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第十七話 人形師は湯に浸かる

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 ――ちゃぽん。

 水滴がしたたり、リアのぷるっとした肌が艶めかしく映る。

「リアのお胸……大きくていいな」

 自分の慎ましやかなものと見比べて、ついそんなことを呟いてしまった。

「にゃははっ、触ってみるー? そのかわり、リィルのも触らせてもらうけどねー」

 リアは手を空中でわしわしとしながら、冗談っぽく笑う。



 ここはメンビルのとあるお風呂屋さん。

 <双頭の蛇>アンフィスバエナ討伐の報告をした後、リアがわたしと一緒にお風呂に入りたいと言い出したので、クロスと一旦別れて二人で湯船につかっている。



「ここの温泉はすごいんだぞー! マグマで溶かされた岩の成分が入ってるとか何とかで、お肌がスベスベになるんだってー」

「……へぇ」

 乳白色のお湯につかった自分の肌を撫でてみる。

 ……確かにスベスベになっているような気がする。

「それにしてもリィルは、お風呂に入るときでも人形と一緒なんだねー」

「うん、これはお風呂用のお人形……。木で出来てて、いい匂いがするの」

 人形に鼻を近づけ、「あー、確かにいい匂いだー!」とはしゃぐリア。

 今日一日一緒に居てわかったけど、リアはわたしと違って底抜けに明るい。

 おまけに美人だし、ランクAの冒険者だし、日陰者のわたしからすると、とっても眩しい。

「ねぇ、ところでリィル? クロスとはどういう関係なのー?」

「……え?」

「だからー、クロスとの関係だよー! 二人は付き合ってたりするの?」

「……クロスは、わたしを助けてくれた人。奴隷だったわたしに、光を見せてくれた人。付き合っては……いない」

 リアは「にゃははっ、そうなんだー」と言ってから、



「じゃあ、うちが彼を狙っちゃおうかなー」

 意地悪く、にやりと笑った。



「――――っ!?」

 言葉が出なかった。

 ユラユラとしていた心に、ずしりと重しをのせられた感じ。

 何か喉まで出かかっているのだけれど、それがでてこない。

 モヤモヤして、気持ち悪い。



 今、わたしはどんな表情かおをしているのだろうか?

 悲しんでるのか、怖がってるのか、怒ってるのか、あるいは……。



「なーんてね、冗談だよー。でも意外だなー、てっきりリィルはクロスのこと……」

 そこまで言って、リアは自分の頭をコツンと叩く。

「おっと、つい調子に乗ってしまった。リアちゃん反省しまーす」

 ごまかすように口笛を吹き始めるリア。



 ――ドクッ、ドクッ

 心臓の鼓動が聞こえる。

 さっきの気持ちは何だったのか、胸を押さえて考える。

 クロスはわたしの恩人で、旅する仲間。

 差別される人たちの味方で、頼れる人。

 わたしの光であり、希望。


 そしてわたしの……。


 わたしの……。


 そこまで考えて、再び胸が苦しくなった。

「リィル、顔真っ赤じゃない!? 大丈夫!?」

「うん……大丈夫。ちょっとのぼせちゃったから、先あがるね」

 最後にざばっとかけ湯してから、お風呂をあがった。

 空気はひんやりとして、冷たい。

 でも心は熱を持ったまま、モヤモヤし続けるのであった。
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