話が書きたくて書きました。
転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈りますのスピンオフです。
悪役令嬢は攻略対象者を早く卒業させたい
砂山一座
恋愛
公爵令嬢イザベラは学園の風紀委員として君臨している。
風紀委員の隠された役割とは、生徒の共通の敵として立ちふさがること。
イザベラの敵は男爵令嬢、王子、宰相の息子、騎士に、魔術師。
一人で立ち向かうには荷が重いと国から貸し出された魔族とともに、悪役令嬢を務めあげる。
強欲悪役令嬢ストーリー(笑)
二万字くらいで六話完結。完結まで毎日更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる