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第五十五話 厄介な小人コロボックル

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「くそっ……。小さくて力もあるとか卑怯だろ……」

 コロボックルの群れに下から掴まれて、俺の体は床に平行になる程に倒れてしまっている。

「状況は良くないわね……、何か策はある?」

 すぐ横で同じようにコロボックルに捕えられているさやかは顔をしかめている。

「そうだな――とりゃっ!!」

 俺を抑えているコロボックルの内の一体を手で掴んで部屋の端まで投げ飛ばした。

「よし、まず一体! この調子で続けて――」

 二体目のコロボックルに手を伸ばしたその時、


 ――カサカサカサッ


 投げ飛ばしたコロボックルがすごい勢いで戻ってきて再び俺を押さえつけてしまった。
 コロボックルの動きが早すぎて二体目を投げ飛ばす程の余裕すらない。

「ちょっ!? ――こいつら素早すぎる!」
「一体ずつ除けて行ってもダメそうね……」

 焦る俺たちを見てエルハイムはニヤリと不気味な笑みを浮かべる。

「Bランク召喚といっても私のコロボックルは最終開放されているのですよ、そう簡単に攻略できますまい。このままあなた方二人にはここで待機してもらいます。フフッ……すぐにエリート召喚士の増援がくるのでお楽しみに……」

 エリート召喚士……。火はこの前の襲撃犯、土はさやか、ということは残る水、風のエリート召喚士の片方あるいは両方が来るってことか? この状況で来られたら絶望的だな……。

(ねえ、ユート。あなたイフリートは使える?)

 さやかが俺にだけギリギリ聞こえるくらいの声で囁く。

(使えるけどさすがに家燃やすのはまずいだろ、関係ないギルドの人も巻き添えになるぞ?)

(ほんの小さな火力でいいの。エルハイムに直接炎を撃ってくれない? 騙されたと思って、お願い!)

(……わかった)

 俺はエルハイムに向かってライターの火程度の強さの炎を飛ばした。

 それを見たエルハイムは隠し持っていたナイフを取り出してそれで炎をガードする。

「――無駄なあがきはやめたほうがいいですよ」
「――本当に無駄かしらね?」

 さやかの方を見ると、さやかにまとわりついていた全てのコロボックルを部屋の端っこに投げ飛ばして自由になっていた。

「これはこれは……さやかお嬢様に一本とられましたね」

 執事は身に着けている片眼鏡(モノクル)をクイっと指であげるしぐさを見せた。

「どういうことなんだ……?」

 やばい、この中で状況を理解してないの俺だけかよ。……恥ずいな。

「これで確定よ。エルハイムはコロボックルの操作を行いながら動けないの」

「……なるほど、炎から身を守っている間はコロボックルへの操作が止まっていたから全員ふっとばせたってことか」

「そうよ。私たちをコロボックルで捕えてからエルハイムが何もしてこなかったから、おかしいと思ったけどその勘は当たりだったようね」

「やるじゃんさやか! この調子で俺の周りのコロボックルも排除してくれ!」

「――――させませんよ」

 エルハイムはコロボックルに号令を出した。すると部屋に散り散りになったコロボックルが再びさやかの元に集まり担ぎ上げる……最初の状態に元通りである。

「まあこういうことです。一瞬コロボックルから逃れたところでそれは単なるお遊びでしかありません。状況は依然こちらに有利。……増援が来ればすぐにでも決着がつくのですが、遅いですね」

 いよいよ時間が無くなってきた。もう何も考えずにイフリートぶっぱしてやろうか。
 俺がやけくそな考えを始めたころ、さやかは思うところがあったようで、

「ユート。逃げるわよ、協力して」
「逃げるってどうやって? コロボックルに捕まったままじゃな――」

 さやかは話しの途中でいきなりアトラスを召喚して、その強靭な腕力で隣にいる俺をエルハイムのほうに投げ飛ばした。

「――意外と大胆だなさやかは」

 俺は思わず口元がにやついてしまう。
 その直後俺とエルハイムは衝突した。

「ごふっ……」

 エルハイムがぶつかった衝撃で呻いた。
 ――コロボックルの制御を失ったその瞬間を俺は見逃さなかった。

「――オーディン!!」

 俺は一足飛びでさやかの元に行きお姫様抱っこで持ち上げると、二歩目のジャンプで部屋の窓を突き破って外に脱出した。

「さやかと俺の初めての共同作業ってやつかな?」
「……何を言ってるのかよくわからないわ」
「もう、つれないなぁ」

 さやかを抱きかかえたまま教会に向かって走り出す。
 オーディンを使っているからコロボックルと言えども追いついてこれないようだ。

 教会へ向かう道の途中さやかが俺に声をかける。

「いきなり投げ飛ばしてごめんなさいね。でも理解してくれたようで助かったわ」
「ははっ……、無茶ぶりにはなれてるもんでな」
「……あなた、ちょっとかっこよかったわよ」

 さやかはコロボックルにクシャクシャにされたゴスロリ服を正しながらボソッと無表情で言った。
 感情が籠ってるようには聞こえないけど、さやかが褒めてくれるなんてレアじゃないか? 勿論悪い気はしない。

「なあ、良く聞こえなかったのでもう一回言ってくれないか?」
「……調子に乗らない。早く逃げないと追いつかれるわよ」
「へいへい、わかりましたよ」

 エルハイムが追ってきている様子は見えないが、オーディンの効き目が切れた時が怖いので足を緩めるわけにはいかない、そのまま教会までノンストップで走り続けた。

 こうしてなんとかさやか邸での危機を脱することに成功した。残念ながらさやかをスパイにするという作戦は崩れてしまったが、そこにこだわる必要はない。後でみんなと相談して二の策、三の策を立てるとしよう。
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