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第三十六話 歓迎会
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「さて、難しい話はこれくらいにしてっと」
そう言ったあと、ミルドレッドは息を大きく吸ってから大きな声で叫んだ。
「歓迎会の始まりだ! 料理と酒をもってこーい!」
教会全体にミルドレッドの声が響き渡る。その声に呼応するかのように裏部屋の扉が開いた。
「おまたせー! ローザ特性ローストチキンよー!」
こんがりしたチキンの丸焼きが載った皿を、ローザが台車で運んでくる。……そういえば今日出かけるとき家にローザいなかったな。ここに来るなら言ってくれれば一緒に来たのに。てかそのチキンアリサの実家から送られてきたやつだろ。
「――ちょっと! 今日のメインディッシュはそんなものより、わたくしの作ったビーフストロガノフですわ!」
ローザに続いてエリーも台車で料理を運んできた。あれっ? エリーは異端審問機関に送られるって聞いてたけど給仕係になったのか? 悲壮な顔をしてたからてっきりきつい罰を受けるのかと思ってたけど。
俺が呆然としている様子を見てミルドレッドが声をかけてきた。
「あー、その……何だ。『俺がせっかく捕まえたのに何してんだ?』とか思ってるかもしれないけど、エリーはここで面倒見ることにしたから」
「いや、俺的には全然問題ないっす。むしろ美人が増えてくれてラッキーって感じ」
俺はグッドスマイルでミルドレッドを見て言った。
「あー、またユート君浮気してる! アリサちゃんに言いつけちゃおっかなー」
俺とミルドレッドの会話を盗み聞きしていたローザが茶化しにやってきた。待て、ローザの中ではいつから俺とアリサが付き合ってる設定になっているんだ。
「あら……? あなたはこの間の……」
エリーも俺に気付いてこちらにやってきた。前に連行した際に駄々をこねて暴れまわっていた時の様子とも、最初にあった時のお嬢様然とした様子ともちょっと違っていて、とても明るい表情をしている。
「あれ、俺名乗ってなかったっけ? ユートっていうんだけど」
「名乗られてなくてもさすがに知ってますわ。散々わたくしを拘束具で縛りつけてなぶったお人の名前をわたくしが知らないとでもお思いですの?」
教会内がざわついた。「おいおい、ユートってやついい趣味してんじゃねえか」とか言って勝手に共感してる声とか、「ユートってそんなことする子だったの……。可愛い顔してるくせにゲスいのね」とか言って誤解している声が聞こえてくる。
「や、やめろ……! エリー! 俺が変態サディストだと誤解されるだろ!」
エリーはふふんと俺をあざ笑うと、急に俺に近寄ってきて両腕で俺の右腕をぎゅっと掴んできた。
「――!?」
俺はエリーの行動の意味がさっぱりわからず言葉が出ない。
「あれだけのことをしたんですから、責任をとってもらいますわよ。――いいこと? あなたに拒否権はありませんからね」
「――ちょっと待て!? 俺は手錠をかけて引っ張ってっただけだろ!?」
俺は必死に弁明するが、エリーは聞く耳を持たずに掴んだ俺の腕に爪を立ててつねってきた。
「――痛っ! ちょっ!? 何するんだよ」
「あらあら、わたくしがあなたに受けた凌辱はこんなものでは全然足りないくらいですのよ?」
エリーは俺が痛がるのを見て屈託のない笑顔を見せる。……こいつもしかしてSっ気があるのか? 人によってはご褒美かもしれないけど、俺にその気はないぞ!
「わ、わるかったって。謝るから許してくれ!」
「今更謝っても遅いですの。ほら、お口を開けて、アーン」
エリーはビーフストロガノフを大匙のスプーンが山盛りになる程すくって、俺の口に無理やり押し込んできた。
「はふっ!? おいっ! そんなに口に入らな――」
エリーは更にもうひとすくいして俺の口に再び押し込む。
「――おいしいですって? もーいやですわ。お世辞がうまいんだから」
俺の声はエリーには届いていないようだ。俺は息ができないくらいに食事を詰め込まれて苦しいけれど、心の奥では少し安心していた。
滅茶苦茶な言動ではあるけれど今日のエリーはなんというか振る舞いが自然で、多分これが本来の彼女なんだろう。この前見たときの彼女は美人だけど、疲れ切ったような顔をしていた気がする。
それがヘルヘイムに所属していたからなのか闇取引の現場にいたからなのかは俺にはわからないけど、今こうやって楽しそうにしている彼女を見れていることがちょっと嬉しかった。
「これはもしかしたら、アリサちゃんのライバル出現かもしれないわね!」
ローザは目をキラキラ輝かせてチキンをほおばっている。
「――ローザっ! 食べてないで俺を助けろよ!」
ローザは素知らぬ顔をして今度はワインを飲み始めてしまった。……こりゃ俺がタジタジする様子を見て楽しんでやがるな。
その後もエリーは俺を離すことはなく、歓迎会の間中延々とビーフストロガノフを食べ続けさせられてしまった。しかも結局最後まで俺は婿として扱われてしまい、ローザ以外の機関の人間にはすっかりその認識で広まってしまった。今後の機関での活動が不安になる……。俺の悩みの種がまた一つ増えてしまったのだった。
そう言ったあと、ミルドレッドは息を大きく吸ってから大きな声で叫んだ。
「歓迎会の始まりだ! 料理と酒をもってこーい!」
教会全体にミルドレッドの声が響き渡る。その声に呼応するかのように裏部屋の扉が開いた。
「おまたせー! ローザ特性ローストチキンよー!」
こんがりしたチキンの丸焼きが載った皿を、ローザが台車で運んでくる。……そういえば今日出かけるとき家にローザいなかったな。ここに来るなら言ってくれれば一緒に来たのに。てかそのチキンアリサの実家から送られてきたやつだろ。
「――ちょっと! 今日のメインディッシュはそんなものより、わたくしの作ったビーフストロガノフですわ!」
ローザに続いてエリーも台車で料理を運んできた。あれっ? エリーは異端審問機関に送られるって聞いてたけど給仕係になったのか? 悲壮な顔をしてたからてっきりきつい罰を受けるのかと思ってたけど。
俺が呆然としている様子を見てミルドレッドが声をかけてきた。
「あー、その……何だ。『俺がせっかく捕まえたのに何してんだ?』とか思ってるかもしれないけど、エリーはここで面倒見ることにしたから」
「いや、俺的には全然問題ないっす。むしろ美人が増えてくれてラッキーって感じ」
俺はグッドスマイルでミルドレッドを見て言った。
「あー、またユート君浮気してる! アリサちゃんに言いつけちゃおっかなー」
俺とミルドレッドの会話を盗み聞きしていたローザが茶化しにやってきた。待て、ローザの中ではいつから俺とアリサが付き合ってる設定になっているんだ。
「あら……? あなたはこの間の……」
エリーも俺に気付いてこちらにやってきた。前に連行した際に駄々をこねて暴れまわっていた時の様子とも、最初にあった時のお嬢様然とした様子ともちょっと違っていて、とても明るい表情をしている。
「あれ、俺名乗ってなかったっけ? ユートっていうんだけど」
「名乗られてなくてもさすがに知ってますわ。散々わたくしを拘束具で縛りつけてなぶったお人の名前をわたくしが知らないとでもお思いですの?」
教会内がざわついた。「おいおい、ユートってやついい趣味してんじゃねえか」とか言って勝手に共感してる声とか、「ユートってそんなことする子だったの……。可愛い顔してるくせにゲスいのね」とか言って誤解している声が聞こえてくる。
「や、やめろ……! エリー! 俺が変態サディストだと誤解されるだろ!」
エリーはふふんと俺をあざ笑うと、急に俺に近寄ってきて両腕で俺の右腕をぎゅっと掴んできた。
「――!?」
俺はエリーの行動の意味がさっぱりわからず言葉が出ない。
「あれだけのことをしたんですから、責任をとってもらいますわよ。――いいこと? あなたに拒否権はありませんからね」
「――ちょっと待て!? 俺は手錠をかけて引っ張ってっただけだろ!?」
俺は必死に弁明するが、エリーは聞く耳を持たずに掴んだ俺の腕に爪を立ててつねってきた。
「――痛っ! ちょっ!? 何するんだよ」
「あらあら、わたくしがあなたに受けた凌辱はこんなものでは全然足りないくらいですのよ?」
エリーは俺が痛がるのを見て屈託のない笑顔を見せる。……こいつもしかしてSっ気があるのか? 人によってはご褒美かもしれないけど、俺にその気はないぞ!
「わ、わるかったって。謝るから許してくれ!」
「今更謝っても遅いですの。ほら、お口を開けて、アーン」
エリーはビーフストロガノフを大匙のスプーンが山盛りになる程すくって、俺の口に無理やり押し込んできた。
「はふっ!? おいっ! そんなに口に入らな――」
エリーは更にもうひとすくいして俺の口に再び押し込む。
「――おいしいですって? もーいやですわ。お世辞がうまいんだから」
俺の声はエリーには届いていないようだ。俺は息ができないくらいに食事を詰め込まれて苦しいけれど、心の奥では少し安心していた。
滅茶苦茶な言動ではあるけれど今日のエリーはなんというか振る舞いが自然で、多分これが本来の彼女なんだろう。この前見たときの彼女は美人だけど、疲れ切ったような顔をしていた気がする。
それがヘルヘイムに所属していたからなのか闇取引の現場にいたからなのかは俺にはわからないけど、今こうやって楽しそうにしている彼女を見れていることがちょっと嬉しかった。
「これはもしかしたら、アリサちゃんのライバル出現かもしれないわね!」
ローザは目をキラキラ輝かせてチキンをほおばっている。
「――ローザっ! 食べてないで俺を助けろよ!」
ローザは素知らぬ顔をして今度はワインを飲み始めてしまった。……こりゃ俺がタジタジする様子を見て楽しんでやがるな。
その後もエリーは俺を離すことはなく、歓迎会の間中延々とビーフストロガノフを食べ続けさせられてしまった。しかも結局最後まで俺は婿として扱われてしまい、ローザ以外の機関の人間にはすっかりその認識で広まってしまった。今後の機関での活動が不安になる……。俺の悩みの種がまた一つ増えてしまったのだった。
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