19 / 26
第十八話 幻術士は復讐するⅡ
しおりを挟む
冒険者ギルドでリィルと別れてからすぐ、メンビル外郭付近に位置する煉瓦屋敷にやってきた。
何故ここに来たのかというと、それは――復讐のためだ。
――ドンドンドンッ!
「御免くださーい」
――ドンドンドンッ!
「出てきてくださーい!」
――ドンドンドンッ!
「居るのはわかってるんですよー、フォンパさん!」
「――誰だよ、うるせえなっ!」
名前を呼んだところで、ようやく反応が返ってきた。
錆びついた蝶番が、ギィと音を立てて回り、扉が開く。
「あん? お前は昨日の糞ったれ【幻術士】じゃねぇか……何の用で来やがった?」
「逃げるなっていったのはあんたじゃないですか。俺は今日、<双頭の蛇>を倒して、この街に戻ってきたんですよ」
「<双頭の蛇>を倒しただと? 馬鹿言ってんじゃねぇよ」
目じりを険しく釣り上げて、俺を睨みつける。
「……くくっ。そう簡単には信じられないですよね。安心してください、あんたに見せる分のMPは残しといたんでね」
「お前、何言ってやがる?」
フォンパはイライラした様子で、腰に帯びた双剣に手を当てる。
口答えするなら、切り伏せるぞとでも言わんばかりだ。
おお、怖い怖い。
……怖い人には、怖いモンスターで対抗しなくっちゃね。
今日手に入れたばかりの結晶を取り出し、魔力を込める。
<双頭の蛇>の幻像は、屋敷に巻き付く形で出現した。
「……ひとんちの前で幻術なんか使ってんじゃねえよ、縁起悪ぃ。殺んぞこら」
ついに双剣が引き抜かれた。
全く、怒りっぽい奴だ。
「まあまあ、黙って見ててくれよ。ここからが【召喚士】クロスの、ショータイムなんでね」
「はぁ? 【召喚士】だ?」
そう、【召喚士】だ。
答える代わりに、幻像に魔力を入れる。
――バチバチ、バチバチ
大気が揺れ、稲妻が迸る。
召喚するときに、ここまでの衝撃を感じたことは今までなかった。
<双頭の蛇>は、今までの幻獣とは一味違うみたいだ。
そういえばステータスを見ていなかったことを思い出し、【鑑定レベルB】を使う。
種族:モンスター
名前:<双頭の蛇>
性別:♀
レベル:100
HP:12579
MP:9858
攻撃:11653
防御:10782
魔力:9123
敏捷:10042
……レベル100の大台か。
そりゃいつもと召喚の雰囲気も変わるよな。
納得したところで、ちらりとフォンパのほうを見る。
奴の額からは、滝のように汗が流れ出ている。
実物を見れば、これがただの幻術じゃないと、理解できるくらいの勘は持っているらしい。
でも今更分かったところでもう遅い。
俺の復讐のボルテージは、今、最高潮に達している。
この昂ぶりを抑えるには、もう血の鉄槌を下すしかない。
「……殺れ」
<双頭の蛇>は口を大きく開け、紫色の粘液を吐き出した。
――ビシャア
「ぐぁっ!?」
フォンパの体中を毒液が覆う。
「さて、フォンパ君。毒液を受けた君にこれから起こることを、懇切丁寧に説明してあげよう。俺は親切なんでね」
<双頭の蛇>の毒に関するメモ書きを、ポケットから取り出し、読み上げる。
「<双頭の蛇>の毒を受けると、まず初めに筋肉が麻痺する。そして次に、横隔膜が麻痺して、呼吸が止まる……今が丁度その頃合いか?」
「ぐっ、がぁっ」
――カラン、カラン
フォンパは持っていた双剣を床に落とす。
麻痺で剣を握ることができなくなったようだ。
「それから血管の細胞が破壊され、体の内外で出血が起こる。毒の作用により、流れる血は決して固まらない。全身が血で溢れ、内臓が破壊されていく。体中の内臓が、悲鳴を上げながら壊死していく。そのしんどさは……嗚呼、俺には想像できないな」
フォンパは無表情のまま涙を流している。
もはや表情筋すら麻痺しているようだ。
「後悔してるか? してるよな? ……わかったら、今後差別をやめるんだぞ」
フォンパの口を開けて、粉の包みを放り込む。
これは、万が一の時のために、リアが用意してくれた特製の解毒薬だ。
一流の【調合師】が作った、値打ち物らしい。
「がはぁっ! ……はぁ、はぁ、はぁ」
薬の効果が早くも出て、呼吸ができるようになったみたいだ。
「ぐっ、うぅ、あんまりだ……ぐすっ、ぐすっ」
四つん這いの姿勢で、赤子のように泣きじゃくるフォンパ。
「それじゃあな、フォンパ。これに懲りたら、新人いびりもほどほどにするこったな」
背を向けながら、あばよっと手をあげてその場を去る。
これでまた一つ、復讐が終わった。
胸のすく思いで、リィルたちのいる場所へと帰るのであった。
何故ここに来たのかというと、それは――復讐のためだ。
――ドンドンドンッ!
「御免くださーい」
――ドンドンドンッ!
「出てきてくださーい!」
――ドンドンドンッ!
「居るのはわかってるんですよー、フォンパさん!」
「――誰だよ、うるせえなっ!」
名前を呼んだところで、ようやく反応が返ってきた。
錆びついた蝶番が、ギィと音を立てて回り、扉が開く。
「あん? お前は昨日の糞ったれ【幻術士】じゃねぇか……何の用で来やがった?」
「逃げるなっていったのはあんたじゃないですか。俺は今日、<双頭の蛇>を倒して、この街に戻ってきたんですよ」
「<双頭の蛇>を倒しただと? 馬鹿言ってんじゃねぇよ」
目じりを険しく釣り上げて、俺を睨みつける。
「……くくっ。そう簡単には信じられないですよね。安心してください、あんたに見せる分のMPは残しといたんでね」
「お前、何言ってやがる?」
フォンパはイライラした様子で、腰に帯びた双剣に手を当てる。
口答えするなら、切り伏せるぞとでも言わんばかりだ。
おお、怖い怖い。
……怖い人には、怖いモンスターで対抗しなくっちゃね。
今日手に入れたばかりの結晶を取り出し、魔力を込める。
<双頭の蛇>の幻像は、屋敷に巻き付く形で出現した。
「……ひとんちの前で幻術なんか使ってんじゃねえよ、縁起悪ぃ。殺んぞこら」
ついに双剣が引き抜かれた。
全く、怒りっぽい奴だ。
「まあまあ、黙って見ててくれよ。ここからが【召喚士】クロスの、ショータイムなんでね」
「はぁ? 【召喚士】だ?」
そう、【召喚士】だ。
答える代わりに、幻像に魔力を入れる。
――バチバチ、バチバチ
大気が揺れ、稲妻が迸る。
召喚するときに、ここまでの衝撃を感じたことは今までなかった。
<双頭の蛇>は、今までの幻獣とは一味違うみたいだ。
そういえばステータスを見ていなかったことを思い出し、【鑑定レベルB】を使う。
種族:モンスター
名前:<双頭の蛇>
性別:♀
レベル:100
HP:12579
MP:9858
攻撃:11653
防御:10782
魔力:9123
敏捷:10042
……レベル100の大台か。
そりゃいつもと召喚の雰囲気も変わるよな。
納得したところで、ちらりとフォンパのほうを見る。
奴の額からは、滝のように汗が流れ出ている。
実物を見れば、これがただの幻術じゃないと、理解できるくらいの勘は持っているらしい。
でも今更分かったところでもう遅い。
俺の復讐のボルテージは、今、最高潮に達している。
この昂ぶりを抑えるには、もう血の鉄槌を下すしかない。
「……殺れ」
<双頭の蛇>は口を大きく開け、紫色の粘液を吐き出した。
――ビシャア
「ぐぁっ!?」
フォンパの体中を毒液が覆う。
「さて、フォンパ君。毒液を受けた君にこれから起こることを、懇切丁寧に説明してあげよう。俺は親切なんでね」
<双頭の蛇>の毒に関するメモ書きを、ポケットから取り出し、読み上げる。
「<双頭の蛇>の毒を受けると、まず初めに筋肉が麻痺する。そして次に、横隔膜が麻痺して、呼吸が止まる……今が丁度その頃合いか?」
「ぐっ、がぁっ」
――カラン、カラン
フォンパは持っていた双剣を床に落とす。
麻痺で剣を握ることができなくなったようだ。
「それから血管の細胞が破壊され、体の内外で出血が起こる。毒の作用により、流れる血は決して固まらない。全身が血で溢れ、内臓が破壊されていく。体中の内臓が、悲鳴を上げながら壊死していく。そのしんどさは……嗚呼、俺には想像できないな」
フォンパは無表情のまま涙を流している。
もはや表情筋すら麻痺しているようだ。
「後悔してるか? してるよな? ……わかったら、今後差別をやめるんだぞ」
フォンパの口を開けて、粉の包みを放り込む。
これは、万が一の時のために、リアが用意してくれた特製の解毒薬だ。
一流の【調合師】が作った、値打ち物らしい。
「がはぁっ! ……はぁ、はぁ、はぁ」
薬の効果が早くも出て、呼吸ができるようになったみたいだ。
「ぐっ、うぅ、あんまりだ……ぐすっ、ぐすっ」
四つん這いの姿勢で、赤子のように泣きじゃくるフォンパ。
「それじゃあな、フォンパ。これに懲りたら、新人いびりもほどほどにするこったな」
背を向けながら、あばよっと手をあげてその場を去る。
これでまた一つ、復讐が終わった。
胸のすく思いで、リィルたちのいる場所へと帰るのであった。
0
お気に入りに追加
1,404
あなたにおすすめの小説
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
冤罪をかけられ、彼女まで寝取られた俺。潔白が証明され、皆は後悔しても戻れない事を知ったらしい
一本橋
恋愛
痴漢という犯罪者のレッテルを張られた鈴木正俊は、周りの信用を失った。
しかし、その実態は私人逮捕による冤罪だった。
家族をはじめ、友人やクラスメイトまでもが見限り、ひとり孤独へとなってしまう。
そんな正俊を慰めようと現れた彼女だったが、そこへ私人逮捕の首謀者である“山本”の姿が。
そこで、唯一の頼みだった彼女にさえも裏切られていたことを知ることになる。
……絶望し、身を投げようとする正俊だったが、そこに学校一の美少女と呼ばれている幼馴染みが現れて──
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!
KeyBow
ファンタジー
日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】
変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。
【アホが見ーる馬のけーつ♪
スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】
はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。
出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!
行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。
悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!
一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!
転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!
死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜
猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。
ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。
そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。
それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。
ただし、スキルは選べず運のみが頼り。
しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。
それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・
そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる