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第十八話 幻術士は復讐するⅡ

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 冒険者ギルドでリィルと別れてからすぐ、メンビル外郭付近に位置する煉瓦レンガ屋敷にやってきた。

 何故ここに来たのかというと、それは――復讐のためだ。

 ――ドンドンドンッ!

「御免くださーい」

 ――ドンドンドンッ!

「出てきてくださーい!」

 ――ドンドンドンッ!

「居るのはわかってるんですよー、フォンパさん!」

「――誰だよ、うるせえなっ!」

 名前を呼んだところで、ようやく反応が返ってきた。

 錆びついた蝶番ちょうつがいが、ギィと音を立てて回り、扉が開く。

「あん? お前は昨日の糞ったれ【幻術士】じゃねぇか……何の用で来やがった?」

「逃げるなっていったのはあんたじゃないですか。俺は今日、<双頭の蛇>アンフィスバエナを倒して、この街に戻ってきたんですよ」

<双頭の蛇>アンフィスバエナを倒しただと? 馬鹿言ってんじゃねぇよ」

 目じりを険しく釣り上げて、俺を睨みつける。

「……くくっ。そう簡単には信じられないですよね。安心してください、あんたに見せる分のMPは残しといたんでね」

「お前、何言ってやがる?」

 フォンパはイライラした様子で、腰に帯びた双剣に手を当てる。

 口答えするなら、切り伏せるぞとでも言わんばかりだ。

 おお、怖い怖い。

 ……怖い人には、怖いモンスターで対抗しなくっちゃね。

 今日手に入れたばかりの結晶を取り出し、魔力を込める。

 <双頭の蛇>アンフィスバエナの幻像は、屋敷に巻き付く形で出現した。

「……ひとんちの前で幻術なんか使ってんじゃねえよ、縁起悪ぃ。んぞこら」

 ついに双剣が引き抜かれた。

 全く、怒りっぽい奴だ。

「まあまあ、黙って見ててくれよ。ここからが【召喚士】クロスの、ショータイムなんでね」

「はぁ? 【召喚士】だ?」

 そう、【召喚士】だ。

 答える代わりに、幻像に魔力を入れる。

 ――バチバチ、バチバチ

 大気が揺れ、稲妻がほとばしる。

 召喚するときに、ここまでの衝撃を感じたことは今までなかった。

 <双頭の蛇>アンフィスバエナは、今までの幻獣とは一味違うみたいだ。

 そういえばステータスを見ていなかったことを思い出し、【鑑定レベルB】を使う。


 種族:モンスター
 名前:<双頭の蛇>アンフィスバエナ
 性別:♀
 レベル:100
 HP:12579
 MP:9858
 攻撃:11653
 防御:10782
 魔力:9123
 敏捷:10042


 ……レベル100の大台か。

 そりゃいつもと召喚の雰囲気も変わるよな。

 納得したところで、ちらりとフォンパのほうを見る。

 奴の額からは、滝のように汗が流れ出ている。

 実物を見れば、これがただの幻術じゃないと、理解できるくらいの勘は持っているらしい。

 でも今更分かったところでもう遅い。

 俺の復讐のボルテージは、今、最高潮に達している。

 このたかぶりを抑えるには、もう血の鉄槌を下すしかない。

「……れ」

 <双頭の蛇>アンフィスバエナは口を大きく開け、紫色の粘液を吐き出した。

 ――ビシャア

「ぐぁっ!?」

 フォンパの体中を毒液が覆う。

「さて、フォンパ君。毒液を受けた君にこれから起こることを、懇切丁寧に説明してあげよう。俺は親切なんでね」

 <双頭の蛇>アンフィスバエナの毒に関するメモ書きを、ポケットから取り出し、読み上げる。

<双頭の蛇>アンフィスバエナの毒を受けると、まず初めに筋肉が麻痺する。そして次に、横隔膜が麻痺して、呼吸が止まる……今が丁度その頃合いか?」

「ぐっ、がぁっ」

 ――カラン、カラン

 フォンパは持っていた双剣を床に落とす。

 麻痺で剣を握ることができなくなったようだ。

「それから血管の細胞が破壊され、体の内外で出血が起こる。毒の作用により、流れる血は決して固まらない。全身が血で溢れ、内臓が破壊されていく。体中の内臓が、悲鳴を上げながら壊死していく。そのしんどさは……嗚呼、俺には想像できないな」

 フォンパは無表情のまま涙を流している。

 もはや表情筋すら麻痺しているようだ。

「後悔してるか? してるよな? ……わかったら、今後差別をやめるんだぞ」

 フォンパの口を開けて、粉の包みを放り込む。

 これは、万が一の時のために、リアが用意してくれた特製の解毒薬だ。

 一流の【調合師】が作った、値打ち物らしい。

「がはぁっ! ……はぁ、はぁ、はぁ」

 薬の効果が早くも出て、呼吸ができるようになったみたいだ。

「ぐっ、うぅ、あんまりだ……ぐすっ、ぐすっ」

 四つん這いの姿勢で、赤子のように泣きじゃくるフォンパ。

「それじゃあな、フォンパ。これに懲りたら、新人いびりもほどほどにするこったな」

 背を向けながら、あばよっと手をあげてその場を去る。

 これでまた一つ、復讐が終わった。

 胸のすく思いで、リィルたちのいる場所へと帰るのであった。
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